さわぐり
デンマークで子どもが本と出会うお手伝いをしてきました。さまざまな仕事や取り組みを通して教えられたこと、考えたことを綴っていきます。
北欧語で書かれた絵本、児童書の中から、北欧社会をよく表しているものについて紹介します。
図書館での仕事のこと、子育てのことなど、自分の生活にかかわることについて。こちらにも過去52回分の記事があります。 http://www.office-powerup.com/modules/column/index.php?cat_id=16
読んだ本のレビューや、新聞、ラジオなどで読んだり聞いたりしたこと、実際体験したことから、デンマークの社会に関することを伝えたり、考えをまとめたりするノートです。
ここで働いて3年になるけど、こんな経験したことないよ デンマークのある少年院。6人の少年がある本をめぐって議論していた。6人全員が同じ本を読みたくて、1冊しかないその本をだれがいつ読むのか、その予定表を作り始めたというのだ。職員は、こんなこと今までに経験したことがないと驚いている。 6人は鎖錠された個室に入る時間になると、それぞれの部屋に入り窓を開ける。本を持っている少年は、窓の外に向かって大きな声で音読し始める。ほかの少年たちは窓のそばに座り、耳を傾ける。翌日、共同部屋
スウェーデンのイラストレーターであり絵本作家でもある Maria Nilsson Thore の2020年の作品 "En egen flock"。 タイトルの意味は「自分の 群れ/仲間」。この作品は、内気なダックスフントが、自分とは少しちがうけれど気の合う仲間と出会うまでのストーリーです。 まわりの犬と同じことができなくて辛いダックスフント 外で遊んでいるたくさんの犬をアパートの窓からぼんやりと眺めながら、主人公のダックスフントは、少し困った表情でこんなことを呟きます。
〈はじめに〉 ずっと書きたいと思いつつなかなか文章にできないことってありませんか。これから続く長い文章も、そんな経験のひとつです。書けなかった理由は、文章にするとすごく長くなってしまうこと、恨みつらみの詰まった重い文になるだろうと予想できたからでした。これを書いたとて、なくなったものは戻ってこないし、ハッピーエンドでもない。だから気が重くて書けませんでした。 それでも今、書くことにしたのには理由があります。ひとつは、記録としてやはり残しておきたいと思ったから。爽やかな読み
コペンハーゲンにある児童書専門店で働いている。0歳児向けの厚紙絵本から16歳ぐらいまでが対象のYA(ヤングアダルト)まで、児童書というカテゴリーを幅広く扱っているお店。50年以上前からこの街の中心地にあり、人々は「ここならきっと、自分の探している本があるはず」と信頼と期待を寄せてやってくる、そんな店だ。 「昔は自分の子どもたちに本を買いに来ていたけれど、今度は孫が生まれたからまた来ましたよ」 そう言って嬉しそうにプレゼント用の本を購入する人もいる。2世代、3世代で来店する
「児童図書館の役割は、どんな家庭背景をもった子どもにも本をはじめさまざまなメディアに触れる機会を提供すること」、これはわたしが図書館司書になった頃、同僚から聞いた言葉だ。 だれもが必要な「知」へ平等にアクセスできる機会、それを提供する場。公共図書館はそんな「知」のデモクラシーを体現する場だ。 デンマークの公共図書館法では、「メディア」は書籍に限らず、マンガ、雑誌、WEB、CD、DVD、データベース、ゲーム機などを指す。どのメディアであっても、文化や社会体験、知へのアクセス
学校図書館では、国語の授業の一環として図書館へ本を借りに来るクラスの選書を手伝うことや、休み時間に図書館へくる子どもたちとああでもないこうでもないと話す以外にも、わたし自身が一定の準備時間をもって関わっていた業務もあった。たとえば、教員・職員が授業やリカレント教育を受ける際に必要とする資料を図書館間相互貸借(ILL)制度を利用して準備する仕事、中学年向けのブックトーク、3年生と5年生向けの情報検索に関する授業を担当することなどだ。 まずは自分で本を探せるように デンマーク
休み時間になると、アミーナはよく図書館へやってきてはわたしにあれこれ話してくれるようになった。 シリア出身のアミーナは、街のはずれにある小さなアパートに両親と弟、兄夫婦ととともに暮らしている。兄は家族から数年遅れでデンマークに辿りついたらしい。地中海をゴムボートで渡ってきた彼は、数年後にシリアで結婚していた妻を呼び寄せ、両親の家で暮らして最近子どもが生まれたそうだ。 「昨日、シリアの友だちと電話で話したんだ。久しぶりにたくさん話してすごく楽しかったよ」 いつものようにお
10月28日に参加したデモクラシーフェスティバル。当日の様子と、きてくださった方々、フェスティバルを企画された方々へのお礼です。 普段デンマークで暮らしており、日本の方々と交流する機会はオンラインのみなわたしにとって、初リアル会場で行われたデモクラシーフェスティバルで実際に参加者の方たちとお話しながらセッションをするというのは、いったいどんな感じだろうとドキドキしていました。当日は多くの方にお声かけいただいたり、セッション後にも嬉しいご感想をたくさんいただき、心が温まる体験
シリアから来た子どもたちは、それぞれ学年やクラスが割り当てられ、デンマーク人のクラスメートと授業を受けたり、休み時間を過ごすようになっていた。 チェスの子たちの姿を見なくなってから、今度はスカーフを被った別の女の子が、休み時間に毎日ひとりで図書館へ来るようになった。彼女は毎日、毎回、休み時間とお昼休みにやってきては図書館のPCの前に座り、あれこれ検索したり、動画を見たりしていた。 毎日休み時間に必ず図書館へ来ることが気になりつつも、言葉でのコミュニケーションがまだ不十分な
子どもたちからの冷ややかな歓迎で始まった学校図書館での仕事。最初こそグッとこらえる場面はあったけれど、時間の経過とともに、子どもたちから少しずつ受け入れられてきたかもという手ごたえを感じ始めていた。 「〇〇の本が借りたい」に応える 働き始めてまず驚いたのは、この学校では図書館が授業にしっかり組み込まれており、低・中学年を中心に、ほとんどのクラスが週に1時間ずつ国語の時間を「図書館の時間」に充てていたことだった。新学期が始まり、同僚が白紙の時間割表を張り出すと、先生たちが我
この詩(一部抜粋・翻訳)を書いたのは、早産で生まれ、脳性麻痺とともに生きる、キャスパー・エリックだ。彼は障がいと向き合いながら生きることについて詩を書き、デンマークで発表し続けている。 8月の終わり、デンマークでは彼をはじめ多くの人々が、SNS上に "ここにいてごめんなさい" (#undskyldvierher) というハッシュタグとともに、自分たちが抱える障がいと、自治体から支援を受けることについて、謝罪のような書き込みを始めた。その数は時間と共に増え続け、翌日には財
リクルートさんの iction! にて【デンマーク・スウェーデン】男女格差の解消が進む北欧の取り組みとは ~ジェンダー平等先進国に学ぶ~を執筆しました。 記事のリンクはこちら。 https://www.recruit.co.jp/sustainability/iction/ser/gender-wagegap/005.html 目次は以下の通り。 特に4のジェンダーギャップ、5の今後の課題では、北欧社会についての記事では普段あまり触れられることのない、北欧諸国が向き合っ
「そろそろ誰がいくらもらったか公開になるから見てみない?」そういって同僚が職場のPCであるウェブページを開くと、そこには「図書館支援金」という表示とともに、国からの支援金を受けた作家やイラストレーター、翻訳者の名前と、かれらが受け取った金額が並んでいた。 聞いたことのある「図書館支援金」制度。少し調べてみたところ、なんとデンマークが世界で初めて70年以上前に導入した制度だという。それは気になる!ということでもう少し深堀りしてみた。 図書館支援金とは この制度、デンマークで
2年前に、デンマークの公共図書館が学校や地域をどのように支援しているかについて、日本学習社会学会で発表する機会をいただきました。今回は、その時に発表した内容を、後日学会誌に載せていただいた原稿にもとづきながら紹介したいと思います。 はじめに ICTの進んだデンマークの学校教育現場では、デジタル教材やPCをベースにした授業やグループワーク、プレゼン方法などが小学校から常時用いられ、授業や学習形態もそれに応じて多様化している。また、ICT導入以前から重視されてきた批判的に物事
捨てる神あれば拾う神あり、とはこのことか。1年9か月働いた公共図書館と突然お別れをすることになり、年明けからは図書館近くの公立学校で働くこととなった。 少しだけ、デンマークの学校制度のことを書いてみよう。ここの子どもたちは、6歳になる年に義務教育学校に入学する。最初の学年は幼稚園学級。通称「0年生」と呼ばれ、国語と算数を少し学びながら、それまでの幼稚園での自由な生活から、授業と休み時間という区切りのある生活に慣れるための学年だ。1年かけてゆっくり慣らすのがデンマーク式。1年
郊外の公共図書館に期限付きで採用され、その後、期限付きで2回契約を更新している間に、同僚ベンテの定年退職が近づいてきた。 ベンテは66歳。40年ほど図書館司書として、成人部門、子ども部門で長年働いてきた人だ。「もう私は十分働いたからね」と、清々しい様子で退職を宣言するベンテ。楽しそうに辞める準備をする様子を見ながら、彼女が辞めるということは、そのポジションに募集がかかるのかもしれないとぼんやり思っていた。 ベンテとは1年半ほど一緒に働いてきた。児童サービス部門の色々な仕事