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[小児科医ママが解説] おうちで健診:ハイハイ・つかまり立ち・伝い歩き。いつまでにすればOK?受診の目安は?


「教えて!ドクター プロジェクト」の「乳幼児健診を知ろう!」にそって、解説させていただいている「おうちで健診」シリーズ。


今回からは10~12ヶ月健診のフライヤーにうつっていきます。

喃語(なんご)をしゃべりだしたり、歩き出したり・・・色んなお子さんを見ていると「あれ?!うちの子、遅れてる?!」と心配がますます尽きない時期です。

今回は「ハイハイ・つかまり立ち・伝い歩き」についてです。

ハイハイしない・つかまり立ちしない。移動のしかたがなんか変。そんな相談、実はよくいただきます。
今回もなるべく、公式の見解や参考文献をお示ししながら、見ていきましょう。


主な参考文献はこちら。

●「正常ですで終わらせない! 子どものヘルス・スーパービジョン」
阪下和美、東京医学社、2017年

●「ベッドサイドの小児神経・発達の診かた(改訂4版)」
桃井眞里子・宮尾益知・水口雅、南山堂、2017年

●「乳幼児健康診査・身体診察マニュアル」
https://www.ncchd.go.jp/center/activity/kokoro_jigyo/manual.pdf
平成29 年度子ども・子育て支援推進調査研究事業
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター


ハイハイ8ヶ月、つかまり立ち11ヶ月・・・は目安。個人差がかなり大きい。


一般的な、ハイハイやつかまり立ちの発達は、以下のとおりです。

【一般的な発達の目安】

●生後8ヶ月
大人が支えると、両足で立てる。ずりばい・ハイハイしはじめる。

生後11ヶ月
自分でどこかにつかまれば、立てる(つかまり立ち)

おすわりの状態から、ひざ立ちして、立とうとするのもこの頃。
伝い歩きも徐々に見られてくる。

●1歳
ひとり歩きをし始める(すぐ転んでもOK)。

●1歳6ヶ月:ひとり歩きが安定する(なかなか転ばなくなる)。

※参考:ベッドサイドの小児神経・発達の診かた(改訂4版)

ただし同じ参考文献、またほかの清書にも書いてありますが、「かなり個人差が大きい」のです。

つかまり立ちについては、たしかに平均すると生後11ヶ月くらいでできるお子さんが多いのですが、正常範囲も「生後8ヶ月~1歳3ヶ月」とかなり幅広いです。

ハイハイにいたっては、もっと個人差が大きいとされています。
平均すると生後7~8ヶ月くらいですが、もしハイハイができなくても、(医学的な)発達の評価項目とはしない場合も多いです。

ハイハイをしないまま、つかまり立ちできるようになる・歩けるようになるお子さんも多数いるからです。


ハイハイ・つかまり立ちの仕方も、バリエーション豊か。

また、ハイハイやつかまり立ちの動きについても、バリエーションがあります。

【動きのバリエーション】

<ハイハイ>
ほふく前進のように、お腹をべたっと床につけたまま、腕の力でぐいぐい前に進む。
●背中を床につけて、両足の力で、はうように動く(背這い)。
●本人は前に進もうとしているけど、後ろに進んだり、横に進んだりする
両足が一緒に動く(交互に足が出ない)。
●両手・両足を床につけて、お尻を高くあげたまま、進もうとする(高ばい)
手がにぎったままの状態で進む。
片手・片足のみ交互に動かして進む。

<つかまり立ち・伝い歩き>
●立ち上がろうとするときに、両腕だけの力でふんばろう・立ち上がろうとする。
つま先で立っている。
一方向のみししか伝い歩きしない

※参考:ベッドサイドの小児神経・発達の診かた(改訂4版)、乳幼児健康診査・身体診察マニュアル、米国小児科学会(”Crawling Styles”)


とくに、ハイハイやつかまり立ちをし始めたばかりのお子さんで、こうしたバリエーション豊かな動きが見られることがあります。

ほかにも、ハイハイはちょっとしたものの、寝返りが大好きなのか、移動するときはひたすら寝返り・ローリングしまくって目的地点まで到達・・・というお子さんもいます。

日頃外来でみていても、一人のお子さんが立つ・歩けるようになるまでは、誰一人として同じ発達が無いので、本当に面白いなぁと思って診させていただいています。

こうしたバリエーション豊かな動きも、多くは正常範囲内です。
最初にハイハイやつかまり立ちなどをし始めてから、1ヶ月~数ヶ月後など、ハイハイやつかまり立ちのスキルがアップして慣れてくると、気にならなくなるケースが多いです。



ハイハイ・つかまり立ちしない原因はなに?


うーん、生後10ヶ月すぎてきたけど、全然ハイハイやつかまり立ちしないなぁ・・・。

ハイハイできないわけじゃないんだけど、すぐ嫌がって、お座りになっちゃう。大丈夫?

こんなご心配もよくいただきます。

ハイハイ・つかまり立ちしない原因としては、生まれつき腹ばい・うつぶせの姿勢が好きじゃない、生まれつきあるいは何らかの病気で、筋肉の緊張や力が弱い体を動かすための神経がうまく働いていない、などということが挙げられます。
(病名などは、前回「お座り」の部分でも触れたので、気になる方は見てみてください。)

前述したとおり、ハイハイを全くしないまま普通に歩き出すお子さんもいるとおり、「ハイハイしないこと」「つかまり立ちしないこと」自体すべてが異常ではありません。

ただし、数ヶ月かけて様子を見つつも、診察で明らかに両足や全身の筋肉の緊張・筋肉の力が弱い場合や、ほかの発達も遅れている(全く喃語を話さない、眼が合わないなど)場合には、上記のような何らかの病気を疑って、検査を検討することがあります。

生後8~10ヶ月頃の検診で、ハイハイやつかまり立ちをしないことを相談しても、小児科医がとりあえず「様子を見てみてくださいね」と言っている頭の中では、上記のようなことを考えています。


シャッフリング・ベイビー(いざりっこ)って?


ハイハイやつかまり立ちが遅れるお子さんの中でも、とくに、シャッフリング・ベイビーはよく見られる状態です。「いざりっこ」などと呼ばれることもあります。

端的に言うと「正常の発達の範囲内。でも生まれつき、両足の筋肉の緊張が少し弱めなので、足を使った動きの発達が全体的に遅れがち。」という状況のお子さんです。
とくに重大な病気がなくても、両足の筋肉の緊張がうまれつき弱めなお子さんは一定数います。

もう少し詳しく知りたい方は、下記を参照されてください。


【シャッフリング・ベイビーについて】

<動きや姿勢の特徴>
●腹ばいやうつぶせを嫌がる。
ほふく前進・ずりばい(腕の力だけで前に進もうとする。足がズルズルとついてくる。)
お座りしたまま、両足で漕ぐように移動する。
抱き上げると、両足がうく。そのまま地面におろそうとしても、両足の裏を地面につけたがらない。(空中で座っているような姿勢をとるので”sit in the air”などとも呼ばれます)

<割合など>
日本では3%、海外では8~10%という報告も。
●ご両親も小さい頃に、同じような動きをしていた、という家族歴が、38%のお子さんにあり。

<歩くまでの発達>
●(上記のような)動きや姿勢の持続は、約1ヶ月間ですぐ終わる(その後すぐに定型発達どおりつかまり立ちなどをしだす)場合もあれば、約6ヶ月間つづいてようやく立てる・歩けるようになる場合もある。
歩き始めが、やや遅れがちになることもある。が、定型発達どおり1歳前後で歩き始めるお子さんも多い。シャッフリング・ベイビーでも、75%は歩行獲得までに大きなズレや問題が生じないとする考え方も。
(実際の歩き始めの時期も、1歳半~2歳くらい、1歳3ヶ月~2歳3ヶ月などとかなり幅があります。)

※参考:ベッドサイドの小児神経・発達の診かた(改訂4版)、Shuffling babyの発達的特徴1歳6ヶ月健診におけるshuffling babyの疫学的調査

報告によって差はありますが、そこそこの頻度でシャッフリング・ベイビーと呼ばれるお子さんがいらっしゃること、また、必ずしも歩くのが遅れるかというとそうでもない、ということがわかります。

なおハイハイしない、ずりばいだけ、シャッフリング・ベイビーなどと検索すると、「自閉症」のワードがひっかかり、心配がとまらなくなる親御さんもよくいらっしゃいます。

結論から言うと、ハイハイしない・ずりばいしかしない、あるいはシャッフリング・ベイビーだからといって、それだけで自閉症の確率が跳ね上がることは医学的には証明されていません。

たしかにシャッフリング・ベイビーのお子さんを長期的に追跡すると、のちのち自閉症その他の病気が見つかったという報告は複数ありますが、あくまで結果論です。
ある一つの動作や行動などを見ただけで、自閉症を診断することができたら、私たち小児科医も苦労しません。

「早く歩き出すことと、ほかの領域での発達の進歩に関連はない(Nelson小児科学)」と言われているとおり、一つの動作だけでほかの発達を推測することもできません。

のちほど「受診の目安」でも触れますが、あくまで、シャッフリング・ベイビーの状態にくわえて、その他の発達も遅れている(言葉が出ない、目線が合わないなど)、また診察上あきらかな異常が体にある、そういった場合に、自閉症をはじめその他の病気も疑っていく、という流れになります。

さらにお子さんの発達の性質上、数ヶ月スパンで診ていかないと、わからないケースがほとんどです。


お家でできること:「安全なうつぶせタイム」はやってもいいかも。歩行器は使わない。


正常でもハイハイしないこともあるし、歩く・歩かないは他の発達に必ずしも影響はないと。
とはいえ「様子を見てね」と言われて、自宅で何もする手がないのはもどかしい・・・。

そんな親御さんもいらっしゃるのではないでしょうか?

ちまたでは色んな赤ちゃん体操が紹介されているので、それをトライしてみるのは良いのですが、ここでは医学的な観点から、お家でトライするときのポイント・考え方を紹介しておきます。

①ハイハイやつかまり立ちのトレーニングは、無理やりしなくても良い。
②「安全なうつぶせタイム」は、やってもいいかも。
③歩行器は使わない。


①ハイハイやつかまり立ちのトレーニングは、無理やりしなくても良い。


「赤ちゃん体操」などとググると、色んな本やホームページなどで、赤ちゃんの発達を促す体操が紹介されています。

赤ちゃんをうつぶせに床においてあげて、お気に入りのおもちゃを目線の少し遠くに置いてみる(ハイハイで取りに行かせる目的)。

お母さんが両腕や体を支えてあげて、立たせてあげる。
足が床につくのが嫌がる場合は、最初はお母さんの太ももやひざの上に立たせてあげる。

これらをトライするのは良いですが、医学的には「~~体操をしたから~~の発達が早くなる!」と大規模なデータで証明されたものはありません。

というわけで、腹ばい・うつぶせをすごい嫌がる赤ちゃんなのに、無理やりうつぶせにして床に置いたり・遊ばせようとしたり、といったことはしなくて良いです。

あおむけやお座りなど、赤ちゃんが落ち着いて遊べる姿勢があれば、それで良いのです。

長期的に、特徴的な動きが続いて、発達の遅れが顕著になってきている。そのため、医学的に見てもリハビリテーションが必要そう。
そんな場合は、専門家(理学療法士など)のもとで指導をうけて、リハビリに取り組む流れになります。


②「安全なうつぶせタイム」は、やってもいいかも。


ハイハイをしない原因として、腹ばい・うつぶせが苦手な赤ちゃんがいることは、前述しました。

この場合は、シンプルに「腹ばい・うつぶせに慣れさせてあげる」と良いと言われています(米国小児科学会 “Crawling Styles”)。

ご機嫌なときに、プレイマットなどお気に入りのおもちゃがある場所で、うつぶせにしてあげる。
お母さんがあおむけに寝て→赤ちゃんをうつぶせにして、お母さんのお腹の上に置いてあげる→お母さん+赤ちゃんで一緒にゆらゆらする、などです。

親御さんが見ている状態で、赤ちゃんもご機嫌なときに、こうした「安全なうつぶせタイム」をとってあげること(英語ではtummy timeと呼ばれます)。これは、乳幼児突然死症候群(SIDS)対策や、頭の形・向きクセ対策にもなることを、過去にも書いてきました。

③歩行器は使わない。


まだ賛否両論はあるところですが、小児科医としては歩行器を積極的に勧める理由はありません。
歩行器を使ったからつかまり立ちや歩きが早く獲得できた、という明らかな医学的な証拠がないからです。

むしろ歩行器を使った結果として、ハイハイやずりばいなど、手足を使って重力にさからうような動きの経験が少なくなり、逆に歩くのが遅れる可能性があるとも言われています(乳児のはいはいに関する調査報告)。


また歩行器での事故も、多数報告されています。

歩行器に入ったまま、前にある物や壁などにぶつかってしまったり、階段から落下してしまったりといった歩行器関連の事故で、アメリカでは24年間で23万人が受診している・最悪の場合死亡例もある、といった報告があり、アメリカでは「歩行器は使わない」という流れが主流になっています(Pediatrics October 2018, 142 (4) e20174332)。

受診の目安


最後にハイハイ・つかまり立ちをしない、気になる動きがあるけど、どの時点で受診を考えたらいいか?という目安を紹介しておきます。

【受診の目安】

●1歳になっても、ハイハイ・つかまり立ちをしない、しようとしない。

●1歳半になっても、全く一人で歩かない、歩こうとしない。歩けるが数歩ですぐ転ぶ。

●片手や片足だけ動かす、つまさき立ちしかしない、など気になる動きが1ヶ月以上続いている。

今までできていたことが、できなくなった(お座りできなくなった、など)。


繰り返しますが、発達の中でもとくに個人差も大きい分野なので、一概に「上記だったら絶対異常!即、検査!」というわけではありません。


明らかな身体診察の異常や、発達の遅れが急速に進んでいるなどではない限り、まず受診をされても、ひとまずは1ヶ月~数ヶ月様子を見ていきながら、お子さんの発達がどうなっていくかを観察する期間が必要なことがほとんどです。

ただし小児科医としても「必要なときに、必要な検査ができるよう、タイミングを逃してあげたくない」と思っているので、上記を受診の目安としつつ、一度ぜひご相談してみてねというニュアンスです。


10ヶ月健診のあとは、公的な集団健診としては1歳6ヶ月健診になってしまい、半年ちかく間が空いてしまうのも、また親御さんの不安が強まる一つの要因になっています。
自治体や、お生まれになった病院によっては、1歳での健診を積極的にやってくれているところもありますが、そうでない場合も多いと思います。

少しでも気持ちを穏やかに過ごせるような、お助けになれば幸いです。

さて次回は、こちらもまたお悩みの多い「なん語」や「言葉」について、見ていきたいと思います。

(この記事は、2023年1月28日に改訂しました。)


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