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I'm you and you're me / 私はあなた、あなたは私

私は家で映画を観るのが大好きです。

「今日はちょっと心に栄養補給したいなあ」と感じる時に、よく映画を観ます。

最近は、ただ娯楽として映画を見るのではなく、人間にとって大切なことを思い出させてくれる作品に出会いたいと思うようになりました。

今日は、最近観たある映画の中で、私の心にグッときたワンシーンを日本語に訳して紹介したいと思います。

その映画のタイトルは「ゴヤの名画と優しい泥棒(原題:The Duke)」。

1961年にロンドンのナショナル・ギャラリーからゴヤの名画「The Duke of Wellington(ウェリントン公爵)」が盗まれた実話をもとに作られ、2022年2月に公開された映画です。

実際に盗まれた名画「The Duke of Wellington(ウェリントン公爵)」はこちら↓。

名画を盗んだのは、英国の年金生活者ケンプトン・バントン(60歳)でした。

経済的なゆとりのない、この映画の主人公です。

まわりからまともに相手にされないにもかかわらず、自らの信念に基づいて孤独な年金生活者や退役軍人のために公共放送の無料化を訴える運動を続け、さらに受信料の支払いを拒んで何度か投獄されたこともあった人です。

なぜ彼が名画を盗んだのか、彼にどんな運命が待ち受けているのか、まだご覧になっていない方のために物語の展開は割愛しますが、ほろりとさせられ、同時にクスっと笑える素晴らしい作品なのでご紹介したいと思います。

この映画の製作に携わったバントンの孫はこう語っています。

「祖父はテレビが年金生活者の孤独を癒すものだと考えていました。
当時は、孤立し、孤独を感じている人たちのためのものがテレビ以外にあまりなかったんです。
彼はBBC(公共放送)の価値を理解していて、それを必要とするすべての人が利用できるようにするべきだと考えていました。
この行動が年金生活者のためのテレビ放送受信料無料化運動の一端を担ったのです。」

映画の前半では、おそらく誰もがこの「何もうまくいかないうだつの上がらない男」にあきれ、なんだか期待はずれな気分になっているのですが、物語が進むにつれて、この主人公を見る目がどんどん変わっていくことに気がつきます。

この映画の名台詞は法廷シーンに多いのですが、その多くがケンプトン・バントンの言葉をそのまま引用しているそうです。

バントンを弁護したジェレミー・ハッチンソンとの法廷でのやりとりの中で、私が最も印象に残った一節をここで引用します。

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ケンプトン・バントン:
「あなたがいなければ、私は私ではないのです。わかりますか?」

ジェレミー・ハッチンソン:
「みんなお互いを必要としているということですか?」

ケンプトン・バントン:
「いや、あなたは私なんです。
私を「私」にするのはあなたであり、あなたを「あなた」にするのは私なんです。」

ジェレミー・ハッチンソン:
「人類はひとつの集合体ということですね。」

ケンプトン・バントン:
「いいですか、私一人では、レンガ一枚なんです。
あまり役に立たない。
1枚のレンガだけではなんの意味もない。
でも、大量のレンガを積み重ねれば、建物ができるんです。
建物を作れば、そこには必ず影ができる。
そして世界はもう変わっているんです。」

ジェレミー・ハッチンソン:
「あなたの哲学。そう呼ぶにふさわしいと思います。」

中略

ケンプトン・バントン:
「最近の言葉で言えば、「孤立」とか、「つながっていない」とか、そんなものは人生とは言えないんです。
つまり、あなたが大げさに私の哲学と呼ぶ「私はあなた、あなたは私」というのは、誰かが他の人たちから切り離されるたびに、この国家、この国の寿命が縮むということを教えてくれるんです。」

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以下はオリジナル言語(英語)です。

Kempton Bunton*
“I'm not me without you. Do you get me?”

Jeremy Hutchinson:
“We all need each other?”

Kempton Bunton:
“No, you are me.
It's you that makes me “me” and it's me that makes you “you”.”

Jeremy Hutchinson:
“Humanity is a collective project.”

Kempton Bunton:
“Look, on my own, I'm a single brick.
A bit useless.
What good is a brick on its tod?
But you put a load of bricks together, you get a building.
You build a building, you create a shadow.
Already you've changed the world.”

Jeremy Hutchinson:
“Your philosophy. I think it earns the appellation.”

(…)

Kempton Bunton:
“And “isolation” or “not being connected”, to use the modern lingo, is no kind of life.
So, what you grandly call my philosophy, the "I'm you and you're me" thing, tells me that every time someone gets cut off from the rest of us, this nation, this country becomes a foot shorter.”

*****

もちろん全てが美談というわけではありません。

「名画は一時的に借りていただけ」という弁明は、本当に心苦しい限りですが、意外な展開に、ただただ驚くばかりです。

この事件から40年後の2000年、英国では75歳以上の高齢者のテレビ受信料が無料になりました。

この映画を見終わったとき、私の心を覆っていたのは人の優しさに対する尊敬の念でした。

主人公を演じたジム・ブロードベントの人を惹きつける名演技と魅力的なセリフもさることながら、主人公のあきれるほどの不器用さ、弱者やマイノリティに対する深い思いやり、家族との絆、そして何よりも我が子に対する無償の愛が、この作品から発せられる美しさの源になっていると私は感じました。

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なぜ世の中は不公平で理不尽なことが多いのか、そんな疑問を解決するのが形而上学です。形而上学を学ぶと、この映画に対する見方がちょっと変わってくるかもしれません。


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