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【読書録】『憎悪の依頼』松本清張

先週に引き続き、松本清張先生の短編集のご紹介。新潮文庫の全10編の短編集、『憎悪の依頼』

『憎悪の依頼』

私が川倉甚太郎を殺した原因は、金銭貸借ということになっているが、本当は……。

『美の虚像』

実業家が経営不振のため手放そうとした名画のうち、ファン・ダイクのスケッチ画が偽作だという噂が流れ始め、新聞の美術記者の都久井が真偽を調べ始める。

『すずらん』

画商の藤野猛夫の愛人である砂原矢須子が失踪した。北海道に行くと言っていた彼女の言葉を裏付けるように、札幌市内から、彼女が預けたカメラとフィルムが発見され、花盛りのスズランの群生を背景にした彼女が写っていた。

『女囚』

酒と博打に溺れ、家族に暴力をふるう父を殺して刑に服している筒井ハツは、刑務所長に、悪いことをしたとは思わない、そのために妹二人が幸福になって幸せだと語る。

『文字のない初登攀』

6年前にR岳北側V壁の初登攀(とうはん)を果たした高坂憲造は、その登攀記録がでっち上げだという噂が山岳界で広まっていることを知り、当時、高坂の初登攀を目撃した2人の人物を訪ねることにした。

『絵はがきの少女』

少年の頃に入手し、大事にとっておいた富士山の絵葉書に写っていた少女を探して、現地を訪れたり、勤務先の新聞社の地方局に問い合わせたりして、消息を突き止める話。

『大臣の恋』

新たに大臣に任命された布施は、40年前に恋に落ちた相手が、別れるとき、彼が出世したら手紙を出して祝うと言っていたことを思い出した。その手紙はまだ来ない。彼女が九州にいることを突き止めた布施は、九州での演説会の機会に彼女に会うことを試みた。

『金環食』

昭和23年5月、新聞記者の石内は、天文台の妹尾博士が金環食の正確な観測位置をつきとめたこと、アメリカの計算には600メートルの誤差があったことについて記事を書き、新聞に大きく扱われ、好評を得た。

『流れの中に』

勤めている会社から勤続30年の慰労休暇をもらった笠間宗平は、小さいときに過ごした瀬戸内地方の土地を、一人で旅することにした。

『壁の青草』

少年受刑者の日記。刑務所内の日常が少年受刑者によって淡々と描かれる。刑務所職員に対する観察が鋭い。

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以上のうち、『すずらん』は推理小説色のある作品だが、そのほかは、それぞれの登場人物の人生の理不尽さ、やるせなさなどが伝わってくる物語であった。古い時代の話であるが、物語の中にスッと入っていけた。心を揺さぶられながら、ため息を読みながら読んだ。完成度の高い、素晴らしい作品集。

ご参考になれば幸いです!

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