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[小児科医ママが解説] 頭のカタチ【Vol.3】「様子を見て」と言われた時、ひとまず家でできること。ドーナツ枕は効果なし?!

頭の変形は、自然に見ているだけでは治らない場合もあること(【Vol.1】)、また生後6ヶ月頃からの矯正ヘルメット治療は、一定の効果がありそうだということ(【Vol.2】)こういったことを、前回までに書いてきました。

「ん~やっぱりうちの子も、頭の変形・左右差がきになる。でも健診で様子を見てって言われて終わっちゃったんだよね・・・」そんな親御さんは非常に多いのではないかと思います。

そんなとき、ひとまずご自宅でできることがあるか。今回はそんなことをまとめていきます。


今回の参考文献はこちら。

●Positional Skull Deformities.
(Dtsch Arztebl Int. 2017 Aug 7;114(31-32):535-542)

●Guidelines: Congress of Neurological Surgeons Systematic Review and Evidence-Based Guideline on the Management of Patients With Positional Plagiocephaly: The Role of Repositioning.
(Neurosurgery. 2016 Nov;79(5):E627-E629.)


あらゆる左右を均等に。同じ姿勢をずっととらせない。


ヘルメットや手術といった治療の一歩手前、「保存的治療」の要になるのが「①ポジショニング ②リハビリ」の2つです。

具体的には「①左右どちらかにかたよるような姿勢を避ける ②赤ちゃんの自然な動きをさまたげない・必要に応じたストレッチ」が大きな目標になります。

●頭をなるべく、左右にバランス良くむける。
寝るときの保護者と子どもの左右の位置、抱っこする向き、オモチャを置く向きを固定しない(左右均等に)。
●バウンサーや抱っこひもなど、長時間の同じ姿勢を避ける。赤ちゃんの自由な動きを制限しない。
●頸部の回旋異常があれば、首のストレッチ(下記[*]を参照)
●保護者が見ていて・安全な状況で、うつぶせの時間を積極的にとる。

左右バランスよく・・・というのは、赤ちゃんがベッドや床に寝ているときなどは気をつけやすいのですが、授乳や抱っこの仕方も、無意識のうちに常に同じ方向になっているので注意です。

ベビーベッドで寝ている赤ちゃんに対して窓(=光)が常に右側にある、また、お母さんが常に赤ちゃんの右側で寝ている、など、何気ない日常生活で、つい左右が決まってしまっていることも多くあります
安全にできる範囲でいいので、これらは色々なバリエーションがあるほうがよさそうです。

赤ちゃんが見ている・見たがる方向とは、あえて逆の方向から話しかけたりするのも、一つの方法です。

こうした対策は、とくに生後4ヶ月未満であれば、非常に効果が高いとされています。
実際にフィンランドでこのような指導を保護者に行った結果、(保護者に指導していない場合と比べて)生後3ヶ月での変形の割合が減った(11% vs 31%)という報告があります。
(Eur J Pediatr. 2015 Sep;174(9):1197-208.)

また、親御さんが見ているなど、安全な状況で「うつぶせの時間=tummy timeをたくさんとる」ことも、頭の形の対策になるとしています。
上記の参考文献では、1日3~30分くらい、うつぶせの時間がとれたらいいのでは、という見解がありますので、一つの参考になるかと思います。

ちなみにうつぶせのトレーニング=tummy timeは、乳幼児突然死症候群(SIDS)のためにできる対策としても、有効です。SIDSについては今後、複数回にわけて記事をアップする予定です。


[*] ストレッチについては、ほかにもボバーズ法やボイタ法といったものが提唱されていたりしますが、これらは必要に応じて、きちんと医師や理学療法士の指示を仰いだほうが良いでしょう。
自宅でできる範囲としては、一般的な範囲でのベビーマッサージや、ベビーリトミックといった範囲で良いと思います。
さきほどの左右のポジショニングとあわせて、こうしたリハビリ・ストレッチも生後7週など早期に行うことで、より効果があるだろうとされています。


ドーナツ枕を使えば治る、という医学的な根拠はありません。


向きぐせが気になった時に、ドーナツ枕・円座枕を買った・使ってみたという方も、非常に多く聞きます。

が、2つの点から「ドーナツ枕や円座枕は使わないで」と説明しています。

一つは、効果が立証されていないこと。

赤ちゃん、寝ている間も結構動きますよね。そして大人のように長時間同じ姿勢で寝ることも多くないです。単純に考えて、こうした体動があることから、枕は効果がないだろうというのが一般的な見解です。
上記の参考文献の世界的なガイドラインでも「クッションなどは使わない」としています。

もう一つは、安全な睡眠環境、という点からおすすめできません。

米国小児科学会は、乳幼児突然死症候群(SIDS)の対策として、「ベッドに枕をいれない」としています(Pediatrics November 2016, 138 (5) e20162938.)。

SIDSは窒息による死亡とは、概念が違います。SIDSはあくまで死因が特定できない死亡です。しかし、窒息の恐れのあるアイテムをそもそもベッドに入れないという概念は大事ですし、また、体温がこもりすぎる・子どもの自然な体位変換を防いでしまうことがSIDSの一つの原因と言われています。

枕がSIDSのリスクを上げる、一つのアイテムになってしまう可能性が、ゼロではないのです。
ほかにも、毛布やシーツも入れないなど、SIDS対策で大事な点はたくさんあるのですが、これはまた別記事にしたいと思います。


セカンドオピニオンは、積極的にしてOK。


できる限りであらゆる左右差をなくして、かつドーナツ枕は使わない。
前回も触れたように、軽症の変形であれば、発達にともなって自然によくなる例も多いため、経過を見る時間が必要な場合もあります。

しかし最終的にヘルメットなど何らかの治療が必要になったお子さんでも、「今までも、健診や医療機関で相談したけど、毎回、様子を見ましょうと言われてしまっていた」というケースが非常に多いのです。

実際に、医師よりも親御さんが先に、(治療の対象となる)頭の変形を発見してくださる例が、実は過半数を占めるのではないかという日本の報告もあります(「頭蓋骨縫合早期癒合症の早期診断における小児科医の役割」日本小児科学会雑誌, 122(4), 742-747, 2018-04)。
医師の間でも正直まだまだ、頭の変形や、それを治療すること重要性について、認知度が低いなと感じるときもあります。

たとえば生後6~7ヶ月健診で「様子を見ましょう」と言われた。
でもどう見ても頭の変形・左右差がきになる。
そんなときは、迷わずにセカンドオピニオン、つまり違う医療機関や医師に相談してみて良いと思います。

親御さんからも「生後6ヶ月くらいから、ヘルメットの治療ができる可能性がある、と調べた。頭の変形は、発達にも影響があるらしいと聞いている。ぜひ専門の病院や外来に紹介してほしい。」とハッキリ伝えてもらっていいです。
むしろそこまで伝えないと、もう一回「様子を見てください」で終わることも多いと思います。



どうでしょうか。

頭の形はとにかく「様子を見て」と言われることが非常に多いのですが、その状況なかで、ご自宅でトライできることがあること。
ただし時期をみて、セカンドオピニオンをためらわないこと。

この大切さが伝われば幸いです。


さて、実際にヘルメットの治療を本格的に考えてみたい。やっている病院は近くにあるのか。
さきほどのセカンドオピニオンをするにしても、いきなり「頭の変形を見られる病院に紹介してください」と医師に伝えても、何も調べていないとお互いに専門の病院の名前がパッとはでてこないので、困ることも多いです。


ヘルメットの最後の記事は、現時点で日本でできる具体的なヘルメット治療と、医療機関についてまとめてみます。

【Vol.4】日本のヘルメット治療:ヘルメットの種類、病院、治療ブログのまとめ。

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