見出し画像

地方で働くときの「お金」の話。仕事の価値とは何かを考える。

当マガジンは「元SEが」「地方の中小企業で」「経理になる」ことによるメリットを記述しています。

それの何が良いのかについては前回までに述べてきたつもりですが、今回の記事では「地方は給料が安いからきつい」という通説について考えを述べたいと思います。

「地方は給料が安い」は本当か

本当です。

思わず1行で終わりかけましたが、より正確に言えば「平均すると安い」となります。
地方でも、大都市圏に本社のある大手企業の地方事業所や支店、系列会社であるならば、全社右ならえで給料は大都市の社員と変わりません。

一方で、地方に本社を持つ中小企業となると、その安さたるや驚愕です。

筆者は社会人となって6年間は一部上場企業にいましたが、そのときの3年目の年収と、今の会社の取締役のそれが同じくらい、といえばわかりやすいでしょうか。(そのときは残業三昧で今のような不景気でもなかったので、時代背景も大きく影響はしていることは付け加えておきます)

何よりも驚きなのは女性事務社員の給料の安さ
残業がほとんど許されていない上に、アラフォーの人ですら、額面15万円台。しかも交通費込み。手取りにしたら12万です。時給換算で800円ちょっと。
それでも、欠員が出たらすぐハローワーク経由で複数の応募があるので、筆者のいる会社が特に薄遇というわけでもないようです。

既に結婚していて子供も大きく、「パート感覚+社会保険ゲット」程度の感覚で気軽に働くスタンスなら良いかもしれませんが、未婚で身なりも気にしなければいけない上に貯金もしなきゃいけないなんて立場であれば、破綻するレベルです。
実際に仕事内容と比較し低給と感じ辞める人も後をたちません。

ここまで安いと、仕事のモチベーションが上がるはずもなく、有能な女性でも力を発揮せずにいます。この問題は別記事でも取り上げた通りです。

社長も安ければ諦めもつきますが、代々世襲の企業などは、社長だけは経費の使い方も公私混同な上に田舎では考えられない高給を得ていたりします。世襲という敷かれたレールに乗ってるだけなのに、苦労して勉強してきた医者と同等かそれ以上、国立大学の教授と比較したら2倍くらいあったりします。

それが社員のやる気をますます無くしますが、そもそもそれは「持つ者」と「持たざる者」との違いなのです。先祖から受け継いだ土地を転がしているだけでサラリーマンの平均の何倍も収入を得ている人など世の中に山ほどいるわけで、そういう特権階級を羨んだらきりがありません。自分を産んでくれた両親に感謝しながら唇を噛んで耐えましょう。
とはいうものの、経営者はリスクや面倒も少なくないし、自分に代われと言われても嫌だと思うような面倒がたくさんあるのも事実であり、それを棚に上げてはフェアでありません。私は今のところ社長業はやりたいと思わないですから雇われなのです。

つまり稼ぎに関してはある程度の諦観と開き直りが必要、というと夢も希望もないようですが、次の通り必ずしもチャンスがない訳でもありません。

昇給は自分次第

多重下請けや派遣労働者などの理不尽に薄給な立場もある中で、営業職のように大きな利益を上げるなどのわかりやすい形で会社に貢献できれば、その功績に応じて大きな昇給が望めるのが中小企業の醍醐味と言えます。

大企業であれば、営業職であっても縦の序列がありますし、案件も大きなものが多く関係者も多岐にわたるので、「自分が顧客を開拓して案件を取った」といったような、自分の成果を明確にアピールできるような仕事は多くありません。

業績評価も、似た地位の人たちのグループ内で5段階くらいで評価し、ほとんどの人が真ん中評価。仮に最高評価になったとしても、肩書きがついたりしない限りは大幅な給与アップというのも難しいことが多いです。
この不公平感が嫌で大企業を辞めて成果主義の強いベンチャーや外資系企業に転職していく人も多いほどです。

中小企業では良くも悪くも個人の裁量にかかる部分が多いため、個人の業績が目立ちやすく、頑張り次第では臨時ボーナスが出たり大幅に昇給するチャンスがあります。
(それは逆に負の側面も持ちますが・・・営業の話はこのくらいにします)

では事務職はどうかというと、薄給の例として挙げた雑務中心の事務職員であったり、一見専門職風な経理であっても、その肩書きの範疇だけに業務を留めていては、大幅な昇給は見込めないでしょう。
だからといって、少し業務範疇を広げて業務効率化の活動をしたり営業の後方支援をした程度では(それも本来は会社にとって大きな成果なのですが)、大きく評価されることは稀です。
営業のように目に見える数字上の経営貢献がない限りインパクトに欠けるのです。

しかし、このマガジンで推奨する立場は「会社のシステムを管理する経理」です。そうであれば、いくらでも定量的な成果が出せるのです。

以下に例を書きますが、細かな成果を数多く積み重ねることで会社への貢献が認められ、成績優秀な営業にも引けを取らないくらいの昇給も間違い無いでしょう。

<システムのコスト削減>

システムの入れ替え・改修コストは中小企業であっても1案件数百万円以上の規模です。ただしそれは、過去の「丸投げ」状態だったときのコストです。

元SEの知識があれば、要件定義やセットアップなどのSE作業は自分でやることができ、100万、200万くらいの削減はすぐ可能になります。
なんせ大手SIerのSEやCEを動かせば、一人月100万以上は軽くかかりますから。

<ランニングコストの削減>

インターネット回線、ISP、Web・メールサーバ、電話、ケータイ、グループウェア、セキュリティ。更にはサーバー・PCやネットワーク機器などのハード保守、スポットでのシステム相談、etc.

これらも多くの中小企業では、馴染みのSIerが提案するままに受け入れており、見直しによりかなりのコスト削減が実現できる場合があります。

筆者の場合はこれらを見直した結果、月10万円以上は経費が浮いたと思います。それだけで、数万円くらい私の月給を増やしても会社としてお釣りがくるわけです。

<ホームページ更新、ECサイトの売上UP>

ECサイトを持っているかどうかは企業によりますが、もしあるのであれば、中小企業の多くは数名の社員が片手間でやっているようなところが多いです。SEO対策など少し手を加えてあげただけで何割か売上が上がることも少なくありません。

また、ECサイトはなくとも会社サイトはほとんどの企業で持っているでしょう。その作成やメンテナンスで外部業者に高いコストを払っているのならば、自分でやってしまいましょう。
デザイン面が苦手な人もいるかもしれませんが、今は綺麗なテンプレートがたくさんありますし、企業サイトならそう凝る必要もないです。

また自分を例にとると、売上は少ないながら既存のECサイトがあったので、jqueryでメンテナンス性を上げて更新の手間を格段に削減した上で、売上は1.5倍ほどになりました。また、仕組みがわからないとかで手付かずだったAmazonでも出品を開始しました。
企業サイトはもともとそれなりなものがあったのであまりいじりませんが、新事業の紹介やリクルート向けページをWordpressで立ち上げました。
大したことはやっていませんが、外注するとなるとそれなりな費用が発生したと思います。

<その他効率化多数>

システムを活用した細かい改善を続けていれば、何か新しいことが立ち上がる際には必ず声がかかる存在になります。
そこで、低コストで効果的なアイディアを提案し、あまつさえ自分で仕組みも組み立てたとしたら、それは会社にとっては利益を生むに等しい行為といえます。

筆者の会社では、基幹システムのデータ入出力の柔軟性が無く、かなりアナログな人海戦術作業を強いられていましたが、工夫をしてそれなりに自動でデータを出し入れできるようにしました。
また、エクセルのマクロを使った細かなツールは大量に作っています。

「今あるものを当たり前に活用する。できるものは自分でやる。」

これだけで中小企業の業務は格段に効率化するのです。

で、筆者の給料はどれほどよくなったかと言うと、3年足らずで基本給は以前の一部上場企業時代を超えました。役職も2階級上がりました(部下はいないに等しいですが…)。長年勤めている人たちの手前、急に金額が2倍になったりはしませんが、営業成績トップの人より大きく上がっていることを考えると、十分な評価を得ていると思います。
謙遜ぬきで、たいしてスキルあるわけでもなくたいそうなことはしていません。過去の経験と知識からできることに真摯に取り組んだに過ぎません。それでも地方の中小企業ならば社内トップ評価が得られてもおかしくないのです。

「田舎は生活費が安い」は本当か

本当です。

これも即答ですが、そうたらしめるのは家賃や駐車場など不動産の安さがあるおかげです。

また、地方ならば週末に少し車を飛ばせば、新鮮で信じられないくらい安い食品が手に入ります。また、外食についてもチェーン店は別として地元の店は都会よりだいぶ安い。

このあたりの事実をもって「可分所得は都会と変わらない」などと言う人もいますが、それは良く言い過ぎだと思います。
規模により優位性を発揮できるものは田舎の方が高いことも多いのです。激安スーパーが多いのは都会の方ですし、ガソリン、上下水道、ガスなどもそうです。コストコもありません。

しかし、なぜ安く生活できるかというと、「余計なことに金を使わなくなる」からに他なりません。

会社へも車移動なので、「ちょっと一杯」などという無駄な飲み会代は発生しません。レジャーで言えば、都会のような派手な施設はありませんが、子供向けの自然体験型施設は安く豊富。
都会にそんな場所があれば週末は激混みで、行くだけで疲れることでしょうけど、道がすいているので、隣県の施設にも日帰りですぐ行けます。
高い入場料を払うような豪勢な遊園地などはなくとも、各地域ならではの祭りやイベントに出向いてみたりなど、さほどお金を使わなくても楽しく勉強にもなる貴重な体験がたくさんできます。

つまり、物価が安いことによる恩恵以上に、休日の過ごし方も含めてトータルで「無駄な支出が減る」という表現が正しいと筆者は考えます。

そもそも、自分が何を生み出しているか?を考える。

<間接部門の利益貢献とは>

誰の給料が高いとか安いとかいう前に、そもそも考えてみてほしいのです。
自分の仕事がどれだけの利益を会社にもたらしているのか?ということを。

営業職であれば、仕事の成果が直接会社の利益なので、その金額的な貢献度合いについては考えるまでもありません。

SE職ならどうでしょう。プロフィット部門ではありますが、SE自体が客に売り込みに行くというよりは営業から案件をもらって、成果物や作業時間を引き合いに収益を得るわけです。
しかし、毎年毎年単発の案件でSEが利益を大きく稼ぐことは難しく、たいがいは昔からの優良顧客に対する保守サポートで安定的な利益を得ます
営業のように「利益を稼ぐために働いている」というよりは「働いた結果、部門収益が上がる」という感じで、ちょっと営業よりは「稼ぐ」感覚が薄そうです。

なお、このようなSEの「人月商売」には限界があり、批判もあります。「技術者の成長を鈍化させ、奴隷根性を冗長させる」とまで言う人もいます。この話をすると本題から脱線してしまうので代表的な下の書籍に譲りますが、だからSEの仕事がつまらなく過酷なものになり、力を解放できずにいるのです。

さて、他方で、事務職の価値というのは定量的に評価しにくいものです。
「間接部門」「コスト部門」などという不名誉な呼び名があるように、直接外貨を稼ぐものではないからです。

そうではあっても、営業が物を売るだけでは会社も従業員も成り立たないのも事実です。
所得税・住民税等の源泉徴収、年末調整などの税務、そして健康保険、厚生年金、雇用保険などの労務関係手続などは、(日本の行政手続きの煩雑さも相まって)非常に面倒なものでありながら、これらをきちんとこなさない限りは社員が社会人として働くことができず、社員の集合体たる会社としても存在できないわけです。

また、きちんと日々の企業活動を数値化し正しく納税するための会計処理についても、各種法律に則って行わなければ会社として体をなしません。

総務部・経理部・管理部といった部署は営業部門にはうるさがれがちですが、それらによって会社が会社として存在でき、健全な企業活動ができるというものです。これは性質が違えど営業にも劣らぬ価値を生み出していると言えませんでしょうか。

野垂れ死にはしない。結局自分がどう考えどう生きるか

<やりがいUP>

上述の通りどのような部署でもそれぞれの形で会社へ貢献しているものですが、自分が行なっている業務がどれほど世の中の役に立っているのか、対価として得ている給与が果たして妥当なものなのか、という疑問は、社会人ならば誰しもが経験する思考です。

それは業務が細分化され利益貢献の実感が得にくいほど、またエンドユーザーから離れるほど、答えに確信が持てなくなるものです。端的に言えば、自分が何を生み出して、それで恩恵を得た他人がどう喜んでくれているか、が見えないのです。

その点では、地方の中小企業で働いたほうが、自分の仕事がダイレクトに何かに影響を与えやすいし、エンドユーザーの顔も良く見えます。
経理をしながら社内の業務改善活動をすれば、自分のどの活動がどれほど数字として貢献したのかも把握できます。

きっと大企業にいた頃よりも社会に貢献できている感覚は高くなり、やりがいが増すことも多いはずです。
(もちろん大会社でないとできない大きな仕事というのがありますが、それができる方は読者対象としてませんので悪しからず)

<給料ベースはDOWNでも、結局は主体性次第>

都市圏の大企業から転職したのならば、以前より明らかに経営への貢献度が高くても、給料は下がっているかせいぜい横ばいかもしれません。
つまり、持てる力を尽くして自分で納得できる仕事をして外部に影響を与えることと、高い給与を得ることとの相関関係は、実はそう強くないということです。
仕事の内容や社会貢献度よりもむしろ、どんな企業にいるかとか、どんな職種についているか、のほうが給与との相関度合いが高いというのが世の中の現実です。

そのため、傍目から見ると仕事内容の割に多くの給料をもらっていながら、満足できずに会社を変える人や、自分の価値観に筋を通すためにあえて給与の低い企業に転職する人などがいるわけです。
いくら田舎でもきちんと仕事さえすれば生きて行くだけの給与は得られるのだから、あとはその労働の内容とそれで得られるお金の価値をどう意味づけするかは、結局自分の考え方次第というわけです。

別に「田舎では金は諦めろ、それが精神の高みというものだ」などと言いいたいのではありません。地方の方がライバルが少ないので副業で稼ぐチャンス、と考えることもできます。給料に満足いかなければ努力次第でいくらでも道は開けるというのは、都会でも地方でも結局一緒なのです。

結局のところ、自分の労働に対する「価値」は金銭だけでは測れないし、田舎だから給料が少ないというのも言い訳に過ぎないのです。

「移住支援金制度」を確認しておくべき

話はがらっと変わりますが、地方に移住してからの生活コストは安くなるとしても、引っ越し資金は大きな痛手です。そこで最後に、国の移住支援策を紹介します。

国の重点課題である地方創生の施策として、2019年度から、東京圏に5年以上住む人が地方に移住し中小企業等に就職した場合に「移住支援金」として最大100万円が支払われる制度が発足しています。

どの企業が対象となるのかについては都道府県ごとに決められます。中小企業ならどこでも対象になるわけではありません。
そのため支援金目当てで対象企業ばかり狙うのは本末転倒といえるので、あまり固執するべきではないですが、その支援が受けられる企業にはどういったところがあるのかについては、各県のサイトや県の担当課に確認しておくのが良いと思います。

国も全面バックアップ。乗るしかないでしょ、このビッグウェーブに的な事案と言って差し支えないでしょう、これは。

次の記事:


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?