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童話集

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みじかい童話集。
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記事一覧

ありがとう[絵本/色鉛筆画]

ありがとう[絵本/色鉛筆画]

作・絵 いのり

気づけば ぼくは 土のなか。

とても あたたかい大地につつまれて 眠っていた。

あたたかい大地
守ってくれて ありがとう。

土の中で 動きだすころ
ミミズたちが ぼくを はげましてくれた。

「がんばれ がんばれ もうすぐ あと もうちょっと」

ちからづよい声
ミミズたちよ ありがとう。

少しこわがりながら 出たぼく

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金の樹と若者

金の樹と若者

その村にはとても美しい樹がありました。
なぜ美しいかというと、その樹の葉は金でできていたからです。枯れることのない金の葉は、村人にとって宝でした。

ところがある日、村にやってきた若者が、その樹を見たとたん感動のあまりに、樹を根こそぎ掘り返してしまい、自分の家へ持ち帰ってしまったのです。村人は悲しみました。
若者はうばった樹を大きな鉢へ植えかえると、自分の家の中央に置きました。金の葉がきらきらと、

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ガラスの船

ガラスの船

船が一隻あります。ガラスでできた船です。
それを見ている男の人がいました。男の人は、今からこの船で旅に出るのです。旅へ出るなら、この船だと決めていたのです。
透明に透き通る船の底には、海がそのままに映し出され、きっと美しいにちがいない。男の人はそう思ったのです。
一流のガラス職人に船作りを依頼し作ってもらいました。三年もかけて作ってもらった、最高級のガラスの船です。
男の人はいざ、船に乗り込みまし

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まばたき一瞬

まばたき一瞬

旅人は今日も旅を続けています。
目的などない旅でしたから、自由気ままに過ごしていました。

よく晴れた日の午後歩いていると、大木の下で何やら耳をたれ下げため息をついているうさぎと出会いました。
うさぎは何だかとても寂しそうな様子です。

「君はなぜ、寂しそうなんだい」

旅人は聞きました。うさぎは、うう、とうなると言いました。

「なぜって、昨日ぼくは迷子になってしまってね。ひとりぼっちで歩いてい

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神の手を持つ画家とマヌケな化け物

神の手を持つ画家とマヌケな化け物

ある街に神の手を持つと言われる一人の画家がいました。
その画家が想いを込めて描かれた絵には魂が宿り、キャンパスから飛び出し動くことができたのです。

女の子が言いました。
「素敵な歌を歌うカナリアがほしいの」
画家が愛らしい瞳のカナリアをキャンパスに描くと、たちまちそこからカナリアは飛びたち歌を披露しました。
病気がちで寂しかった女の子は、喜びを溢れさせ礼を言いました。
「ありがとう、画家さん」

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乙女は花列車に夢を見る

乙女は花列車に夢を見る

ルーニンが住む街では、毎年秋になると大きな祭りが行われた。花祭りと呼ばれるそれは三日三晩続く大行事だ。秋の実りと収穫を祝うそのお祭りではコスモスがシンボルとなっており、あちこちに華やかで可愛らしい花弁が咲き乱れている。
今年で十二歳となるルーニンは、そんな花祭りが大好きな少女だった。
ルーニンは花祭りが始まる日の朝、誰よりも早く起床した。
「お母様おはよう! さあ、早くアップルパイを焼きましょう」

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紫色の聖夜(200字ノベル)

紫色の聖夜(200字ノベル)

伝説では紫の星を聖夜に見つけると願いが一つ叶うという。

少年は屋根に登り夜空を見上げた。
しかしどんなに目を凝らしても紫の星は見つからない。
諦めて屋根を下りるとローズマリーが足元に咲いていた。
これも紫か、と少年が一つ手に取ると花の中央に小さな少女が眠っていた。
おどろいた少年はそのまま花ごと少女を家に連れて行った。
そして少年は小さな少女と幸せに暮らす。

もう誰もいない世界で、ひっそりと。

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