【読書録】『1日誰とも話さなくても大丈夫』鹿目将至
精神科医である鹿目将至(かのめ・まさゆき)氏のご著書、『一日誰とも話さなくても大丈夫』(2020年、双葉社)。副題は、『精神科医がやっている猫みたいに楽に生きる5つのステップ』。
この本は、コロナウィルスで外出や移動の自由が制限され、孤独を感じてストレスを抱えている人への処方せんのような読み物だ。
タイトルにもなっている「一日誰とも話さなくても大丈夫」というメッセージを、精神科の臨床医が言ってくださっているというだけで、まず、安心する。この本を手に取るだけで、もう既に、一定の心理的な効果があるように感じた。
著者の鹿目氏は、ご自身が、数か月の間、診療のほか、プライベートではずっとひとりで、ほぼ誰とも話をしない生活を送っていたとのこと。専門家としての知識や視点とともに、当事者としての経験にも基づく説得力もある。
また、きっと人格者でいらっしゃるのだろう、語り口も、終始、とても優しい。まるで、小さな町の診療所で、親身になってくれる優しいドクターと話しているような気分になる。たくさんの小さなアドバイスが、ストンと素直に受け止められる。
たとえば、「はじめに」の次の記載が、とても心に響いた。
(…)毎日がつまらなくて、空っぽで、むなしくて、叫びだしたくなるような夜や、何もしたくない昼をいくつも重ねていたのは、他ならぬ、この僕です。
でも、僕は仮にもメンタル専門の臨床医。さすがにこれではまずいと思い、自分でも訳がわからないようなこの気持ちに折り合いをつけていく方法を模索してみました。(p10)
全109ページの薄い本で、とても読みやすい。コンパクトな中にも、楽に生きることができるための、たくさんのアドバイスが満載だ。ホルモンの作用や脳の働きなどの科学的な知識も分かりやすく織り交ぜられている。また、ご自身の日々のちょっとした生活の中でのエピソードなども多く、とても身近に感じられる。
以下、個人的に役立つと思った箇所を要約しておく。
マルチタスクはストレスホルモンのコルチゾールを脳内で増やす。解決方法はひとつだけ。頭が疲れたら、同時進行は止め、頑張って、ボーッとしてみる。(p16)
幸せホルモン「オキシトシン」を分泌するため、お気に入りの「ふわふわ系」のものを抱きしめる。生身の人間とのふれあいが一番いいが、無理なら、モフモフ動物、タオル、毛布、ぬいぐるみ、クッションなど。(p19)
自律神経を整えるための深呼吸(p21)
眠くないなら、起きていればいい。(p30)
朝起きたら窓を開ける。ビタミンDが生成され、セロトニンという幸せホルモンが分泌される。(p33)
やめられないのがSNS。だったら見る専にする。(p44)
テレビを無音にして、映像だけを流してみる。テレビをつけているだけで、頭が総動員され、脳がめちゃくちゃ疲れる。(p45-46)
散歩は体にも心にも脳にもいい。(p48)
20分から30分の昼寝。(p50)
肉を食べる。肉は脳内で「アナンダマイド」という、中枢神経系において快楽に関する役割を担う物質に変化する。また、セロトニンの材料であるトリプトファンという必須アミノ酸は、牛や豚などの赤身肉やレバーにたくさん含まれている。(p54)
噛むおやつがよい。唾液の分泌が良くなり、セロトニンの分泌も促される。(p58-59)
笑うことがナチュラルキラー(NK)細胞を活性化させ、免疫アップ。塗り絵や落書きなどのすすめ。(p61-62)
自分で膝を撫でて「よしよし」する。オキシトシンが出る。「スージングタッチ」というセルフケア。(p64)
どうにもならないことにブチあたったら、しょうがないね、と、いったん努力を忘れて流されてみる。(p78)
いろんなことから逃げてみる。気の進まないZoom飲みはやめる。あなたを傷つける人とは距離を置く。終わったことは反省せず、「さあ次、行くよ~、次!」(p82-83)
「めんどくせー!」は、現状打破を心から願うポジティブワード。自分を見つめなおすタイミング。(p85)
「ひとりがいいけど、ひとりじゃ嫌だ」という相反する気持ちが上がったり下がったりするのが人間。人恋しい日があってもいいし、孤独を愛する日があってもいい。どちらも自分の大切な時間。(p107)
ここに取り上げたのは、ほんの一部。ほかにもたくさんの、ちょっとした、気持ちを楽にする秘訣が書かれている。
長い長いステイホーム生活を余儀なくされ、日々、暗いニュースに接していると、疲れるな、というほうが無理だ。私自身も、時にはストレスに押しつぶされそうになり、なんとか自分を保ち、だましだまし、日々を送っているという感じだ。私の周りにも、そのように感じている人が多いように思う。
この本は、押しつけがましさが全くなく、疲れたあなたに、そっと優しく寄り添ってくれる本。ストレスを感じ、つらいと思っている方に効く、「読むクスリ」なのではないかと思う。
ご参考になれば幸いです!