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【読書録】『聖獣配列』松本清張

松本清張の長編小説の中で、私が特に好きな作品がこちら、『聖獣配列』。写真の文庫本(上・下巻)は、いずれも平成5年の第4刷。『点と線』や『ゼロの焦点』などの有名な作品に比べると、知名度は劣るが、国際サスペンス小説として、読み応えがある。

主人公は、クラブのママ、可南子。とある事情で、国際的にも政治的にも重要な秘密情報を入手。その情報を利用して、日本や海外の大物との騙し合いを演じ、事業家として成功した。しかし、そこから、歯車が狂っていく…。

話の筋としては、清張のベストセラーの一つ、『黒革の手帖』と似ているところがある。『黒革の手帖』は、何度もドラマ化されており、ご存知の方も多いと思うが、原口元子という地味な銀行員の女性が、手帖の情報を武器に、銀座のクラブで華麗に転身していく、という話だ。

ただ、この小説が『黒革の手帖』と違うのは、国際的で、話のスケールがずっと大きいこと。登場人物にも、アメリカ大統領だったり、スイスの銀行家だったり、かなりの大物が出てくるし、舞台も、東京から、ロンドン、ベルン、チューリヒなどに展開する。よくまあ、こんな話を思いつくものだ。その発想力がすごい。

可南子は、言ってしまえば、悪女だし、彼女のやっていることは、犯罪だ。でも、女の細腕一本で、国際的な大物の男性たちを相手に、脅されても、怖い思いをしても、果敢に戦ってゆく姿に、ついつい応援したくなってしまう。

そして、ラストが印象的。巨額の富を築いた可南子を待っていた恐ろしい運命に、言葉を失う。殺されるわけではないが、ある意味、殺されるより残酷かもしれない。人の人生というものは、こんなにも、あっけなく変化してしまうものなのか。禍福は糾える縄の如し、ということか。

そして、どこまで真実なのか、また、今の時代でも同じなのか、は分からないが、この小説に描かれているスイスの銀行の恐ろしいシステムに絶句した。

いや、日本にいても、自分にも、いつか、可南子のようなことが起きるかも…。銀行に虎の子を預金していたとしても、それが、あのようになってしまうかも…。

休日の娯楽にサスペンスを読みたい方、また、スイスや、スイスの銀行にご興味をお持ちの方などに、オススメします!


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