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【『逃げ上手の若君』全力応援!】(116)う〇こに学ぶ当時の農業事情と科学技術!? 意外とお似合いな正反対の玄蕃と夏の〝臭い仲〟に思わず「にっこり」

 南北朝時代を楽しむ会の会員の間でも話題騒然の週刊少年ジャンプ新連載『逃げ上手の若君』ーー主人公が北条時行、メインキャラクターに諏訪頼重! 私は松井優征先生の慧眼(けいがん=物事をよく見抜くすぐれた眼力。鋭い洞察力。)に初回から度肝を抜かれました。
 鎌倉時代末期から南北朝時代というのは、これまでの支配体制や価値観が崩壊し、旧時代と新時代のせめぎあいの中で、人々がそれぞれに生き方の模索を生きながらにしていた時代だと思います。死をも恐れぬ潔さをよしとした武士が〝逃げる〟という選択をすることの意義とは……?
〔以下の本文は、2023年7月8日に某小説投稿サイトに投稿した作品です。〕


 風間玄蕃がモザイク越しにその素顔を読者に見せた『逃げ上手の若君』第115話でしたが、う〇こまみれの顔なのにそれを見た夏は赤面してうつむいてしまったのですから、相当なイケメンだと想像されますね!
 玄蕃が登場してすぐくらいの時に、やはり少しだけ素顔がわかるコマがあったなと思い、コミックスを見返しました。ーー第2巻・第11話「坊ちゃん1333」で、師でもあった父から狐面を譲られた時でした。
 読み直してみて、時行を始め逃若党の絵柄が〝幼なっ!〟と感じました。そして、諏訪頼重の影響力の大きさも際立っていました。そこから見れば、伊豆に潜伏して後醍醐天皇の返事を待つ時行たちの成長の著しさに、驚きを隠せませんでした。

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 「…もう無理だ それを造った技術者はここにいない 教わりもしない技術がわかるものか

 そう断言する夏を黙って見つめる玄蕃は、諏訪での戦いの時に捕らえた天狗の「生真面目」さを夏に重ねます。第115話の最後で、玄蕃は時行たちに「自作」の「爆発球」を披露し、一緒に連れて行った彼女を「この夏って生真面目娘が」と紹介しています。
 第114話では、「そもそもどこの誰だよおまえ」と言っていた玄蕃ですが、夏と天狗とを重ねたこの時点で、夏の正体を見抜いているのではないかと直感しました。なぜならば、これまでも玄蕃の洞察力はかなり優れているからです。吹雪の様子を観察して、彼が「足利方の手の者」ではないかというのにも気づいていましたよね(第86話「爆走1335」)。
 亜也子と弧次郎がひそひそ話をする中で、「ゲンバはその辺抜かりねーだろ」の弧次郎の一言には、弧次郎が玄蕃の洞察力を評価していることと同時に、逃若党内のお互いの信頼感がこれまで以上に厚くなっていることを感じました。
 ちなみに、夏と玄蕃はお似合いの二人だと、ほほえましく第115話を読み進めました。爆発玉とう〇この関連性に気付いてとことんまでそれを追究しようとする型破りな玄蕃に対して、「生真面目」に足利学校で学んだ夏だったからこそ、「爆裂うんこ成分は… 塩のように水に溶けるのか?」と気づいたとも言えるでしょう(そもそも、「う〇こしろ」と当然のように要求する玄蕃に対して、「ド変態め」と真っ当すぎる反応でキレたのが功を奏してもいるわけですし……)。
 また、「大爆発でみんな笑顔!!」と編集部がコメントを入れていますが、高師直まで「にっこり」させてしまう夏のズレっぷりは、肥溜めで大はしゃぎした挙句、夏にう〇こまみれのイケメン素顔をさらして、「は? 面の方が恰好良いからに決まってんだろ」と言ってのける玄蕃と、いい勝負の似た者同士だと思ったからです。

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 さて、第115話では、鎌倉時代の「農業技術の進歩」に切り込む形でストーリーが展開し、『逃げ上手の若君』はどこまで作品としての奥が深いんだと唸らされました。
 『日本中世史事典』には、鎌倉時代には「新しい土地の開発や農業技術の進歩」があり、「農業の集約化が進み、畿内や西国では稲と麦の二毛作が広がり、苗代栽培、浸種法が行われ、施肥、灌漑の方法も進歩し、畑作も普及し、全体として生産力の上昇がみられた」とされています。
 ※二毛作(にもうさく)…1年に同一の耕地に2回別の種の作物を作付けすること。夏季に水稲を、秋季から春季にかけて大麦・小麦を栽培する類。
 ※苗代(なわしろ)…水田の一部を区切り、種子を密植し、一定の大きさの苗になるまで育てる。苗代における育苗は本田での稲の生育に大きく影響するので、施肥や管理は十分注意して行われる。
 ※浸種(しんしゅ)…種子を迅速かつ一斉に発芽させるために、播種前に必要な水分を趣旨に吸収させる作業。ナス・スイカ・トウモロコシ・籾種(もみだね)などに行う。
 ※施肥(せひ)…肥料を施すこと。
 ※灌漑(かんがい)…田畑に水を引いてそそぎ、土地をうるおすこと。
 同じく「肥料」の項目には、「具体的な史料はない」としながらも、「南北朝期の著名な史料「二条河原落書」に「肥桶こえおけ」という話がある。「桶」とあるからにはそれには液肥が入れられていた」とあり、「液肥」とは「人糞尿」だと推定しています。
 かつて大学の授業で、近世には、江戸の町の人々の《《それ》》を肥料とするために、千葉の農村から買い求める人々がいたといった話を聞いたことがあります(江戸は大都会ですから、宝の山だったことでしょう。とはいえ、う〇こすら富裕層独り勝ちとは……。)。鎌倉末期・南北朝期には、確かな記録が残ってはいないだけで、「人糞尿が即効性の肥料として利用された可能性が高い」ことを、断片的な記録とこうした歴史的な推移から、推測しているのですね。

このあと二人は文字通り〝臭い仲〟に……(ちーん)

 また、う〇こから「火薬」を作るという、科学技術的な視点も見逃せません。
 妹と盛り上がったのですが、「硝石しょうせき」については、週刊少年ジャンプでの人気連載作品であった『Dr.STONE』で、火薬はもちろん、作品の鍵となる重要な薬品を作るために欠かせない成分でした。『Dr.STONE 公式ファンブック 科学王国事典』には、「動物の糞と植物を燃やした灰を一緒に数年土の中に埋めておくことで硝酸の石ができるぞ!」という「糞から作る硝酸畑を使った方法」が示されています。ーー同じテーマのはずなのに、う〇こを前面に押し出すのが、『逃げ上手の若君』流です(第115話だけで、何回「う〇こ」の文字が使われ、何個の「う〇こ」が描かれているやら(笑))。

 私は歴史を学ぶのが好きです。もちろん、多くの歴史ファン同様に、時代を変えた大きな事件や偉大な人物にも興味があるのですが、それぞれの時代で、人々がどのような生活を日々送っていたのかということに、より強い関心を抱いています。
 それを知るのに、現代の社会科学や自然科学の知識が生きるということを、あらためて玄蕃と夏に、楽しく教えてもらった気がしています。

〔阿部猛・佐藤和彦編集『日本中世史事典』(朝倉書店)を参照しています。〕


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