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恋愛掌話

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ふと気晴らしに恋愛小説を書いています。
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#青ブラ文学部

蠱惑の赤 2 #いやんズレてる

 ピッチが早い。  彼女の杯がすぐに空になる。  それでこちらも誘因される。  もう車を使…

百舌
3日前
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蠱惑の赤 1 #いやんズレてる

 かつて、すれ違いも愉しみでもあった。  携帯もスマホもない時代は、女子の家に電話をかけ…

百舌
7日前
13

男爵のヴィラ 2 #いやんズレてる

 普段通りの時間が流れている。  のは内面だけだ。  閉ざされた空間で全裸で過ごしている。…

百舌
12日前
16

男爵のヴィラ 1 #いやんズレてる

 後ろ手に鍵を掛けられた。  堅牢なドアに相応しい重い音。  複数の鍵をひとつひとつ丁寧に…

百舌
13日前
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ホワイトシチュー #いやんズレてる

 あたしさぁ、と乗ってきた。  裸の胸に彼女の髪がさらりと触れる。  その感触をなぞる様に…

百舌
2週間前
16

夜を疾走する

 もう10年も昔のことだ。  初めて横須賀を訪問した。  その街の何所かに、縁遠くなった女性…

百舌
2週間前
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繭玉祀り 1

 私は存在していたのかしら。  記憶さえ曖昧な乳白色の闇に包まれている。  時間の流れでさえ、白濁した思いで思いでの谷底に埋もれて、その断片だけが取り残されている。  今思えば本当に奇妙な世界に浮かんでいる  濃厚なスープのなかで群れている魚影のように、誰もが顔を持たない。不定形でぶよぶよの姿であり、その声も音声としては届かない。私の心の声だけが耳にできる。  幸いなことに。  他の人が語るものは、文字として白霧に浮かんでくる。  私の周囲にある影は、それぞれに個性があって。

Showroom ♯腐れ縁だから

 アームチェアで膝を組んでいる。  イームズのシェルアームチェアで、座面は織地で肌触りが…

百舌
4週間前
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郷愁のひと皿 2 ♯帰りたい場所

 早朝から峠を走る。  明治の空気が残るこの道に、愛車を連れていきたかった。  佐賀の鹿島…

百舌
1か月前
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郷愁のひと皿 1 ♯帰りたい場所

 法事のために島を出ます。  片道3時間弱は毎回、新作を書く時間に充てていて。ただし今日は…

百舌
1か月前
24

帰りたい場所、還りたい刻

 還暦という区切りまでもう少し。  生後すぐに母親を。  二十歳そこそこで父親を。  早く…

百舌
1か月前
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#君に届かない

 遊歩道はひび割れていた。  炎熱と風雪の痕跡だろう。  石段に走る隙間から、新芽の息吹が…

百舌
1か月前
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優しい天秤 I 痩せたガールの日常

 今月は厳しいな。  進行表をスマホで管理している。  もう銀杏の並木道に木枯らしが駆け抜…

百舌
2か月前
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sepia colored

 不思議なことに。  別居離婚をして。  僅かな眠りを拾うように集めていて。  それでも朝がまんじりと明るくなっていくのを、腹立たしく思っていた頃。街が眠りから醒めようとしていても、身体にはやるせない衝動が血管を流れていて覚醒したままだった。  その頃は、妻の夢は殆ど見なかった。  不思議と小学生からの、掠れてしまった記憶が順番に蘇るのを体験した。脳内で気遣っているのか、半生を追体験するように、辛くて生々しい感情には触れないように、きちんと迂回を果たしてくれた。  幼き頃の古