今日ご紹介するのは、納棺師である大森あきこ氏のエッセイ集、『最後に「ありがとう」と言えたなら』。
「納棺師」とは、普段の生活では、あまり接することのない職種の方だ。この本を読んでみようと思ったのは、私が、最近、近しい親族を亡くし、納棺師の方々が、故人の湯灌や納棺をしてくださるのに付き添う経験をしたことがきっかけだった。その納棺師の方々には、とても良くしていただいた。
納棺師さんの仕事は、数々の死者の身体を清め、お化粧を施し、旅立ちのための身支度を整え、棺に納めるというものだ。遺族の希望に細やかに答えながら、一連の作業を行ってゆく。死者と悲しみにうちひしがれる遺族たちと日々接するのは、精神的にとてもタフなお仕事だと思う。
本書では、著者が、そんな納棺師としてのお仕事を通じて経験した、さまざまなエピソードをまとめている。やさしく、淡々とした、わかりやすい文体。納棺師として得たたくさんの気づきや学びを、惜しみなく共有してくれている。
納棺の場面においては、それぞれの家族特有の関係性や、家族の感情が、あらわになる。数々のエピソードから、故人に向き合う遺族の思いが、痛いほど伝わってくる。家族の一員を失ったばかりのタイミングで本書を読んだ私には、思わず涙してしまうシーンが、とても多かった。
以下、特に私の胸を打った2つのエピソードをご紹介したい。
まずは、涙も見せずに気丈にふるまっていた故人の奥さんが、納棺師さんに、亡くなったご主人に頭を撫でてもらいたいという希望を打ち明け、納棺師さんがそれを叶えてあげるシーン。
次に、お庭の見事な桜で花見をするのが好きだったおじいちゃんの納棺にあたって、棺を桜の下に置き、ご遺族に、故人との最後の花見を実現させてあげたシーン。
いずれのエピソードも、納棺師さんたちの優しいお心遣いにあふれていた。これらのご遺族にとっては、故人とのお別れが、とりわけ、忘れられない特別なものになったはずだ。
また、著者は、死や別れ、葬儀や納棺式についてのご自身の考えを、ところどころで述べている。死と日常的に向き合っている納棺師さんの言葉は、とても深い。
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納棺式や葬儀において、故人の遺体を前にして、言葉をかけ、お別れをする時間は限られている。残された遺族たちが、悲しみを受け止め、気持ちを整理して前に進むために必要な、貴重な時間だ。そのように大切な時間をかけがえのないものにするために、納棺師の皆さんが、日々、心をくだいてくださっている。なんという尊いことだろう。
日頃あまり考えることない、死について考える機会をくれる、他にあまり類を見ない本だと思う。著者の大森氏や、納棺師のみなさま、その他、葬儀に関わるお仕事をされている方々に対して、心からの敬意を表したい。本当に、ありがとうございます。
ご参考になれば幸いです!
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