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蠱惑の赤 2 #いやんズレてる

 ピッチが早い。
 彼女の杯がすぐに空になる。
 それでこちらも誘因される。
 もう車を使えないほどに酔いが回っている。
 程よく焦げ目の入ったカマンベールと、パプリカのマリネ、ボイルしたソーセージがつまみに並んでいた。そちらには手が付けられない程だ。
 何だか様子がおかしいと薄々と気がついたときには、彼女の頬が赤らみ、潤いのある双眸そうぼうになっていた。

 ちょっと自棄やけになってて。
 つきあって貰ってごめんなさいね。
 先月ね、退院したのよ。そう心配しないで。実は子宮筋腫でね、総摘出したの。女として空洞からっぽになった気分よ。
 
 僕は動揺した。
 暫くの間、連絡をとっていなかった。
 そもそも先輩の親友であり、先輩を介さないで会うことが稀だった。

 ちょっと相談するわね。
 実はね、わたし今は処女なのよ。

 僕の表情を見て、彼女は艶然と微笑んだ。

 不思議よね。ちょっと厳しいお話かもしれないけど、貴方なら大丈夫だと思うの。
 摘出手術のときに膣口を手術糸で縛るのね、それで密着するので処女膜というか、ナカが再生されちゃうんだって。
 セカンド・ヴァージンなのよ、医学的に。

 なぜここに呼ばれたのが理解できてきた。
 手っ取り早い種馬というのが役割らしい。

 それでね。
 ここに傷もあるでしょ。彼氏とではちょっと辛いのよね。もうできなくなるかもしれなくて、怖いのよ。

 そう言って下腹部をすっと撫でた。
 僕は焦った。だってそうでしょう。
 彼女は離婚したばかり、流産も経験した上での、処女。
 そんな重たいものは受け取り難い。
 僕はまだまだ若すぎたのだろう、と振り返ればそう思う。もう少し年齢を重ねていたら、とも考えるがやはり逡巡したと思う。
 結局、僕は逃げてしまった。
 ワインが廻り過ぎた演技をして、ソファで寝入ってしまった。

 深々と都会ですら寝静まる刻限になる。
 裏通りを通過する車両の音すら際立っていた。
 眠りが浅かったのだろう、何かの気配で目覚めた。
 彼女のベッドは中階のロフトにある。その螺旋階段をナイトウェアを着た彼女が降りてくる。その裾が階段に触れて衣擦れの音を立ててくるのだ。
 その様子が天窓からの薄光で見える。
 リビングに降りた彼女はキッチンに回り、ペットボトルの烏龍茶をコップに注いで飲んだ。
「ねえ、起きているんでしょう」
 総毛だった。びくりとしたかもしれない。ああ、と宵闇の底で寝返りを打った。
「お水が欲しいでしょう、お茶だけど」
 呟きながら、重く熱い体温が迫ってきた。
 半身をあげてコップを受け取ろうとした。
 炎のような唇から、冷たい水分がkissの向こう側から流れてきた。

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