甘美な秘密
ナチス・ドイツから逃れようと、隠れ家で生活していたユダヤ人少女アンネ・フランクは、自身の日記のなかで「生理」のことを「甘美な秘密」と表現したそうだ。
「苦痛で、不快で、うっとうしいにもかかわらず、甘美な秘密を持っているような気持ちがします。」『アンネの日記』より抜粋
なんて純粋で瑞々しい文章なのだろう。
わずか14歳の少女の感性とは裏腹に、わたしは今自分の生理痛と戦っている。
ヤツは毎月必ずやってきて、ジワジワとわたしの心と体を苦しめるのだ。
これまで生理痛の痛みを「相撲取りが永遠にシコを踏んでいる感じ」「内臓を内側からぎゅーっと握られている感じ」と様々な方法で形容してきたけれど、いまいちコレだという比喩に出会えていない。(「甘美な秘密」という言葉とは程遠い)
そのせいか毎月生理が来るたびに、この痛みをどう表現すべきか...腹を抱えたままベッドの中で考え込む。
夫が入れてくれた湯たんぽを下腹部に当てがいながら、自分の体の違和感にすらうまい表現を見つけられないのに、何がライターだ、と自己嫌悪に沈むのだ。
わたしの場合、生理中のメンタルはとくに不安定らしい。
薬や湯たんぽの世話になりながら1.5日ほど耐えていると、生理は急に古い友人のような、一緒にいて当たり前の存在に変化する。
痛みが嘘のように消滅するので、出血は続くものの非常に生活しやすくなるのだ。
こうなると多少面倒でも「昔からヤンチャなやつなんだよな、あいつ(生理)」と思えるようになり、生理の存在は日常に馴染んでいく。
もうすっかり一心同体!という頃に生理はあっさり姿を消し、あとに残されるのは軽やかなメンタルと、ダイエットに適した状態の身体である。これは生理なりの置き土産なのだろうか。
ほぼ全ての女性に、ほぼ毎月やってくるこの「生理」という現象。たびたびSNSでも話題に上がるが、女性によって体調への影響が全く違うので、一概に答えを出すことはむずかしい。
だからこそ、自分とは違う他人に対しての想像力や、思いやりを持つことが何よりも大切だと思う。
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悲しいことに生理は長年「穢れ」と呼ばれ、あらゆる国の歴史の中でタブー視されてきた。
しかし、生理用品を非課税にする国や、ジェンダーレスなデザインの生理用品の発売、様々なフェムテック商品の発展には目を見張る物がある。
社会の理解やテクノロジーの発展のおかげで、生理への見方は確実に変わってきているのだ。
日本にそれらが浸透するのにはまだまだ時間がかかるかもしれない。だが、そう遠くない未来、生理に関する悩みやマイナスなイメージは一層されるのではないだろうか。
そのためには興味があればフェムテックや新しい生理用品を活用し、経済圏に定着させることが大切である......。
女性たちが心地よく暮らせる未来を作っていくのは、他ならぬ私たち自身だからだ。
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最後に生理を擬人化した有名漫画『生理ちゃん』の好きな回を貼っておく。
これはアメリカから遅れること40年、日本で初めて衛生的な「生理用品」が作られたときの実話である。
今ではあまりに身近すぎて、普段は顧みられない存在でありながら、女性の人生を長きにわたって支え続ける必要不可欠なもの。それが生理用品なんだと思う。
社会のタブーを「普通のもの」にしようと尽力した彼らに、心から拍手を送りたい。
アンネ・フランクが現代の生理事情を知ったら、一体どんな言葉を日記に綴り、表現してくれただろう?
きっと、そう悪くない言葉だったに違いない。
彼女の残した「甘美な秘密」というまばゆい表現をお守りに、今日もわたしは生理と共に生きていくのだ。
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