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音楽は三者三様 ジャズ編

チャールズ・ミンガスの1曲「直立猿人」は、同名のアルバム『直立猿人』におさめられた一曲です。ミンガス(1922〜1979)はアメリカ生まれのベーシスト、作曲家、アレンジャーです。
『直立猿人』とはどのようなアルバムなのか。ある識者によると

《直立猿人》は、彼の転機となったばかりでなく、ウエスト・コースト・ジャズの絶頂期に現われた、黒人ジャズの傑作である。
引用 油井正一「ジャズの歴史物語」角川文庫、2018年

と位置づけられています。

別の識者によると

最初にLP『直立猿人』を聴いたのは高校生のときだったが、正直なところ僕にはその内容がじゅうぶん理解できなかったし、スリリングだとも思わなかった。「なんだ、これは?」と戸惑っただけだった。(中略)でも年齢を重ねるにしがたって、このレコードは知らず知らず僕の心に食い込んでいった。以前はただの汚い音や、でたらめなパッセージに聞こえたものが、だんだん「そこになくてはならないもの」になっていた。
引用 村上春樹「ポートレイト・イン・ジャズ」新潮社、2004年

また別の識者によると


ミンガスの代表作に『直立猿人』というアルバムがある。ジャッキー・マクリーンのアルトに、白人のテナーサックス奏者、J・R・モンテローズの二管クインテットながら、サウンドのぶ厚さはもっと大編成のバンドと錯覚してしまうほどである。つまりミンガスの意図を体現したアルバムとしては大成功なのだ。しかしながら(中略)演奏者各自のスポンティニアスな個性を聴くのがジャズと心得る僕にとって、こうした全体が一個のマシーンと化したような音楽は抑圧的なものと感じてしまう。
引用 後藤雅洋「ジャズの名演・名盤」講談社、1990

ミンガスの転機作で黒人ジャズの傑作、はじめは理解し難いが心に食い込む音楽、大成功だが抑圧的な音楽、と三者三様の解釈があります。比較による相対化を経て絶対で揺るぎない体験をつくる。それがアルバム『直立猿人』のようです。

タイトルチューンの「直立猿人」は、はじめて聞くと獣の咆哮あるいは叫び、人の金切り声、都市のどこから聞こえてくるのかわからない騒音に模したサックスの演奏が耳につきます。標題音楽ですと宣言されたならば、そういうものだと受け止めることができるくらいです。
けれども、二回三回と繰り返して聞いていると別の音がよく聞こえます。太くパワフルな4ビートのベースラインです。ここに注目するとサックス、ピアノ、ドラムがどんなメロディを演奏しようとも曲にまとまりを感じることが出来ます。叫び声と感じた音あるいはゴチャゴチャした音がしだいに、ひとつのハーモニーに落ち着く。緊張から弛緩へと繰り返されます。ここが心地いところだと思います。

音楽は三者三様

音楽の良さは一人一人の心に宿る。宿り方はさまざまです。絶対的な好悪が特徴だと思います。


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