見出し画像

[小児科医ママが解説] おうちで健診:「おむつかぶれ」のあれこれ。「カビ」も原因になる?!受診の目安は?

「教えて!ドクター プロジェクト」の「乳幼児健診を知ろう!」にそって、解説させていただいている「おうちで健診」シリーズ。


前回前々回と、乳児湿疹やアトピーについて、とりあげてきました。


今回は、「教えて!ドクター」のフライヤーにも書かれている、
「おむつかぶれ」について。
原因、おうちでできるケア、受診の目安を紹介したいと思います。

今回の参考文献はこちら。

●UpToDate
“Diaper dermatitis”

●「新しい皮膚科学(第2版)」
清水宏、中山書店、2011年

亜鉛欠乏症の診療指針 2018


おむつかぶれの原因とリスク ①おしっこ・ウンチ ②感染 ③亜鉛


おむつかぶれ(おむつ皮膚炎)は、とても多くみられる皮膚トラブルです。

バラツキはありますが、お子さんの4人に1人は見られるという報告もあります。(Arch Pediatr Adolesc Med. 2000;154(9):943. )

早いと、生後1週間からみられることもありますが、一番多いのは、赤ちゃんが生後9~12ヶ月頃のようです。
(①Pediatr Dermatol. 1986;3(3):198. ②Clin Pediatr (Phila). 2007;46(6):480.)

おむつの中はどうしても、湿気がこもり・蒸れてしまい、皮膚トラブルになりやすいイメージがありますよね。

医学的には、おむつかぶれの原因やリスクとしては、もう少し細かく、以下のようなものが挙げられています。

【おむつかぶれの原因・リスク】

おしっこやウンチが、長い時間お尻に触れている。
細菌・真菌(カビ)・ウイルスなどが皮膚に感染している。
③栄養(とくに亜鉛)が不足している。

①おしっこやウンチが、長い時間お尻に触れている。


とくにウンチがゆるい状態は、おむつかぶれのリスクです。
(①J Int Med Res. 2012;40(5):1752-60. ②Pediatr Dermatol. 2007;24(5):483. ③J Wound Ostomy Continence Nurs. 2019;46(1):30.)

まだ母乳やミルクしか飲んでいない赤ちゃんは、基本的にウンチがゆるい状態なので、おむつかぶれになりやすいのは、致し方ないところもあります。

ほかにも、たとえば抗生剤を飲むことでも下痢になるので、抗生剤もおむつかぶれのリスクにはなります。
(J Am Acad Dermatol. 1988;19(2 Pt 1):275.)


②細菌・真菌(カビ)・ウイルスなどが皮膚に感染している。


①おしっこやウンチによって荒れた皮膚から→②細菌などが感染する
という流れで、さらにおむつかぶれが長引く原因になります。

皮膚の表面には、ブドウ球菌やレンサ球菌などといった、常在菌がいます。普段は悪さをしない細菌ですが、かぶれて皮膚の表面が傷つけられると、そこから常在菌が皮膚の中に入り込んで、炎症を起こします。

医学的には、伝染性膿痂疹(「とびひ」のことです)や蜂窩織炎(ほうかしきえん)などとも言いますが、これもおむつ皮膚炎の原因になります。

感染するのは細菌だけではなく、ウンチの中に含まれるカンジダ(真菌・カビの一つです)や、ヘルペス(ウイルス)もあります。

なお、見た目だけでは判断がむずかしいことも多いのですが、たとえばカンジダの感染によるおむつかぶれの場合、より赤いブツブツが目立つこともあります。

カンジダ


③栄養(とくに亜鉛)が不足している。


栄養が足りない。といえど、
ミルクや母乳の飲みがちょっと悪いわ。
くらいじゃ、普通はいきなり、おむつかぶれにはなりません。

が、以下のような場合は、とくに亜鉛が足りなくなることで、おむつかぶれを始めとした、皮膚トラブルを起こしやすいと言われています。

【栄養(とくに亜鉛)による皮膚トラブルのリスク】

●早産で産まれた
赤ちゃんは、まだお腹の中にいるときに、お母さんから亜鉛をもらって、その後に生まれてきます。
これは妊娠後期・とくに30週以後に起こるプロセスです。
つまり、30週よりも前に産まれた・30週すぎてすぐに産まれたお子さんの場合、赤ちゃんがもともと蓄えている亜鉛の量が、通常よりも少ないです。このため、おむつかぶれなどの皮膚トラブルが起きやすい状態といわれています。

●(遺伝子の変異のために)母乳の中の亜鉛が足りない
(極端な菜食主義者とかでない限りは)お母さんの食事が悪いとかそういう問題ではなく、遺伝子の変異があるために、どうしても母乳の中に亜鉛が分泌されない方がいます。

●(遺伝子の変異のために)お子さんが亜鉛を吸収できない
50万人に1人という割合ですが、せっかく摂取した亜鉛を、お腹の中で吸収することができず、結果として亜鉛欠乏から皮膚炎を起こしてしまうお子さんもいます。

この場合は、おむつ以外にも口や手足の末端にも皮膚炎があったり、体重は増えにくいなどの症状もあったりすることで、気づかれるケースが多いです。

ちょっと特殊なケースではありますが、普通のおむつトラブルの治療をしてもなかなか良くならない場合は、疑って詳しい検査や特別な治療をすることもあります。


おむつかぶれの治療 ①おむつをこまめに変える ②ワセリンで保護する ③感染の治療をする


というわけで、できる対策や治療として、何があるかを見てみましょう。

①おむつをこまめに変える


・・・当たり前じゃん。
って感じですが、おむつかぶれの治療の基本は「おしっこやウンチが、皮膚と触れる時間をとにかく少なくすること」であることは、論文でも触れられています。
(①Contemporary Pediatr. 1997; 14:115.1 ②Pediatr Dermatol. 1986;3(3):198.)

赤ちゃんのウンチはゆるく、おしりふきで毎回ふきとるのも大変なこともあります。
おむつを下にひいたまま、100均などでうっているソースボトルをつかって、ぬるま湯を直接お尻にかけてあげると、ウンチを流しやすい場合もあります。


なお「できたら1日のうち数時間、おむつフリーの時間を作る」という提案もされていますが。
(①Pediatr Clin North Am. 2014 Apr;61(2):367-82. Epub 2014 Jan 14. ②Clin Dermatol. 2014 Jul;32(4):477-87. Epub 2014 Feb 28.)

…ただでさえ大変な育児中、おしっこやウンチを床にばらまかれても相当なストレスなので、これはぶっちゃけ、ムリしてやらなくて良いでしょう。


②ワセリンで保護する


おしっこやウンチが、おむつトラブルのリスクになるって言ったって、とくに生後数ヶ月の赤ちゃんは、頻繁におしっこやウンチをするもの。

じゃあ、お尻にたっぷり軟膏ぬって、おしっこやウンチがつかないようにしてあげよう!という単純な考えです。

これもまた、おむつかぶれの基本の治療として、大事な方法です。

何を塗ったらいいかは、実は医学的に絶対これ!というものは証明されていません。

が、経験上、亜鉛が含まれる薬(例:亜鉛華軟膏、サトウザルベなど)や、ワセリン・プロペトなどで対応することが多い、というのが世界的な見解です。
(①Contemporary Pediatr. 1997; 14:115.2 ②Dermatol Clin. 1999;17(1):235. ③Clin Dermatol. 2000;18(6):657. ④Dermatol Ther. 2005;18(2):124.など)

前述のとおり、亜鉛は皮膚トラブルと関係があるので、そういう意味でも、亜鉛を含むお薬を塗ることは、たしかに理にかなっていそうですよね。

もしお手元に、前に処方された「亜鉛華軟膏」や「サトウザルベ」などがあるという場合は、ひとまずお尻に塗ってみるのは、立派なホームケアです。

でも別に亜鉛華軟膏じゃなきゃだめ、というわけではなく、ドラッグストアなどで買えるベビーワセリンなどでも、十分に保護の効果はあります。

また、とくに亜鉛華軟膏やサトウザルベなどは、ふき取りにくい・流しづらいですが、(薬の上についたウンチやおしっこをちゃんと老けていれば)薬自体はふき残しても大丈夫です。
(①Dermatol Ther. 2005;18(2):124. ②Skin Therapy Lett. 2006;11(7):1. ③Pediatr Nurs. 2004;30(6):467.)

こうした保護剤は、1日何回塗ってもOKなので、ムリのない範囲で、おむつを変えるたびに塗ってあげられるとベストです。


通常はこうした治療で、2~3日で改善することが多いと言われています。
が、ちゃんと清潔にしていても・軟膏をたっぷり塗っていても、3日以上たっても全然よくならない・悪くなってきた。

そんな時に考えるのが、感染です。


③感染の治療をする


かぶれた皮膚の状態のところに、皮膚やウンチの中にふくまれる、細菌・真菌(カビ)・ウイルスなどが感染することも、おむつかぶれの原因になるんでしたね。

この場合は、それぞれ、細菌・真菌(カビ)・ウイルスに効果のあるお薬を塗る必要があります。

なおおむつに限らず、皮膚に炎症がある場合、炎症を抑えるためにステロイドを使うことはよくあります。
「前に、お顔の湿疹で処方されたステロイドがあるんですが、おむつかぶれに塗ってもいいですか?」という質問をいただくことも時々あります。

が、基本的には、ワセリンや亜鉛華軟膏といった一般的な保護剤「以外」のお薬をお尻に塗るのは、診察を受けてからにしてください。

おむつかぶれにステロイドが有用かどうかは、まだ大規模で信頼性の高い検証がされていない状況です。
また、とくに陰部は、ほかの体の部位よりもステロイドの吸収率が高いです。

さらに、万が一、細菌・真菌(カビ)などが感染していた場合、ステロイドを塗ることで感染がさらに進んでしまう可能性があります(ステロイドは免疫も抑える効果があるため)。


いかがでしょうか。

よくある、おむつかぶれですが、医学的に少し詳しくみてみました。
対策と、受診の目安をまとめておきましょう。

【おむつかぶれ おうちでできること】

●おむつをこまめに変える
・下痢でふきづらい時は、ソースボトル+ぬるま湯も一つの手。

●ワセリンで保護する
・市販のベビーワセリンでOK。あれば亜鉛華軟膏・サトウザルベも可。
・1日何回でも塗って良い。
・ステロイドは感染が悪くなることがあるので、診察前には塗らない。

【受診の目安】

清潔にして、ワセリンもたっぷり塗って保護しているのに、3日以上、症状がつづいている。
お顔や手足の湿疹も目立つ・体重が増えづらい・飲みが悪いなど、おむつかぶれ以外の症状もある。

(この記事は、2023年2月20日に一部改訂しました。)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?