見出し画像

「ナポレオン」というトランプゲーム

 トランプに「ナポレオン」という遊びがある。高校時代、これに熱中した。しかもルールを付け加えて面白くしていったために、いつも特定のメンバーで遊ぶことになった。では、ナポレオンにどのようなルールの改造をしたのか。その内容をまとめてみた。

 ナポレオンというトランプゲームは、トリックテイキングという部類に属する。詳細は割愛するが、出したカードの強さで毎回の勝敗を決めていき、宣言した数以上の点数札を取得できたかどうかで総合勝者を決めるというルールだ。ここで点数札というのはAKQJと数字札の10のことであり、最大は20点になる。

 以下では省略のために、トランプの個々のカードのことを「札(ふだ)」と呼ぶ。ナポレオンは、5人でプレイするのが最適にデザインされている。最初に誰がナポレオンになるかは立候補で決める。取れると宣言した点数札の枚数が一番多い人がナポレオンになる。立候補するかどうかは自分に配られた札の強さで考える。通常はAやKの札は強く4や3など小さい数字の札は弱い。毎回の勝負は、札の強さの比較で行われるからである。

 立候補するときに切札のマークを決める。切札であれば、数字が小さくても、他のマークの札に勝つことができる。このことは、ナポレオンになれば、持っている札の資産価値が向上することを意味する。特定のマークの札を沢山持っていたり、後述する役札を持っている場合は、俄然としてナポレオンに立候補したくなるだろう。

 また、カードは52枚あるので、5人に10枚ずつ配ると2枚が余る。これを伏せておいて、ナポレオンになった人は、この2枚を手札に加え、そこから不要と思われる2枚を伏せて捨て札にすることができる。伏せた2枚はナポレオン以外は知ることができない。こうして、ナポレオンは、自分の札の資産価値を高めてから勝負を始めることができるのである。

 5人でのプレイが最適と述べたが、これはナポレオンが1人の副官を指名することができ、ナポレオン軍2名vs連合軍3名というバランスの良い対決構図が生まれるからである。しかも、副官は、ナポレオンが「○○の札(を持つ人)」という形式で指名するので、終盤まで誰が副官なのか判明しないこともあり、それも戦略に面白さを付け加えている。

 役札というのは、札の強弱において、絶対的な地位を与えられたカードのことである。スペードのAを「マイティ」と呼び、最強のカードと位置づけられる。次に強いのは切札のJであり「セイジャ(正J)」と呼ぶ。三番目に強いのは切札と同じ色のもう一つのJであり「ウラジャ(裏J)」と呼ぶ。この3枚は三役と呼ばれ、副官指名に使われることが多い。

 ナポレオンは、イギリス発祥のゲームと言われているが、日本で独自のルールとして発展したものらしい。高校で我々がこのゲームを始めたとき「セイム2」というルールが既に存在していた。それは全員が同じマークの札を出したときは、役札が含まれる場合を除き、2の札が最強になるというルールである。

 普通は、小さい数字の札は勝負では役に立たないことが多い。このため、最初に配られた札を眺めたとき、小さい数字の札が多かったりすると、がっかりするものである。しかし、2の札がある条件では最強になるという「セイム2」のルールは、その格差を緩和させることを理解した。それだけでなく、これから説明するルールの拡張の意欲を掻き立てた。

 特定の地域や集団だけで適用されるルールをローカルルールと言う。我々5人は、ナポレオンを遊ぶときに面白さが増すように、協力してローカルルールの構築を進めていった。

 後に学んだことであるが、カードゲームの設計では、それぞれのカードが何らかの存在意義を持つようにバランスをとるのが理想とされる。『人は皆それぞれが役割を与えられて存在している』という考えにも通じるところがある。「セイム2」とはそのような効果を持つものであったことを遡って認識した。

 では、ルール拡張の話を進めよう。「セイム2」にヒントを得て我々は「セイム3」を考案した。これは、全員が同じマークの札を出したとき、Aが出ている場合は、3の札が最強になるというルールである。全能のマイティもAであるが、それも例外ではなくなった。

 次に、4番目の役札になる「ヨコジャ(横J)」を考案した。これは切札の色とは違うJのうち顔が横を向いているスペードかハートのJである。横Jは裏Jの次に強いことになる。

 そして、それまでは52枚の札しか使っていなかったところに1枚のジョーカーを追加して53枚とした。ジョーカーは、役札であるが、最弱であり点数札にもならない。ただし切札請求という効果があり、最初に出すと他の人は切札を持っていれば出さないといけない。しかし、ジョーカーの真の能力は、正Jが出ている場合にジョーカーが最強になるというルールで発揮される。

 最後に、「リバースの6」というルール。6の札を出した場合は、札を出す順番が通常は時計回りであるところ、それが反時計回りになるという効果である。札は途中よりも最後に出す人が有利になるので、回る方向は重要になる。

 このように、我々のナポレオンはローカルルールで著しく脚色されたので、非常に面白くなった反面、メンバー交代が難しくなり、在学中の3年間は5人の同じメンバーでずっとこのゲームを続けた。今では懐かしい思い出である。


トランプゲーム・ナポレオンで遊ぶ少年

この記事が参加している募集

#思い出のボードゲーム

479件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?