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1-2 労働からの解放。でも、暇すぎて静かなリビングを掃除した。

大手日系メーカー、ベンチャー企業、と2社を経て、やりたいことがよくわからなくなってとりあえず仕事を辞めてみた29歳、独身、男。仕事について、人生について、考えたり、サボったりするリアルな様を、自伝エッセイ風小説にしています。最後、現状の自分に追いつけるような予定です。ぜひお付き合い頂ければ幸いです。

リビングは、静謐だった。

誰もいなくなったリビングは、恐ろしいほど止まっていた。

部屋を舞う埃のささやきが聞こえるほどに。

僕は広いベランダに出て太陽の光をこの身に浸す。

生まれ変わっていくような気がした。

「何か」からの解放を感じる。

それは労働だろうか、時間的制約だろうか。

僕は意味もなく掃除をした。

床に散らばるモノをあるべき場所に戻し、広くなった床に簡易モップと掃除機をかけて埃をなくす。

僕は足の裏に汗をかく体質なようで、はだしで歩いていると埃が足の裏に大量に付着する。

これが結構不快だ。

結局、最終的に部屋を歩き回って落ち着く先は、自室である。

つまり、僕は部屋中の誇りを足裏に付着させて自室に埃を集めることになる。

僕の布団が妙に埃っぽくざらついているのは、そういう理由らしい。

自分が働いていた時は、掃除もろくにできなくて、部屋は埃が溜まりがちだった。

かと言って、同居人たちもそんなに部屋が汚くても気にしない人たちだから、それでもあんまり文句が出ない。

不思議と波長が合う奴らと暮らしている。

ルームシェアをするなら、「志向性」が似ていることよりも「嗜好性」とか衛生基準が似ている者同士の方が、多分暮らしやすいのだと思う。

チクタク、チクタク。

無言で僕は掃除を続けた。

トイレ、玄関、手拭き用のタオルの交換。

そして、バケツに溜まった衣類を洗濯機に放り込む。

スーツを着ていると下着類しか洗濯物が出ない。

今日からは短パンとTシャツがバケツに入ることになるんだな、と一瞬考える。

洗濯が終わるまでの30分程、日課となっているランニングをし、シャワーを浴びるついでに風呂場の掃除をする。

村上春樹小説の主人公にでもなった気分で、僕は家事と生活を進めた。

思えば、彼の小説には無職になったやつらが多かったなぁ。

『羊をめぐる冒険』然り、『ねじまき鳥クロニクル』然り。

かの主人公たちは、みんなアイロンかけなり、掃除洗濯、料理、運動をして、やがて巻き込まれる奇妙な出来事とのバランスを取るかのように、家事やきちんとした生活を続ける。

現実世界とのバランスを保っている。

村上春樹にも、そうした時期があったのだろうか。

謎である。

風呂場を出て、体重計に乗る。

65kg。

ここ5年ほど、この数字から変動なし。

特に食事に気を付けているわけではない。

むしろお菓子のドカ食いなんかもするから、偏食気味な嫌いもある。

酒は飲めない。

運動は、する。かなりする。

トレイルランニングやトライアスロンの大会は、コロナで無くなった。

だから、とりとめもなく毎日運動をする。

外を走り、室内自転車トレーナーでzwiftというオンライン自転車レースをする。

そのおかげで、お菓子を大量に食べても体重が増えないのだろう。

シャワーを浴びてさっぱりした身体で、またもや静謐なリビングに戻ると洗濯が終わっていた。

ベランダに洗濯物を干し終わると、12時半。

南中時刻を過ぎた、昼の間延びした日差しになってきた。

ベランダを走るそよ風が気持ちいい。

僕は、まだ今日何をするべきか分かっていなかった。

でも多分、読書をすることになるんだろう。

予感だけがあった。

to be continued……

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