見出し画像

[小児科医ママが解説] 喘息って、遺伝するの?


「私が喘息だから、この子も喘息なんじゃないか・なるんじゃないかって心配で。」そうおっしゃる保護者の声、本当に外来でよくうかがいます。

たしかに、「ご両親やご兄弟に、喘息の方がいるか」という点は、お子さんが喘息かどうかを疑う一つの手がかりになることは前の記事でも紹介しました。(記事:喘息"っぽい"って何よ?結局、喘息なのどうなの?


実際のところ、喘息に遺伝はどこまで関係しているのか。今回も論文など科学的な情報をもとに、見ていきたいと思います。


たしかに家族性・遺伝は関係ありそうだが、一概に「遺伝する」とは言えず。


ご両親に喘息の方がいる場合、お子さんが喘息を発症するリスクは、(ご家族に喘息がいない場合とくらべて)約3~5倍くらい高いのでは、という報告があります。
“Risk factors for asthma in young adults. Spanish Group of the European Community Respiratory Health Survey.”(Eur Respir J. 1997 Nov;10(11):2490-4.)

また双子でどれくらい、喘息かどうか一致するかを検討した報告があります。一卵性の双子では38~62 %、二卵性の場合は9~26 %。
つまり一卵性のほうが、二卵性と比べて高い割合で、喘息かどうか一致している傾向
がありました。
“Genetic influence on the age at onset of asthma: a twin study.”(Allergy Clin Immunol. 2010 Sep;126(3):626-30.)

そのほかにも喘息と関連あるとされる遺伝子が20個以上特定されているなど、やはり喘息になるかならないかは、たしかに遺伝の要素がからんでいそうだと推測されます。

しかし、親御さんが喘息があったとしても、お子さんは全く喘息でない家族もいるのも事実。逆に、ご家族には全く喘息と診断された人はいないのに、お子さん1人だけが重症な喘息、というケースもあります。

そしてひとくくりに「喘息」といっても、重症度や、いつまで症状がつづくのか、といった経過は本当にケースバイケースです。
「喘息は遺伝するものだ」と簡単には言い切れないところがむずかしいところです。


妊娠中にできることは、禁煙くらいか。


でもたしかに、喘息には、遺伝の要素はありそう。じゃあ妊娠中からなにかできることはないのか・なかったのか、と考えるのが母親のさがです。

「妊婦さんは魚をしっかり食べなさい」というのを、どこかで聞いたことがあるという人も多いのではないでしょうか。

魚油に含まれる、イコサペンタエン酸(IPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)といった、長鎖n-3系多価不飽和脂肪酸について。妊娠中にこうした成分を摂取したほうが、生まれてくるお子さんのゼイゼイや、喘息になるリスクを下げるのではないか。という報告はたしかにあります。
Fish Oil-Derived Fatty Acids in Pregnancy and Wheeze and Asthma in Offspring.(N Engl J Med. 2016 Dec 29;375(26):2530-9.)

一方で、妊娠中に魚油を摂取しても、明らかに喘息の発症を予防できる根拠はないのでは、とする報告も複数あります。
①Fish oil supplementation in pregnancy modifies neonatal allergen-specific immune responses and clinical outcomes in infants at high risk of atopy: a randomized, controlled trial.(J Allergy Clin Immunol. 2003 Dec;112(6):1178-84.)
②Effect of omega-3 fatty acid concentrations in plasma on symptoms of asthma at 18 months of age.(Pediatr Allergy Immunol. 2004 Dec;15(6):517-22.)

魚油にかかわらず、そもそも妊娠中の母の食事制限自体が、生まれてくるお子さんの喘息の発症予防にはならない、とする論文もあります。
Dietary prevention of allergic diseases in infants and small children.(Pediatr Allergy Immunol. 2008 Feb;19(1):1-4.)

魚食べたらいいんか・食べても意味ないんか、結局どっちやねん。
って感じですが、日本および世界的なガイドラインいずれでも、「妊娠中に食事を制限・調整しても、それだけで喘息(や食物アレルギー)の発症を防げるわけではない」というのが共通見解です。

また、喘息が悪化する一つの要因として、ダニがあります。
そこで、ママが妊娠中に、防ダニシーツや防塵(じん)グッズなどを使っていると、生まれてくるお子さんが喘息を防げるかという検証をしてみた研究が複数あります。が、確実に予防できる効果は今のところ、示されていません。
①Prevention of allergic disease during childhood by allergen avoidance: the Isle of Wight prevention study.(J Allergy Clin Immunol. 2007 Feb;119(2):307-13.)
②The Canadian Childhood Asthma Primary Prevention Study: outcomes at 7 years of age.(J Allergy Clin Immunol. 2005 Jul;116(1):49-55.)
③Prevention of asthma during the first 5 years of life: a randomized controlled trial.(J Allergy Clin Immunol. 2006 Jul;118(1):53-61. Epub 2006 May 30.)

なんだー。妊娠中に色々やっても無駄じゃん。って感じの流れになってきましたが、絶対にやってもらいたいのは「禁煙」です。

妊娠中にタバコを吸っていると、生まれてくるお子さんの呼吸機能が低下したり、喘息のような気道の弱さ・過敏さに関連することが報告されています。
①”Parental smoking, bronchial reactivity and peak flow variability in children.”(Thorax. 1998 Apr;53(4):295-301.)
②”Parental smoking and lung function in children: an international study.”(Am J Respir Crit Care Med. 2006 Jun 1;173(11):1255-63. Epub 2006 Feb 16.)

そのほか妊娠中の喫煙は、早産や低出生体重児とも関連があり、それらはともに喘息・ゼイゼイのリスクになります。
そのほか赤ちゃんの受動喫煙は、乳幼児突然死症候群や中耳炎などのリスクにもなります。

多分こんな記事よんでくださっている方は、妊娠中の禁煙なんて当たり前じゃんって感じかもしれませんが、妊娠がわかった時点でタバコを吸っている人は、実は1ケタ~数10%くらいはいるとも言われています。
周りでもしいたら、ぜひ禁煙をすすめてあげてほしいと思います。


喘息の「予防」よりも、「診断的治療」のタイミングを逃さないほうが大事。


ここまで見てくると、喘息になるかならないかは、たしかに遺伝は関係ありそう。でも妊娠中になにかしたところで予防できるわけでもないし、結局喘息になるかならないかもケースバイケース。

ということで、予防よりも「診断的治療」のタイミングを逃さないほうが大事なのでは、という話になってきます。

「診断的治療」は前の記事で触れています。(記事:喘息"っぽい"って何よ?結局、喘息なのどうなの?


お子さんの喘息は、どうしても診断がむずかしい。
なので疑った段階で、とりあえず1ヶ月間お薬を使ってみて、その間、症状が良くなるか試してみる。
良くなった場合は、薬がきいた=喘息なんじゃない?ということで、その後、喘息として治療していく。治療しつつ、診断していく、というアプローチが「診断的治療」でしたね。

お子さんは普通の風邪でも、一時的にゼイゼイすることもあります。
逆に、症状は咳くらいかなと思っていても、実は胸の音を聞くとゼイゼイしていて、喘息の症状だったということもあります。
とにかく判断がむずかしいのです。

咳がやたら長引くな(感染したあと4週間は咳がでてしまう=感冒後咳嗽、という概念がありますので、4週間以上、ダラダラ続く場合が目安です)。
早朝や夜、運動した後などに、咳が目立つな。
そういった場合は、一度、小児科医に気軽に相談していただけたら幸いです。

「喘息にならないかどうかおびえる、効果があるかどうかわからない対策をしてみる」というよりは、
「喘息(っぽい)かどうか小児科医にきちんと判断してもらって、その都度、できる治療や対応をしていく」という、診断的治療のタイミングを逃さないこと。

そんな大切さが伝わればうれしいです。

(この記事は、2023年1月26日に改訂しました。)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?