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「何者か」になりたいあなたとわたしへ。 夢の街"LA LA LAND"を追い求めて

桜の季節になると、田舎から上京してきたときのことを思い出す。
あの頃は目の前にあるものすべてがキラキラと輝いて、あらゆる期待に胸が膨らんで、未来には希望しかなかった。

「何者かになりたい」

東京には、そんな野望を胸に秘める人たちが全国各地から集まってくる。
夢見る18歳だったわたしもまた、大学で外国文学を専攻し、名画座でTSUTAYAに置いていないような映画を観て、中古レコードショップに足繁く通い、すきなものにどっぷりと漬かりながら、こうやって感性を磨けば立派な人間になれると根拠もなく信じていた。


日本における東京のような都市は、世界規模でいえばニューヨークやハリウッドなのだろう。
2017年の夏、はじめてロサンゼルスを訪れたときのことは、愛おしい思い出として心に残っている。

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特にハリウッドはずっと行ってみたかった憧れの街だった。世界一有名な映画館、チャイニーズ・シアターの前をはしゃぎながら横切り、舗道に埋め込まれた星形の敷石「ウォーク・オブ・フェイム」を見下ろしながら歩いて、そこに刻まれている大好きな映画監督や俳優、ミュージシャンの名前を探した。
さまざまな映画のロケ地として使用されたグリフィス天文台に上り、ジェームズ・ディーンの彫像をぺたぺた触って、ハリウッドサインをバックにポーズを取ったけれど、あいにく逆光がまぶしくて良い写真は撮れなかった。
ダウンタウンのグラミー博物館は想像以上に広く、どの展示も興味深くて、終始興奮しっぱなしだった。たぶんあそこなら、1日中いても飽きないだろう。

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宿泊したサンタモニカのホテルは海のすぐそばにあり、一歩外に出ると、これぞ西海岸といった景色を味わうことができた。
大通りからビーチに向かって伸びる桟橋を散歩してみると、レストランやギフトショップ、遊園地が立ち並び、大勢の人でにぎわっている。
その日は土曜だったこともあり、路上でパフォーマンスしているミュージシャンの卵たちをそこかしこで見かけた。

無限に広がる空と穏やかな海の境界をなす水平線を背に、ひとりバラードを歌っていた彼女の声は、力強く切なかった。
カメラを向けると、照れたように笑って"Thank you"とつぶやいた。

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アンプから低音を響かせ陽気なHip Hopを歌っていた彼は、動画を撮りながら通り過ぎるわたしを、"Pretty Baby," と指さしてくれた。

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椅子に座ってギターを弾いていた老人は、ブルースの技法でスタンドバイミーを奏でてみせた。
異国の地にいながら、その軽やかな音色に郷愁のようなものを感じて、涙が出そうになる。

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みんなみんな、実力は十分に持っているように思えた。
それでもこの土地で大成するには、きっとちょっとやそっと歌や楽器が上手いだけでは足りないんだ。
業界とのコネクションや、運や、きらりと光るなにかを持っていなければ。


彼らのようにプロの役者やミュージシャンを目指して奮闘する人々を描いた映画、『ラ・ラ・ランド』は多くの観客の心を揺さぶり、アカデミー賞やゴールデングローブ賞、ヴェネツィア国際映画祭等で脚光を浴びた。
アカデミー賞の本拠地であるハリウッドは、夢を追う人、追い続けた末に夢を叶えた人々が集まる街だ。
だからこそ、「これは僕の/わたしの話だ!」と感情移入できる仕組みになっており、業界人が絶賛しないはずがないと、映画評論家の町山智浩氏がラジオで語っていた。

タイトルになっている"La-La Land"という単語は、文字通りLA・ロサンゼルス、特にハリウッドを指す俗語であり、同時に「現実離れした、夢見がちな世界」という意味も持つ。
ラ・ラ・ランドに生きる住民たちは、「現実を見ていない」と冷ややかな視線を浴びることもある。けれど本気で夢を追ったことのない人々に、彼らを否定する権利があるだろうか?

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俳優志望の主人公・ミアは、ハリウッドの撮影スタジオにあるカフェで働きながら、来る日も来る日も映画やドラマのオーディションを受ける。彼女もまた、実力は備えているように見えるけれど、なかなか運に恵まれない。
ある日は演技を披露している最中に審査員宛に電話がかかってきてしまい、オーディションが中断される。戸惑うミアに、審査員は「ああ、あなたね。もう帰っていいよ」と冷たく告げる。

落ち込んだミアは、一緒に夢を追う同居人(ロサンゼルスは非常に物価が高いので、よっぽどのお金持ちでなければルームシェアをして家賃を節約するのが一般的)に誘われて、気晴らしに業界人が集まるパーティへと出かける。

Tonight we're on a mission, tonight's the casting call
This is the real audition
You make the right impression then everybody knows your name

今夜はオーディション 役をつかむためのミッション
印象を残せば名前を知ってもらえる

Someone in the crowd could take you where you want to go
If you're the someone ready to be found

大勢の中の誰かが 夢見た場所へ連れて行ってくれるかもしれない
見い出される準備ができているなら

Is someone in the crowd the only thing you really see?
Watching while the world keeps spinning 'round
Somewhere there's a place where I find who I'm gonna be
A somewhere that's just waiting to be found

そんな「誰か」しか見えていないの?
そのあいだにも世界は回り続けるのに
どこかに本当の自分を見つけられる場所がある
どこかで見つけられるのを待っている

自分を引っ張り上げて、夢見た場所に連れて行ってくれる誰かが現れたら、人生は180℃変わるのだと、誰もが空想する。
いつの日か見つけてもらうことを願って、シンデレラストーリーを想い描く。
でも、そんな「誰か」を待っているだけではだめなのだ。

これは余談だけれど、「信じていれば 夢は叶うもの」と歌ったシンデレラは、策士だったに違いない。
舞踏会に行って帰ってくるだけなんて、恋のチャンスを無駄にするようなもの。
かぼちゃの馬車で赴いて、相手に強烈な印象を植えつけ、おいしいところで去っていく。
もちろん、ガラスの靴というヒントをしっかりと残して。

ミアはオーディションを受けるのをやめ、自ら脚本を書き、小さな劇場を貸し切って、一人芝居を決行する。
蓋を開けてみたら初舞台の客席はガラガラで、収益を上げるどころか劇場のレンタル代さえ払えない。
演技や脚本も酷評され、夢を諦めかけたミアだったが、芝居を観た配役事務所の担当者から一本の電話がかかってくる。
それは彼女が勇気を持って一歩踏み出し、辿り着くべき"somewhere"を自力で見つけ出したからに他ならない。


わたしたちがnoteで文章を書いたり、イラストや漫画を発表したり、写真を載せているのもきっと、「誰か」に見つけてもらいたいからだ。
けど、ただ指をくわえて待っているだけじゃだめだって、そんなのわかってる。

ここはあくまでも鍛錬の場所、爪を研ぐ場所。
「何者か」になりたいのなら、行動に移さなければ。
自分がいちばん輝ける舞台は、自分で探す。
その「どこか」を見つけられさえすれば、あとは飛び込むだけだ。



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