見出し画像

【読書録】『多眼思考』ちきりん

私の尊敬している社会派ブロガー、ちきりん氏のご著書のひとつ。これは、彼女の他のご著書と異なり、ご自身の過去のツイート(27,000ツイート!)の中から、厳選した300のツイートを集めてできた本、『多眼思考』(2014年)。副題は『モノゴトの見方を変える300の言葉!』

ご自身がこの本の冒頭でお書きになっているのだが、この本は、ちきりん氏がどんな視点で社会や人生や未来を見ているのか、その『眼』を伝えられるツイートを丁寧に抽出したものであり、掲載されているツイートがそれぞれ独立したメッセージを発すると同時に、本書全体を通じて、ちきりん氏の「モノを見る眼」を伝える一冊となっている(p3)。

みなさん既にご承知のとおり、ツイッターには140字の文字制限がある。そのため、ツイートには、極めて直感的な言語化が求められ、発信者の深層の意図や感覚が、よりストレートに表現される(p3)。

さすがは、いつも鋭い視点で、世の中の盲点に光を当ててくれる、ちきりん氏が厳選した300のツイート。どのツイートも、易しい言葉を用いた、無駄のない、シンプルな表現。でも、はっとさせられたり、なるほど!と膝を打ったり、うーん、と、唸ってしまうようなメッセージが、これでもか、と続く。常識で凝り固まった思考をかき乱されるようなツイートもある。読後には、とても心地よい疲労感のようなものを味わった。

そして、この本は、普通の本を読む習慣ない方にも、とても読みやすく、とっつきやすい。どのくらい読みやすいかというと、以下の写真のとおり。贅沢にも、原則として、1ツイートに1ページを割いていて、文字が大きく、余白が多い。そのためだろうか、印象的なメッセージに出会ったら、その印象が、とても強く心に残る。

画像1

厳選された300のツイートの中から、私が特に心を打たれたのは、以下のツイートたち。8つのテーマ(「生きること」「働くこと」「社会」「少子化と高齢化と男と女」「ゆるく考えよう」「ビジネス」「ぐろーばりぜーしょん」「自立&未来へ」)から構成されているのだが、各テーマからいくつか選んでみた。

「生きること」

「忙しい忙しい」って言うと、「私は人生で何が大事か、わかっていません」と言ってるみたいな気になるから、言いたくない。(p8)

人生の時間をどれくらい誰と共有するかは、人生がどんなもんになるかを、ほぼ規定する(p14)

5年後にどこで何してるかわかっちゃうような人生はまっぴらごめん。(p18)

あたしが心配なのは、お金がない人生じゃなくて、やりたいことのない人生だよ。(p19)

人生は選択の連続。自分が選ばなかったものを持っている人を羨むのではなく、自分が選んだものを愛しみ、楽しもう。そんじゃーね。(p23)

大事なことは、自分で自分の足に、足枷をはめないこと。足枷が付けられている人の半分以上は、それを自分でつけている。(p35)

「愚痴を言う」、「他人を嫉む」、「誰かに評価して欲しいと願う」…人生を無駄にしたければ、この3つをどうぞ。(p39)

「働くこと」

20代は誰でも成長できる。30代でも多くの人が成長できる。でも40代で成長できる人はごく限られてる。多くの人が30代で終わってしまう。(p45)

新人が真っ青な顔で「やばいいっす!」って言ってきたら先輩や上司は「よしきた!」って思えばいいのです。その問題を解決するために、あなたは雇われている。(p52)

あたしはどんな仕事をするときも、「この仕事を半分の時間で終わらせる方法はないの??」といつも考えてる。(人はそれを”さぼり”とか呼ぶけど)何十年もそうやって工夫している間に生産性があがって、長時間、働く必要がなくなったでござるのよ。(p53)

すごい人に会って、憧れているようでは話にならない。悔しがらないと。(p54)

みんな、今日の仕事をよーく振り返って考えてみてほしい。それは本当に、「とりあえず、コレやっとけばいいだろ」という仕事ではなく、「これは絶対にやる意義のある仕事」と思えるのかどうか。時間を埋めるため、予算を埋めるための仕事に人生使うのはホント無駄よ。(p76)

「社会」

日経マネーが「預貯金の世帯平均の都道府県ランキング」を載せてて、1位の東京以外は、香川、徳島、富山、奈良と地方が続くのを「富裕層は四国にいる。地方に多い」とかまとめてて笑えた。それ、貯金がゼロに近い18歳や23歳の若者が都会に出てしまうから世帯平均貯蓄額が上がってるだけです。(p78)

いじめに「みんなやってるから」で参加する人は、「僕が投げたのは小石一個だけだよ」とか思ってる。でも、被害者には10万人から10万個の小石が投げつけられてる。「ちょっと悪口言ったら、すぐにブロックされた」とか言っている人も同じ。相手の立場を想像する力が無い。(p88)

学校とマスメディアの2業界って、「世の中はとても公正で、クリーンで平等で、誰でも頑張れば報われる理屈の通る世界なのです」っていう、現実離れした嘘を子供たちに教え続けてるという意味ではよく似てる業界よね。(p95)

古い民家を改装して都会の若い人が移り住むとか、さびれた商店街や島がいろんな工夫で再生するというのは素晴らしいと思うけど、そんな局所的な成功例で「日本のすべての自治体が存続できる」と考えるのは幻想。(p100)

日本の一般人は他国の一般人より、全体としてかなり優秀だと思う。でも日本のエリートは世界のエリートとは、比べるもの恥ずかしいような状態。足りてないのは何なのか、めーかくだと思う。(p112)

「少子化と高齢化と男と女」

テレビ番組って、女性識者や女性社長を「二児の母である」って紹介し、男性についてはそう紹介しないことが、「子育ては女性がするもの」というプロパガンダに加担することと同義であるって理解できてないレベルの人が作ってるんだよね。(p117)

出産年齢が遅くなるのは女性が仕事と出産を両立できないから云々とよく言われるけど、それだけじゃない。女性が20代に出産しようと思えば、男性の多くにも「20代でパパになる覚悟」を固めてもらわないといけない。こっちの問題も結構ハードル高いのでは?(p120)

現時点でコーポレートラダー(注:出世階段)をのぼり切った場所にいる人たちって、家事育児を相応に分担していないとかいうレベルではなく、妻のフルサポートを得て、仕事だけに完全集中できる環境にあるんですよね。
たとえばトップ層だと、海外出張の準備(衣類とかの)や後片付けを全部妻に任せているビジネスパーソン(男性)はそこそこの数いると思うけど、女性役員で、夫がそれらを全部引き受けてくれてるなんて家庭はほとんどないでしょう。(p123)

自由度はこれからもドンドン上がるはず。たとえば、今はようやく「結婚前に妊娠しても(妊娠した後、結婚するなら)OK」までは来たけど、「結婚せずに妊娠・出産してもOK」状態にはまだなっていない。(p129)

未だに配偶者控除で3800億円も(専業主婦家庭の)税金が免除されてるなんて意味不明。これってつまり、女性にはバリバリ働いてほしくない、という国の意思表示だよね。
なんでこんな制度(配偶者控除)が廃止できないかというと、投票率の高い世代(50代、60代、70代)の家庭においては、今でも妻は専業主婦という比率が高いからです。(p143)

「ゆるく考えよう」

無理して家を買うとか、3連休だから家族で車ででかけなくちゃとか、「高度成長時代に作られた幸せな家庭像」に踊らされているように思えます。「幸せ」のイメージをどこかから借りてきてしまっているのでは?(p153)

人生の時間を、できる限り、売りたくない。(p168)

デパートとか行くと、平気で10万円くらいのダウン・コートを打っててびびる。でも35年ローンで家を買うのは、ああいうコートを着ることの100倍、贅沢なことだと気がついていない人はたくさんいる。
「皆が持っているモノ」を手に入れるために人生の時間を使っていたら、自分が本当に欲しいモノを手にいれるための時間が足りなくなりますよ。(p174)

勝ちたいなら、自分の欲しいモノを手に入れたいなら、「頑張る」のではなく、「勝てる分野」を選び、「勝つ方法」や「手に入れるための工夫」について考えるべき。むやみに頑張るのは人生の無駄。(p175)

「ビジネス」

日本の根本的な問題は、富裕層への税率が高いことではなく、お金を稼ぐということへのリスペクトのなさだよ。(p186)

アマゾンが好きなのは、同じドライヤーでも色によって値段が違うことだよ。最初は驚いたけど、売れる色のが高く、売れない色を安くするのはマーケットとして当然。今まで、不人気色も人気色も同じ値段で売っていたほうが変だったのだと、あれで気がついた。(p189)

とにもかくにも「誰も解雇せずに、時代の変化についていく」ってのは、かなりの無理ゲーです。(p197)

世の中には「こんなこと人間にやらせるなよ」って思えることがまだまだ山のようにある。(p209)

市場で評価され、誰かがあなたの作り出したものに対して、自分の財布から、必死で稼いだ貴重なお金を払ってくれるということの意義を、みんなが実感すれば、組織も国も立ち直れる。「価値を出せばお金につながる」というサイクルをみんなが実感することが大事なんだよ。(p214)

「ぐろーばりぜーしょん」

個別の日本人で、世界で活躍できる人はいくらでも現れる。でも、日本企業が世界で勝つとか、日本が世界でトップとか、そういう概念はもう忘れたほうがいい。多国籍化しない企業がグローバルに勝てることはないし、生産者人口の減る国の国力が上がることはない。(p218)

将来の日本人の職業の選択肢は次の3つ(1)日本国内で高齢者向けビジネスに従事、(2)インド、中国、ブラジルなどで世界の人を顧客にビジネス、(3)グローバルに競争力をもつ労働者として東京、その他の先進国年でプロフェッショナルワーカーとして働く。以上。(3)はごく少数です。(p219)

生き残る企業は、世界中から頭脳を調達しようとするでしょう。いやもちろん、日本企業はいつまでも、日本男児しか役員会には入れない!のかもしれませんけど。(p232)

世界は才能を取り合ってるけど、日本は突出した才能のある人を逮捕したり、妬んで叩いたり、バカにばっかりしてるからなー。(p233)

カリフォルニアに2年住んだけど、一番堪えられないと思ったのは雨が降らないこと。2番目は四季がないこと。雨とか季節ってこんな大事なんだと思った。(p246)

アメリカに留学してる時、ソニーやトヨタやキャノンのおかげだとすごく感謝した。当時、アジアからアメリカに「一般人」が留学できるのは日本人だけ。他のアジアからの留学生は、ほぼ全員「特権階級のご子息、ご令嬢」だった。通貨が強いということは、こういうことなんだと思った。(p247)

「自立&未来へ」

独りであることを理解することは大事なことだと思ってる。一人旅ができない人と一緒に旅行はしないと決めてます。一人で生きられない人と一緒に生きるのも無理です。(p252)

あと、「孤独」をきちんと知っておくことは大事だよ。その時、自分がどういう気持ちになるのか、どれくらいつらいのか(つらくないのか)、そういうことを知って、いつでも向き合えるようになっておいたほうがいい。よほど強い人以外は。(p253)

限られたリソースは、それをもっとも効果的に活用できる人(組織)に集まるべき。お金は政府より民間に、優秀な人は現状維持を是とする組織より未来を変える企業に、技術は特許で儲けたい企業ではなく、それを実際に使いたい企業へ。(p273)

早めに引退したい人が心がけるべきことは、1 無駄なものを買わない(家とか保険とか)、2 生産性を上げる(効率よく稼ぐ)ことです。
今から不動産買うとか車買うって時代に逆行してますよ。明治維新の後に鎧や刀を買うみたいなもんです。(p277)

使命が明確になり、それに向けて動き始めると、人生のピークは過去ではなく、未来にあるとわかる。(p284)

感想

ああ、どうして、ちきりん氏の言葉は、どれもこれも、私の心に、こんなにも、どストレートに響くのだろう。

日本は、長らく単一民族国家であったためか、ダイバーシティに乏しく、同調圧力の強い国だ。日本に暮らしていると、旧態依然とした慣習、安定志向、予定調和、前例踏襲、出る杭を打ちたがる風潮、メディアや社会の多数派が植え付けるプロパガンダ、そんなものに足をすくわれがちだ(では外国だとハッピーか? というと、そんなこともないだろうが…)。

でも、これからは、そんなことでは、日本も、日本企業も、個人も生き残れないし、第一、楽しくない。他人の評価や社会の常識に惑わされたり、流されたりすることなく、物事を「多眼思考」で眺め、隠された真実や盲点に気付いて、自分の頭で考えて、判断しよう。自分の軸を持って、無駄なことに時間を使わず、やりたいこと、楽しいことにリソースを注いで、有意義な人生を送ろう。そんなメッセージを受け取った。

普段は本棚にしまっておいて、時々、人生に迷ったり、疲れたりしたときに、本棚から取り出し、ソファーに寝っ転がりながら、パラパラとめくってみよう。ちきりん氏の選りすぐりの沢山の名言ツイートから、喝を入れてもらったり、元気をもらったりする。そんな風に使える本だと思う。

ご参考になれば幸いです!


この記事が参加している募集

#読書感想文

188,615件

サポートをいただきましたら、他のnoterさんへのサポートの原資にしたいと思います。