マネジメント システム=ITではない

先日、経営戦略の集中講座を開催しました。経営戦略では、企業戦略、事業戦略、そしてこれらを実行するための機能分野別戦略が必要になります。

機能分野別戦略の1つに、「情報システム戦略」があります。情報は企業の意思決定には不可欠です。ただ、「情報システム」と言うと、どうしてもコンピューターの方に目が行ってしまうようです。
ましてや近年、DXという言葉が取り沙汰されていることや、新型コロナウィルスの影響による、テレワークの普及などがありますから、このような味方になるのは仕方がないでしょう。

・「システム」とは
システムという言葉を目にすると、強く印象に残っている思い出があります。

大学院へ進学してすぐの頃、僕はよく言葉のミスでお叱りを受けました。今思えば、研究者(学者)志望だったので、将来論文を書かなければなりませんから、より厳しくご指導を頂いていたのかもしれません。とは言え、やはり僕が、他の学生より、言葉で多くのお叱りを受けていたように思います。

労務管理特論という講義のときのことです。
僕が何気なく「労務管理システムが〜」と言ったところ、先生が不快な顔をなさりました。咄嗟に「やっちゃった」と思った僕は、その後の言葉が出ませんでした。すると先生は「システムを日本語に言い換えなさい」と仰いました。

僕が大学院に進学したのは1996年のこと、折しもWindows95が発売されたときで、IT革命元年とも言える時期です。大学生のとき、既にレポートや卒論はワープロで作成しており、大学卒業と同時にパソコンに変えました。
レジメなどは全ての学生がパソコンを使用していて、先生は誤字などに不快な顔をされていましたから、一気に広まった、「システム」という言葉の使い方がお気に召さなかったようです。

話を戻して、結局僕は、「システム」の日本語を答えることができませんでした。すると先生は、「システムは日本語訳の主要なものでは『体系』という意味だ。君の使ったシステムは適切かな」と仰いました。

つまり元来、「システム」は、コンピューターとは関係がありません。
まあ、よく考えてみれば当然ですね。システムという言葉は、「共に」と「立てる」という言葉を合わせたギリシャ語が語源ですから、コンピューターが生まれる、ずっと前からある言葉です。

ちなみに辞書(大辞泉)では、以下のように説明されています。

システム【system】
[1] 制度。組織。体系。系統。
[2] 方法。方式。「入会の―を説明する」
[3] コンピューターを使った情報処理機構。また、その装置。コンピューターシステム。

・情報システムとは
それでは、ここで言う「情報システム」とは何を指すのでしょうか。

僕は講義などでは、「必要な情報を収集・管理・共有・活用・発信するための体系的な仕組み」と説明しています。

例を挙げましょう。

事例.1
ある顧客企業はB to Bサービスを提供しています。この企業では、現場(顧客)毎に担当者がいますが、数が多いため、担当者任せになっている現場も多い状態でした。
そのため僕は、紙のフォーマットを作成し、最新の状況を手書きで書き込み、必要な資料を加えてファイル化、そのライブラリ(本棚)を作るよう提案しました。
いずれはデジタル化しますが、まず誰もがすぐに見ることができるライブラリが必要だと感じたからです。

これは、極めてアナログな方法ですが、立派な情報システムです。そしてこの情報ライブラリを、今後どのように活用し、事業戦略に結びつけるのかが、情報システム戦略です。

事例.2
先日の集中講座では、中小・零細企業では、DXの予算がないという意見が出されました。そこで僕は、マインドマップを活用した、スケジュール管理の例を紹介しました。

これは意外とよく知られている方法なので、特に目新しいものではありません。将来的に、社内のガントチャートや、スケジューラーと連動できれば、かなり有効です。
しかしまず、社内で皆さんが見ることができる場に、手書きのホワイトボードでよいので、常に更新されていれば、社内全体のスケジュールなどが、一目で把握できます。各業務やプロジェクト、担当レベルで更新すれば、経営者がいちいち確認する必要もありません。

これも立派な情報システムです。

・目的のないDXは失敗する
ここまでの例のように、まずは情報を‘体系化’し、戦略に貢献できる状態にすることが肝要です。デジタル化は、あくまでもツールでしかありません。
体系化され、戦略として貢献できる状態の情報をデジタル化することで、始めて機能します。
また時には、デジタル化はしないという判断もあるでしょう。

例えばアルソックなどは、警備員が現場へ出向くとき、紙のファイルを持って行くそうです。
担当する建物について、緊急時に派遣される警備員が、全て把握することは不可能です。緊急時だからこそ、紙の資料が有効になります。

システム≠IT

一度ご検討下さい。

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