マネジメント マネジメントに見る具体と抽象

僕はCCDO(中部デザイン団体協議会)という団体で、事業委員会の委員を担当しています。この委員会では、デザイン相談を受けている他、毎年デザインセミナーを開催しています。

今年はこのセミナーの内容を大きく改変し、デザイナーがファシリテーターを務める形式のデザイン思考セミナーになりました。
僕は今回、このセミナーの内容を監修しましたが、その中で、問題定義の段階で「抽象的思考」の手法を用いました。

抽象的思考はビジネスの世界でも重要視されていて、書籍なども多く出されていますが、なかなか難しいようで、ファシリテーターを務めた方や、セミナーの参加者の方からも「本は読んだけど実際に活用するのは難しい」といった声を聞きました。
以前、思考法について記しましたが、どんな思考法でも、普段から訓練していなければ活用できるものではありません。また背景となる「姿勢」のようなものがあって、例えば「問う姿勢」や「そもそも何が」といったような、物事の本質を見極めようとする姿勢がなければ、活用することができません。

そこで今回は、マネジメントという視点から、僕が実際に企業と関わる内容を事例に考えます。

・CIの中核BI
僕が企業と関わる仕事の1つにCI(コーポレートアイデンティティ)戦略があります。
CIの構成要素は、MI:理念の統一、BI:行動の統一、VI:視覚の統一の3つがあります。この中で、僕は特にMI、BIの策定と戦略について行います。
VIももちろん大切ですが、僕はMIとBIの確立こそがCIの本質だと説明しているので、ロゴなどのビジュアルは手を付けないことも多いです。

さて、MI、理念の統一についてはあまり説明は必要ないと思います。しかしBI、行動の統一については、驚くほど知られていません。

行動の統一とは、業務だけでなく、その企業の一員としての言動や考え方、態度などを指し、元来の意味の、CIの中核を成すため、僕がとても力を注ぐ部分の1つです

・企業のルールさて、このBIですが、僕はそのれぞれの「企業のルール」という形で策定します。
企業のルールには、就業規則や作業規則など様々なものがあります。僕はこれ以外に、その企業の一員としての基本ルールを策定します。そしてこの「企業のルール」には2つのルールがあります。

①企業のルール1 行動のルール
行動のルールとは、文字通りその企業のいち員として取るべき行動や、業務に携わるときに、最も重視し、守らなければならないルールです。

②企業のルール2 姿勢のルール
姿勢のルールとは、その企業の一員としての心構えや、業務に携わるときに心がけるべき姿勢のルールです。

さて多くの企業では、適切なものかどうかは別として、企業理念や経営理念が策定されていますし、ミッション、ビジョン、バリュー、また最近ではパーパスといったものが策定されています。しかし残念ながら、これらが機能している例はとても少ないです。
実はこうしたものは定期的に流行します。例えば「クレド経営」などがこれにあたります。その度に多くの企業で取り入れられるのですが、ほとんどの場合、一時的な取り組みで終わっています。

この最も大きな原因は、導入する経営者が、その役割や仕組みといったものを理解していないためで、さらに言えば、形だけ導入しているだけで、企業文化や習慣を変革させるという認識がないからです。

これは社会科学者としての、僕個人の感想ですが、、、時代の変化に合わせて、企業文化を変革しようとしない経営者の方に、社会が変化しないなどと言われても、苦笑してしまいます。

・企業のルールの具体と抽象
かなり遠回りをしてしまいましたが、、、

さてここまでの話の中で、企業のルールの「姿勢のルール」は、「抽象的」なルールです。このルールは「姿勢」ですから、企業の理念やビジョンに基づいた価値観や考え方になります。しかしこうした「姿勢」は、あくまでも概念なので、実際には同じ考え方や価値観を共有できているかはわかりません。もちろん、社内で議論などを重ねていけば共有することができますが、特にCI戦略が必要な状態ならなおさらです。
これに対して「行動のルール」は「具体的」なルールです。姿勢のルールを遵守するために必要な具体的方法であり、実現手段とも言えます。

この著名な例がリッツカールトンホテルのクレドです。

リッツカールトンホテルのクレド(モットー)には、「スタッフは紳士淑女をもてなす紳士淑女」という内容が記されています。
しかしそのカードの裏側には、「お客様と同じ態度で従業員同士が接する」という内容が記されています。

世界的にも有名な高級ホテルですし、西洋の基準のような考え方もあるでしょう。しかし「紳士淑女」とはどういった人物なのか、それはなかなか定義づけることはできません。
しかしこのホテルの顧客であれば、それなりの立場を持った人も多いでしょう。このホテルのサービスに相応しい態度で、従業員同士が接するのですから、企業内のコミュニケーションや作業効率だけでなく、風紀も保たれることでしょう。

今回は「企業のルール」を例に、具体と抽象について考えました。

つまり、より高い理念やパーパスを設定するほど、その考え方は抽象的になり、受け取り手の能力を必要とします。

しかし適切な具体的指針を示すことで、これは容易に実現できます。


言い換えれば、より高い理念をせってするためには、抽象的思考が不可欠なのです。

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