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既卒で受けた公務員試験の思い出を詩っぽく書いてみた


6月の終わり、私は確かにあの場所にいた。

高校という、懐かしい学校の教室。

風が強くて、陽が差し込んでいた窓側、前から3列目の席。

その試験監督さんは、よく気にかけてくれる人だった。

試験中、机に落ちるまぶしい日の光に気づいて、カーテンを引いてくれた。


オレンジ色に変わり始めた日の光。

今日はあと少しで終わり、明日は平日だから、

この空間も、この空気も、目の前の空席も、

明日にはもうなくなっている。

教室も、時間割も、日直当番も、

もう何年も前のことなのに、

初々しい学生が、ちょっと前までいたその教室を懐かしむように、

少しだけまだ10代でいられた。


あと1時間があと30分に、

あっという間にあと1分になって、

私の将来と、私の過去が、分かれる時間が近づいていた。

試験の手ごたえはない。

窓際から見える、体育館やグラウンド、教室の光景。

特別なそのときだけの、青春の景色。

それだけが心に残った。


懐かしむ余裕も、思い出に浸る時間もなかったあの頃に、

感覚をつないでいた細い紐をゆっくりと切る。

チャイムがなった。

紐は切れた。

あの頃の君にはもう会えない。

さっきまでの君にも会えない。


今日をふと思い出すとしたら、来年の今日、

住宅街から見える白い校舎を思い出しながら、

スーツ姿でオフィス街を歩いている。

今はまだ、黄昏時の部屋に寝転んで、音楽を聴くんだ。

目をつむればまだそこに、光の中の教室があるから。

記憶の中の幻は、確かにそこにいた証だから。