経営戦略を考える 戦略と計画の違い

僕は企業の戦略提案や実行のお手伝いをしていますが、よく経営戦略はいまいちよく解らないという言葉を聞きます。この中でよく話題に上るのが、「戦略」と「計画」の違いです。そこで今回は、戦略と計画の違いから、経営戦略について考えます。

違いを考える前に、例によって、まずそれぞれの意味を確認しましょう。

・計画とは
[名](スル)ある事を行うために、あらかじめ方法や順序などを考えること。また、その考えの内容。もくろみ。プラン。「―を立てる」「―を練る」「工場移転を―する」                    (大辞泉)

つまり計画とは、決められた作業などを、どのような方法と順序で行うかを考えることです。

・戦略とは
[1] 戦争に勝つための総合的・長期的な計略。→戦術
[2] 組織などを運営していくについて、将来を見通しての方策。「経営―の欠陥」「―的人生論」「販売―を立てる」◆ 具体的・実際的な「戦術」に対して、より大局的・長期的なものをいう。           (大辞泉)

戦略は目的を達成するためのシナリオやルートマップと言い換えればよいかと思います。

・計画と戦略の違い
計画とは、ビジョンや方針、目標設定(KPI)と実現のために何を行うかが決まっているとき、そのプロセス(手順)を確実に実行するための順番や方法です。
1990年代後半、中国で改革解放政策により社会市場主義が推進されたときのことです。それまでとは異なり、成果によって賃金が変わることから、ある工場のある部署で、頑張ってたくさん部品を作りました。ところが、全体の生産量を越えた部品を作ってしまったため、結局その部品は、倉庫にも入らず、雨ざらしで錆びてしまいました。

これは、明らかに生産計画が欠けていたためです。笑い話のようですが、実際に、これに近い話で相談を受けるこおはままあります。

この計画の立案と実行が、経営学で言う「マネジメント」です。経営学の基礎的な教科書では、この「マネジメント」を、「トップマネジメント」と、6つの「機能別マネジメント」として説明しています。

これに対して、戦略は、企業の将来的なビジョンや方針を実現するためのルートマップです。このルートマップは、例えば目的地が同じでも、誰が行くのか、誰と行くのか、いつ行くのか、どうやって行くのか、予算など、様々な条件によって異なります。

例えば、旅行の計画を立てるとしましょう。
学生さんなら、予算に限界があります。自動車で行くのか、電車で行くのか、電車なら新幹線、特急、ローカル線と選択肢があります。観光シーズに行くのか、シーズンオフに行くのかでも変わります。季節によっては、持っていく物も変わります。遠い場所なら、途中で泊まる場所も考える必要があります。スケジュールによっては、食事のことも考えなければなりません。

テレビでは、タクシーやローカル線のバスの旅が人気ですが、番組の通り、スタートする前に、先のことを予測してルートや食事場所、宿泊地を考えなければなりません。

企業経営においては、例えば5年後、10年後のビジョンや方針を明確にし、将来の選択を考えなければなりません。旅の例で言えば、社会の変化、技術発展、消費者の行動や嗜好、市場や経済の状況判断、自社の経営資源など、様々な条件を予測し、準備する必要があります。

これが「経営戦略」です。

・「計画」と「戦略」 それぞれのフレームワーク
経営のフレームワークというと、多くの方がまず思い浮かべるのが「PDCA」ではないでしょうか。Plan、Do、Check、Actionのサイクルで作業の内容を改善するものです。
ちなみに僕は「PDCA」ではなく「PDSA」と言っています。この理由は、今回は割愛します。(講義では、「PDCA」で説明した後、「PDSA」という話をします。)

経営学では、「PDCA」はマネジメントサイクルと呼ばれており、文字通り経営計画の実行と改善をするための手法です。実際には一連の業務や作業の結果から問題点や改善点を導き出すもので、どうしても時間がかかり、変化への対応には向いていません。

これな対して、経営戦略では「OODAループ」が代表的です。OODAループは、米軍が意思決定と行動についての理論で、観察(Observe)、情勢への適応(Orient)、 意思決定(Decide)、行動(Act)、 ループ(Implicit Guidance & Control, Feedforward / Feedback Loop)の手順で状況を判断し、意思決定を行います。近年の「デザイン思考」の考え方もこのOODAループから生まれたものとされています。
そのためOODAループは対応力が高く、即応性に優れているため、戦略の実現に適しています。

・再度フレームワークから考える
「PDSA」と「OODAループ」について、目的が異なることがお解り頂けたかと思います。「PDCA」(マネジメントサイクル)は、計画の実行・改善が目的であることに対して、「OODAループ」は、状況に応じた意思決定が目的です。

つまり、、、

マネジメントの対象である「計画」は「最適な順序と方法」です。一方、「戦略」は「環境や変化に応じた意思決定」です。

新型コロナウィルスの影響によって、世の中の状況が急速に変化しているという話を耳にします。しかし多くの問題は、これまで放置してきた問題に、即応しなければならなくなっただけというものが少なくありません。

今こそしっかりとした戦略が必要なときなのです。

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