SNSがなくても大丈夫と言いたかった/『静かに、ねぇ、静かに』(本谷有希子)
突然ですが、皆さんはSNS、やっていますか?
私は友達がいないせいか、SNSがない人生なんてもう考えられなくて、SNSは、半分以上が虚構の世界だとわかっていても、孤独を紛らわすのに、正直ずいぶん助けられているところがあります。
でも正直なところ、時々めちゃくちゃしんどくなる。
誰かの怒りや悲しみに満ちた投稿や、嫉妬心が煽られる投稿を頻繁に目にすると、すごく疲れてしまい、SNSも使い方をきちんと考えなければならないなあと思います。
しかし、TwitterやInstagramの「いいね」にはすごく麻薬がありますねえ…。
普通に生きてたら、他者から「いいね!」と言われることなんてまずないですもん。
それどころか、ポンコツな私、「あんたはもう!」と、怒られるのがデフォルトです。
SNSには素晴らしい面と、とんでもなく気持ち悪い面があると思うのですがーー。
今回は、本谷有希子さんが描く"SNS狂騒曲三部作"、「とんでもなく気持ち悪い」方のSNS短編集『静かに、ねぇ、静かに』(講談社文庫)の感想を書かせてください。
本作は3つの短編集が収録されているのですが、最も強烈な印象を放っていたのが、「すべてに感謝」「ありがとうございますなんだよ」とポジティブな言葉を吐きまくる男女3人が、最安値のLCC便でマレーシアのクアラルンプールへ旅行する「本当の旅」でした。
チェックインカウンターでは、7キロ超えた荷物の追加料金5000円が払えず、周りに迷惑をかけ、空港のフードコートでは、店員を見下し迷惑をかける。
マレーシアに到着してからも、周りの迷惑を顧みず、ことあるごとに動画を撮り、Instagramにアップ…。
しかし、誰もが常に自己肯定の言葉を忘れず、
「僕らのコミュニティでは誰も結婚、出産を始めとする社会の制度を善として語らない。だから自由で心地いいヴァイブレーションをいつでも発散している」
…なんて語り、挙句の果てには、真面目に生きている人間を、「仕事をしていること自体が恥ずかしい」「家のローンや子供の養育費に頭を悩ませ、搾取される側から抜け出すことができないなんて可哀想…」
なんてのたまうものだから、彼らはこじらせた20代の若者かな!? なんて思うじゃないですか。
……違うんですよ。どうやら3人とも独身の40歳前後で、Instagramに明け暮れているリーダー格の男・づっちんは、実家に住んで親に依存して生活していることも明かされます。
うわああああああ。
😃😃😃😃😃
恐らくこの短編の主人公であるハネケンは、そんなづっちんになぜか憧れを持ち、づっちんのInstagramと酷似した投稿を繰り返しては突っ込まれている人間でした。
しかし、時々フと心に違和感がよぎる。
「マレーシアはユニクロも無印もあるし、都会だし、気候も日本とそっくりだけど、なけなしの貯金をはたいて、忙しい時期の農家の仕事をほっぽり出してまで来る必要があったのだろうか…?」
「ご飯も全然美味しくないけど…」。
おまけに、ホテルの鏡に映し出された「30代前半に見えるはず」のキラキラしたはずの自分たちは、ただの白髪混じりの疲れたおじさん・おばさんであることにも気づき、ゾッとします。
ですが、常に良いヴァイブレーションを奏で、何でも肯定しなければいけない世界に住む彼らは、違和感をなかったことにして、
「大切なのは、料理が美味しそうなこと。旅が楽しそうなこと。僕らが幸せそうなことなんだ。」
ーーと「周りからどう見えるか」しか大切にしていない事実は、もはや苛立ちを通り越して、完全なホラーでした。
😃😃😃😃😃
しかしながら、私もこの3人のことを笑えないなと思いました。
私は気の合う人と交流を楽しむためにSNSを始めたはずなのに、自分の投稿に「いいね」が少ないとすごく不安になる時があります。
自分が何を思い、どう感じたかは、そもそも周りからジャッジされることではない。
「いいね」があろうかなかろうが、関係ないことなのに、「私の考えは世間一般から外れていておかしいのかなあ…?」と悩んでしまう時があるのです。
誰かから「いいね!」と、肯定のサインをもらえないと自分が保てないなんて、これは危険なことです。
だって他人はいつでも私のことを見ているわけでもないし、褒めてくれるわけでもない。
だから、自分の考えをひとつひとつ積み上げ、物事を深めていく作業は、必ずSNSから離れた場所でしなければならないなあ…なんて思いました。
本作は、そんな違和感を放置していた彼らならではのラストを迎えます。さすが本谷有希子さんというか…。もうマジビビって手が震えました(笑)。
あとの2作も、ネットショッピング依存症から抜け出せず、夫にスマホを取り上げられ、節約家の夫婦とともにキャンピングカーで一泊旅行に連れ出される妻の話「奥さん、犬は大丈夫だよね?」。
そして、職探しのために何度もハローワークを訪れるものの、救いの手を差し伸べる人間が現れないことを嘆き、そんな悲劇を動画撮影しようとする夫婦の話「でぶのハッピーバースデー」と、中々シュールで胸がじわじわ苦しい物語が収録されています。
今さら! 今さら!!!
SNSのない生活になんて戻れないし、ここを去ったら、孤独な私は、マジで今以上に病みそうなので、SNSは続けようと思いますが…。
「ここだけが私の居場所なの…(だからいつも見ていてね…?)」←怖 と、依存するほどのめり込むのはやめようと思った一冊でした。
所詮SNSを使うのは愚かな人間どもです。
ここはめちゃくちゃ虚構の世界なんだからね、本物は自分で頭をこねくり回して考えて見つけるわ、、、ということを忘れずにいたいです。
さゆ
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