さざなみ

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ガラスの入れ物 氷を5つ 響きあう透明のかたまり 流動する命の水 3秒そそぐ ゆれあう透明の液体 溶け出すかたまり 液体と混ざり合う 手を冷やす水滴が指から流れる 滴り落ちた一粒、一粒 また一粒と 揺らめく湯気をあげている 机に2つ 畳まれたおしぼり 包んでいた薄いビニール 机に2つ 今は小さく結ばれて 消えていく熱は空気と混ざり合う 冷え始めた対象 かまわずふき取った水滴は 止まらない一粒 また一粒と ガラスは泣き続けている 時

    • 木曜日

      会社員。昼休み。外に出た。 青い台紙に白い水彩絵の具ですべてを塗って、覆ったような、ぼやけた青空だった。 仕事の合間、窓から眺めた夕方の空。 夕日が見える。夕焼けも薄雲に覆われてはいるけど、青から赤へと流れるグラデーションが、本来は鮮やかなその色を覆われながらも確かに空を彩っている。 木曜日という、週末に近づくにつれ、気持ちが軽くなる心を表しているような空だ。だからまだ、雲があって、青空がくっきりとは見えない。 まだ明日、一日ある。でも金曜日だ。

      • リサイクルマークの私たち

        小此木さんの小さな手は、大貴の大きな手にすっぽりと隠れて、大事に守られている。 高校の最寄り駅までの一本坂、小此木さんの歩幅に合わせてゆっくり歩く二人をいつまでも追い越せないまま、二人と一定の距離を保って、後ろを歩く私。 昨日までは私が隣にいた。私がその手を握って、駅まで一緒に帰っていた。 「大貴、ちょっといい?」 その日の昼休み、他クラスには入ってはいけない謎のルールを守り、廊下からそう呼んだ。 大貴は教卓の真ん前で、いつもの仲間と集まって談笑していた。女子の姿も

        • 既卒で受けた公務員試験の思い出を詩っぽく書いてみた

          6月の終わり、私は確かにあの場所にいた。 高校という、懐かしい学校の教室。 風が強くて、陽が差し込んでいた窓側、前から3列目の席。 その試験監督さんは、よく気にかけてくれる人だった。 試験中、机に落ちるまぶしい日の光に気づいて、カーテンを引いてくれた。 オレンジ色に変わり始めた日の光。 今日はあと少しで終わり、明日は平日だから、 この空間も、この空気も、目の前の空席も、 明日にはもうなくなっている。 教室も、時間割も、日直当番も、 もう何年も前のことなのに

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        • 10月の詩
          11本

        記事

          スマホ

          すべてがあると見せかけて 何か物足りない 画面の中の世界

          秋の散歩道

          金木犀の香りがする どこから香っているのかわからないとき 流れていく香りに後ろ髪をひかれ 知らない道を探険してみるのも たまにはいいかもしれない

          秋の散歩道

          Dancing freely

          蛍光灯の下は明るい地面 それはザラザラしたアスファルト 光に群がる羽虫を伸ばした手で掴んだ 握りしめた手の中には一羽の虫がバタバタ そっと開いた五輪の花から旅立っていった 月明りが届かない光の輪の中 それは道端のスポットライト 靴も靴下も空に投げて裸足で踊ろう 観客は星 主役は私 朝が来るまでつかの間の晴れ舞台

          Dancing freely

          詩⑧

          だるい だらしない だべってばかり 誰かとだらけてばかり それもいい でもどっかで汗をかく自分がいる このままじゃいけない ダサくてかっこ悪いが ダメ元でやってみようか ダメでもともとなんだから 騙しだましやってみよう ダムに思いを貯めて だってこの先まだ続いていく 聞き飽きた台詞に頭を振って スイッチ一つ押してみて 試してみて 何か変わるかも そのきっかけに 今なるのかも

          詩⑦ タンポポ

          「咲いた花に名前をつけよう  タンポポに新しい名前をつけたっていいじゃない」 朝の散歩中、一歩前を歩く君 後ろに組んだ手を弾ませてそう言った 電気が走ったと それはさすがに大げさだったけど 友達だった君の手を 思わずつかんでしまうくらい 強く思った ねえこっち見て 今何を考えてる? つかんだ手をつかまれたまま 立ち止まった君 呼吸を止めて 時間を止めて 朝露に濡れる木の葉さえ 永遠に閉じ込められて 乾いた姿に 瞳を濡らす君に 真向いで話す

          詩⑦ タンポポ

          詩⑥

          白けた空気の中に吐息を重ねて 大きな窓にはレースがかかる 網目の隙間からのぞくように 顔を近づけて外を求めた とどろく音が遠くで聞こえ 残った空には雲ができた 青空と、雨雲と、飛行機雲 私も雲を作っていたとき 夜空だって飛べたとき まだ夢があったとき あの時に行きたい タイムマシンは粗大ごみで 過去は燃やすごみに 捨てられないのは空を飛んでいた 何者にでもなれそうな翼 覚えのない賭けごとに 負けた翌朝、静かな家 夢だったのかと一息ついた 甘

          詩⑤

          さみしくて、そっとスマホを取り出して つながり求めてさまよう時間 泣きたくて、一人の部屋に閉じこもって さみしくなって、スマホを取り出す 苦しくて、叫んで踊って寝て起きて 泣きたくなって、閉じこもった 疲れて、話すのをやめてしまって 苦しくなって、寝て起きた ぼうっとして、リンゴを食べて、水飲んで さみしさ、苦しさ、埋めたくて そっとスマホを取り出して つながり求めてさまよった

          詩④

          I don't give up 誰にも踏まれないように小さくなったこの体 それをわざと狙って踏んでくるから 意気地がない 意地が悪い 同じ世界にいたくない 毎日せっせと働いて 毎日地道に過ごしてる 大きな足を持ってるからって 努力をゴミみたいに扱うな 君たちみないなひどい存在がいるから 僕らは地中に隠れたんだ そうやって偉大な先祖は僕らを守ってきた なのに君たちはどうだい 非難した僕らを面白がって 土足で家をめちゃくちゃにして そして笑って去って

          詩③ ステージ

          鈴虫きらめく夜の声 きんもくせい香る庭の 名月差し込む 曇りなき空 つもりつもった木の葉揺れる なびく黒髪 乱れる天使の輪 秋の夜長に鳴り響く 現実照らすLED 君からの着信 おぼろの世界で 長い一瞬 またたく間に消える幻 この世のものとは似ても似つかぬ 夜をつかむ手に残る 魅入った景色 消えぬ衝動 寝ても覚めても離れられない ネオン揺らめく街の光 香水漂う宝石の 名月かすませ 都会の空よ 揺れる水面 街路樹映す 眺める待人 叫

          詩③ ステージ

          詩②

          長い髪を乾かしてくれる存在 印象的な映画のワンシーン 憧れ続けて諦めて 1つの傘を2人で使う恋人たちが ワイパー越しに過ぎてった 羨ましさは嫉妬となって 届かない細い小さい思い 恋かどうかわからないまま 時計が進む 伝わらず次第に消えていく思い 恋だったのかわからないまま 冬が終わる 部活指定のリュック 手作りのストラップ 見慣れた後ろ姿  バス待ちの夜 好きだったんだと気づいたのに ふりむかない彼の背中に問いかける 月明りを浴びた広い肩

          詩①

          眠たい目こすって 歯をみがく 明日のやることリストを イメージして つばを吐きだす 時計の針は0 終電を告げるアナウンスが 耳元でなげく 週の真ん中水曜日 満員電車がなくなれば 弊社がつぶれれば あいつがいなくなれば ささやく耳元で声がする きみがいらない 空の声が苦しめる日々に 終わりがこない 果てることなく生きていく体は ひそかにたしかに死んでいく 正しさが壊れていく 流れる時間に しがみついては 後ろを気にしてつまづく おびえ

          もっと気楽でいていいんだよと、教えてくれた二人へ

          3人行動は苦手だった。 小学生の時にクラスの友達3人で帰っていた時、私は左側を歩いていた。真ん中にいた子が、「3人の真ん中だと両方に話しかけないとだから大変だよね」と言った。ああ、そういうものなのかと3人でいるときの心構えみたいなものを知った。それから私は真ん中に位置するときはその言葉を思い出すようになった。それが呪文のように頭にまとわりついて、3人でいると構えてしまう自分になった。 学生時代に、共通の趣味で2人の友達ができた。仮に二人をえだまめちゃんとあずきちゃんと呼ぼ

          もっと気楽でいていいんだよと、教えてくれた二人へ