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退行してから理解した銀行員としての限界について(ジレンマや知識経験など)

都市銀行員時代

私は計8年間都市銀行にお世話になり、新卒から約5年半の間、法人融資担当として企業を担当させていただいた過去があります(残りの2年間半は本部にて審査部と事業承継関連の部署に在籍)。
下町の零細企業から東証一部の大企業まで多くの企業を担当させていただきました。
フィールドセールスでの経験は最後の2年半の大手町生活とはまた一線を画し、感動や力不足を感じるなど本当にドラマチックな貴重な経験をさせていただいたと感謝しております。

銀行に入った経緯は大学部活動のOBがいたことや当時リクルーター制度があったのもありますが、将来的に実家の商売を継ぐのであれば色々な経営者に会えることも魅力的に感じたことも大きな要因でした。

退行後、製造業と情報サービス業という事業会社での経験や、ビジネススクールで学んだ原理原則、現在の財務伴走支援を経て得た実務経験から、「何故自分が銀行員時代に経営者や財務責任者に寄り添えきれなかったのか?」の理由と「フィールドセールス(≒営業店)というキャリア1本だけでの限界」について分かってきた部分があるのでここに言語化して記しておきたいと思います。

評価(稼ぐ)とのジレンマ

銀行業を1)金利収入、2)非金利収入に分けた場合、いわゆる銀行の祖業である融資は金利収入に分類されます。
融資自体の差別化要素が少なく、銀行間での競争激化により低金利となり1件ごとの利鞘(≒儲け)が小さくなっています(名古屋金利という水準が関東まで進出しているそうです)。
銀行業は莫大な固定費を抱えるコスト構造なので、利鞘が取れないとなるとボリューム(件数か融資金額)を追いかける必然性が生まれてきます。
そうすると規模の大きな融資を追いかけることになります。
(代表的な非金利収入であるデリバティブも金商法の厳格化で販売しにくくなっている背景もあると思います)

ちなみに金利が同じという前提であった場合、1千万円の案件と1億円の案件の融資実行までにかかる時間はほぼ変わりませんので、1億円の案件を取り扱った方が銀行の視点としては生産性(金利収入/時間)が高いということになります。

財務諸表のバランスシート(B/S)を見たときに真っ先に運転資金(売掛債権+棚卸資産-買掛債務)を確認し、融資できる金額があるかの確認を多くの営業担当がしていたりします。

ここが本当に企業に寄り添えないジレンマが発生していた要因です。
運転資金はキャッシュマネジメントなので、キャッシュの回転をよくすると運転資金は小さくて済みます。
つまり、運転資金が発生する要因の売掛債権および棚卸資産の期間を短くし、買掛債務の期間を長くする手を打てないか?が顧客視点では大切になってきます。
(キャッシュマネジメントとは「運転資金の各要因の期間をマネジメントする」ことを言っているのです)
しかし銀行員として稼ぐという活動が起点になると「運転資金の各要因の期間をマネジメントする」という提案をする発想が起きず、「いかに運転資金の枠内で融資を実行するか」という視点になり、顧客の経営視点上の悩みに共感できないジレンマが発生していたのです。
注)キャッシュマネジメントに関しては「3つ目の資金調達」で今後触れたいと思います。
実際に支援させて頂いている企業様では、交渉により「預け金」を減らすことで資金繰りが改善し資金調達の必要がなくなりました。

置かれている環境要因

私が銀行でフィールドセールスをしていた約8年前、営業店は正直かなり忙しかった記憶があります。その要因は業務の多さだったからだと思います。
なぜ多忙だったのか以下の要因が挙げられます。

1)1人当たりの担当企業数が多い(50−100社は当たり前)
2)内勤のプロセスが多い(営業活動に加え稟議や事務作業の内勤のプロセスが多い)
3)情報管理が厳しく持ち帰り業務ができない

などと思います。

金利収入・非金利収入問わず案件が発生すると担当している企業の中の1社当たりの作業時間が増えるので、1社当たりの理解度という意味でばらつきがでてくるのと、そもそもキャパシティを超え気味なので1社当たりの理解度には限界がでてきます。

例えばウェブマーケティング会社を担当した場合、

大カテゴリー:情報サービス業
中カテゴリー:ウェブマーケティング
小カテゴリー:SEO / リスティング / コンテンツ制作

と認識するレイヤーがあったとします。

小カテゴリーにおいて、SEOとリスティングのどちらを主業と置いているかでビジネスモデルは異なるはずです。ウェブマーケティングは広告関連なので景気に左右されやすいはずですが、リスティングよりもSEO対策の方が顧客企業は継続的に投資していかなければならないはずなので、SEOを主業としている企業の方がリスティングと比較して景気抵抗性があると言えるでしょう。
しかしながら、銀行員の置かれている環境から1社1社小カテゴリーのレイヤー理解までできる余裕がないのが実態だと思います。
銀行員が中カテゴリーレイヤーのウェブマーケティング会社と捉えると「不景気の環境下においては企業は広告費を削減するはずだから追加融資は控えておこう」という判断になります。
私も銀行員時代に事業の理解ができなかったのが、事業を捉える粒度の限界があったと感じています。
また、現状のビジネスモデルの変化の速さも余計に事業会社側と銀行員の知識格差を生んでいる背景かと思います。
注)「未上場中小企業ではなぜ金融機関へのIRが必要なのか」という記事も今後書いていきたいと思います。

また、資金の貸し手と借り手という立場も情報の非対称性を生み出す1つの要因とも感じています。

踏み込める領域

詳しい説明はここでは割愛させて頂きますが、銀行員が入手できる財務諸表からの「財務分析」だけでは経営陣が意思決定に活用できる情報が手に入らないということが今になって理解できました。
本当に企業を良くしていくのに必要な会計は「管理会計」であり、そのためには事業ごとに、もっというと企業ごとに踏み込んだ固定費と変動費の色分けを経営陣と膝を付き合わせてディスカッションし、コストダウン策と予算策定/管理を共に創る必要があります。
売上が2倍になると売上原価も2倍になる企業もありますし、売上が2倍になると売上原価がそのまま2倍とはならない企業もありますので、財務諸表で分析していくと意思決定に必要な情報自体に間違いをきたすことに繋がります。
やはり経営陣と膝を付き合わせながら本当に事業を理解した管理会計を行える時間が必要なのです(もちろん信頼関係も)。


また、財務分析から抽出できる課題の原因は現場からしか抽出できないので、結局財務分析だけでは真因まで辿り着けないのです。

業務経験と知識

銀行(他人資本家)と投資家(自己株主)はそもそも負っているリスクが違います。銀行の方がとるリスクが低いので、結果的に保守的な情報に基づいて融資判断をすることになります。

銀行(他人資本家):実績重視(財務諸表)
投資家(自己株主):将来生み出すキャッシュフロー重視(予測財務情報)

なので、銀行員としてはやはり不確実性の高い将来の情報より、過去の実績である財務諸表(決算書)を基に融資の判断を行うことは理に適っているのです。

また、経営陣と膝を付き合わせる時間もなかなか取れないため管理会計を活用する経験や知識もなかなか普段の業務経験から得られない実情もあります。

なので、将来の財務情報を扱うファイナンスの知識や経営に必要な情報を提供する管理会計という経験と知識は営業店にいるだけでは身につきにくく、企業の投資判断や進む方向性への具体的アドバイスができないことは財務諸表(決算書)に重きを置く弊害でもあると感じてます。

以上が「何故自分が銀行員時代に経営者や財務責任者に寄り添えきれなかったのか?」と「フィールドセールス(≒営業店)というキャリア1本だけでの限界」を振り返った内容になります。

現役銀行員に向けてのメッセージ

M&Aのジャッジをする投資銀行部門やベンチャーキャピタル部門に積極的に飛び込み、投資判断のためのファイナンススキルや、できれば事業会社に出向するチャンスがあれば踏み込んだ管理会計スキルを高めるのも今の私からのアドバイスとなります。
1件当たりの儲けが小さくなっている環境から、営業店の存在意義が問われる苦しい状況であることは理解できますが、中小未上場企業にとって外部からの数少ない資金調達先であるというプライドを持ってこれからも活躍して欲しいと思います。

企業の経営陣に向けてのメッセージ

色々な要因も絡んで昔よりも銀行員に対して積極的に企業側からコミュニケーションを図っていく必然性を感じております。主に銀行が評価する軸としては1)ヒト・モノ・カネの企業評価、2)融資案件(資金の妥当性)そのものの評価があります。それぞれコミュニケーションする内容もタイミングも違います。ぜひ、銀行へのコミュニケーションを積極的にとってみてください。私はいつでも喜んで支援させて頂きます。

<お問い合わせ先>
モノサシ株式会社
代表取締役
古畑 輝英
info@monosashi.co.jp
https://www.monosashi.co.jp


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