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男爵のヴィラ 1 #いやんズレてる

 後ろ手に鍵を掛けられた。
 堅牢なドアに相応しい重い音。
 複数の鍵をひとつひとつ丁寧に施錠していく。
 僕は大荷物を下げたまま振り返り、納めるべきパントリーはどこかと彼女に訊こうとしていた。
 衣擦れの音とともに、彼女のワンピースが玄関に落ちた。
 それから慣れた手付きで、ああそれもそうか、ブラを乱暴に外しパンティをはぎ取った。散歩から帰ってきた犬が、リードを自ら乱暴に外すような仕草に見えた。
 New Jerseyの友人家で受けた電話で、互いに自己紹介をした。
「私は石のような色の蒼い眼、ANNEのような赤毛よ。それから空港で一番のBig smileで待っているのが私よ」
「僕はbrown eyeで黒毛の髪に、それに合わせた黒スーツ、葬式にでも出かけるかもという姿でゲートを出て来るよ」
 紹介をした親友がそれを横で聞きながら、「いい女が寄ってきたら、それはリサ・コーリィだと一目でわかるよ」と言った。
 
 髪色は染めたものではなくて地毛だ、と下の方と見比べて分かった。
 そこは彼女を愛人としている男の別荘。
 Santa Monicaの一角にある、白亜の別荘。スペイン瓦が葺かれており、異国風味を出している。Hollywoodの下町の、彼女のflatとは段違いに調度が立派に揃っている。
「週末は別荘ですごさない。彼の持ち物だけど」
 そう提案されたのでその場所へも彼の持ち物のChryslerで向かう。
 幌屋根を閉めるのは、ちょっとキナくさい通りを抜ける時だけだ。
 ルバロンという紋章がついている。男爵さまの、という意味にその彼という男の趣味と合致すると思った。

 どうしたの。
 貴方も脱ぐのよ。
 この週末はずっとここで過ごすの。お互いに裸でね。
 そうね。これはgameなの。
 だからルールを決めましょうよ。
 お互いに。そうお互いに手を出したら、出した方が負けなの。その気を出しても駄目。

「それはフェアじゃない。興奮を外観的に、如実に表す器官が男にはある。君のは指で探らないと判らない」
「乳首で判断してよ。なによ、それじゃ不満?じゃあ勃起はexcused免責の範囲内ね」
 そんな提案で週末のgameは始まった。
 

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