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【読書録】『食卓の情景』『散歩のとき何か食べたくなって』『むかしの味』池波正太郎

文豪、池波正太郎の、食に関するエッセイ集、3冊のご紹介。

我が家の本棚には、池波正太郎コーナーがある。『鬼平犯科帳』『剣客商売』『仕掛人・藤枝梅安』『真田太平記』は、おそらく全巻そろっている。それどころか、何故か、複数冊ある巻もある。

ケーブルテレビの「時代劇専門チャンネル」でも、池波正太郎原作の時代劇をよく見ている。特に、1989年から28年間の長きにわたりフジテレビで放送された、中村吉右衛門の『鬼平犯科帳』は、良い作品だと思う。

彼の作品には、江戸時代の美味しいものの描写がよく出てくる。とりわけ、『鬼平犯科帳』では、「五鉄」という店での軍鶏(しゃも)鍋の描写が多く、いつも、食欲をそそられていた。

この3冊のエッセイ集を読むと、彼が美味しいものを愛したことが、とてもよくわかる。

この3冊の新潮文庫の発行年は『食卓の情景』が昭和55年、『散歩のとき何か食べたくなって』が昭和56年、『むかしの味』が昭和63年。これらの本に載っているお店のうち、現在まで続いている店もまだたくさんある。たとえば、私は、京都の「蛸長」(おでん)や、「かざりや」(あぶり餅)、「イノダコーヒー」に行ったことがあるが、いずれも歴史ある名店だ。

東京のみならず、横浜、信州、名古屋、伊勢、近江、大阪、京都、奈良、伊賀上野、そしてフランスまで、幅広い土地のグルメを紹介している。美味しいものの描写が豊かで、読んでいて唾液があふれてくる。今でいう「飯テロ」である。

それだけではなく、格調高い文体で、その土地の食にまつわる文化や、現地の人々との交流をも細やかに綴っていて、洗練され、かつ心温まるエッセイに仕上がっている。

そして、さらに素敵なのは、この3冊の表紙カバーの、味のあるイラストが池波正太郎先生ご本人によるものであることだ。文章だけではなく、絵もお上手なのだ。

私も、池波先生には及ぶべくもないが、自分なりに、素敵なグルメレポの発信ができるとよいなあ、と思う。


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