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「ありふれた愛、ありふれた世界」5

シーン5 浩二と修一のマンション

遅めの夕方。
上手に浩二のマンション。下手に修一のマンション。

愛を寝かしつけてる麗子。

麗子声 「ねんねんころりよおころりよー愛ちゃんはいい子だねんねしなー」
浩二  「寝た?」
麗子  「寝た」
浩二  「そう・・・でも良かった」
麗子  「何が?」
浩二  「キョン姉には申し訳ないけど、愛に障害がなくて良かったなって思ってね」
麗子  「そうだね・・・」
浩二  「大変そうだもんなキョン姉」
麗子  「良かったね」
浩二  「うん」
麗子  「悪いなとは思うけど、普通に生まれて来てくれて本当に良かったって思っちゃう」
浩二  「本当だな」
麗子  「愛に感謝だね」

*     *   *

ドサッ!・・・
火がついたように泣く世界の声。
呆然としている今日子。
世界を座布団に落としてしまったのだ。

修一  「(カギを開けて)今日子ちゃん!」
今日子 「・・・」

赤ん坊が抱きかかえる修一。

修一  「よしよし大丈夫か?ビックリしたな、大丈夫だからな・・・今日子ちゃん・・・」
今日子 「やっぱり無理・・・」
修一  「何が?」
今日子 「私には育てられない」
修一  「大丈夫。育てられるよ。今日子ちゃんと俺で」
今日子 「大丈夫なんかじゃない。何で私ばっかりこんな目に遭わなくちゃならないの。もういやだ(号泣)」
修一  「今日子ちゃん」
今日子 「私は普通の子がいいの!普通の子じゃなくちゃいやなの!」
修一  「ちょっと」
今日子 「いけないことなの?愛ちゃんみたいな普通の子が欲しいって思うのはいけないこと?」
修一  「そんなことないけど」
今日子 「別に東大に行って欲しいとか、偉くなって欲しいとかじゃない。普通の生活ができるだけでいいの。それだけ!私の望みはそれだけなのに」
修一  「もしかしたらいい薬ができるかもしれない」
今日子 「そんなにいい薬があるなら出して」
修一  「例えばの話だって」
今日子 「そういうのがうんざりなのよ。病院の先生と一緒。ダウン症の子は優しい心を持ってる、天使のような子だとか・・・普通の子だって優しい子は優しいよ。なんの慰めにもならない」
修一  「それはそうだけど」
今日子 「浩二だって心の底では『自分の子が普通の子で良かった』って思ってる」
修一  「そんなことないよ」
今日子 「障害持ってなくて良かったって思ってる」
修一  「そんなわけないだろ」
今日子 「何で言い切れるの?」
修一  「今日子ちゃんの弟がそんなこと思うわけないだろ」
今日子 「同じ日に生まれたのに・・・」
修一  「自分の子が普通の子で良かったって思うなって、浩ちゃんにそう言えばいいのか」
今日子 「そう言ってよ」

*     *   *

麗子  「愛は将来何になるんだろうね」
浩二  「なんだろうね」
麗子  「弁護士」
浩二  「スッチー」
麗子  「医者」
浩二  「アイドル」
麗子  「博士」
浩二  「ノーベル賞とか取ったりして」
麗子  「ノーベル賞!それもいいけどオリンピック選手は?」
浩二  「いいね。サッカー?」
麗子  「オリンピック選手ならフィギュアに決まってるでしょ!」
浩二  「そうなの?」
麗子  「浅田真央ちゃんみたいになったりして」
浩二  「愛、大変だなあ」
麗子  「私たちも頑張らなくちゃ!」
浩二  「ママ、あんまり教育ママにならないでね」
麗子  「それは約束できない」
浩二  「え?」
麗子  「今からなら何にだってなれるよ」

今日子 「もう私、世界を育てられない。世界を可愛いと思えば思うほどつらい。世界の将来が怖いの」
修一  「じゃあ世界に兄弟を作ってあげようよ」
今日子 「何言ってんの?」
修一  「世界に弟や妹がいれば世界のことを守ってくれるだろ?」
今日子 「責任逃れ」
修一  「責任逃れ?どういうこと?」
今日子 「世界の兄弟はどうなるの?世界のために生きてくれって頼むの?障害のあるお兄さんを助けるために産んだなんて・・・私絶対に言えない」
修一  「そういうことじゃなくて」
今日子 「そういうことでしょ!」

*     *   *

麗子  「ある日突然愛が変な男を連れてきて『パパ、結婚したい人がいるの』」
浩二  「やめてくれ!」
麗子  「でも、いつか本当に結婚する日も来るんだよ」
浩二  「まあなあ・・・やだけど」
麗子  「それまでいっぱい思い出を作ってあげないとね」
浩二  「そうだな」
麗子  「じゃあ今度の休みは三人でどっか行く?」
浩二  「いいねえ」
麗子  「どこに行く?」
浩二  「ディズニーランドとか?」
麗子  「いいね!」

*     *   *

今日子 「麗子ちゃんが羨ましい・・・」
修一  「え?」
今日子 「世界じゃなくて、愛ちゃんが私の子だったらよかったのに・・・」
修一  「やめなよ。世界の前で言っちゃだめだよ」

*     *   *
 
麗子・浩二が歌う中、今日子、修一の台詞が被る。

麗子・浩二 ♪世界中誰だって 微笑めば仲良しさ
      みんな輪になり手をつなごう 小さな世界
      世界はせまい 世界は同じ
      世界は丸い~~♪

今日子 「愛ちゃんのほうが良かった」
修一  「そんなこと言うなよ」
今日子 「世界のこと誰も認めてくれない!」
修一  「そんなことないよ」
今日子 「お母さんにまであんな風に言われて、もう無理だよ」
修一  「俺からお義母さんにちゃんと言っておくから」
今日子 「世界って名前なのにこの世界全部が敵なんだよ」
修一  「違うよ!」
今日子 「どうしたらいいの。ねえ修ちゃん、どうしたらいいの」
修一  「今日子ちゃんだけで抱え込まなくていいんだよ。俺だって世界の父親なんだ」
今日子 「もういい!世界、愛ちゃんになって。愛ちゃんと替わって。病気じゃない世界になって。お願い。世界!世界!世界!」

麗子・浩二 ただひとつ―♪

何か心のボタンが「ブチン」と弾けた音。
照明がとんでもないことになる・・・奇跡が起こった。
ムブティの神様の目が光る!
ビビビビッ!不思議な大音量のSE。

今・麗 「ギャーーーーーー」
修・浩 「うわーーーーーー」

*     *   *

修・浩 「ど、どうしたの?」
今・麗 「急にビャーーって電気みたいなのが・・・」
修一  「今日子ちゃん疲れてるんだよ・・・今日は早く寝な」
浩二  「ママ、大丈夫?」
今・麗 「うん・・・ん?」
修・浩 「なに?」
今・麗 「なんで修一さん(浩二)がここに?」
修・浩 「修一さん(浩二)?」
今日子 「あれ?何で私、修一さんの家に・・・」
麗子  「あれ?何で浩二がいるの?」
修・浩 「どうしたの?」
今日子 「何で世界ちゃんが?」
麗子  「何で愛ちゃんが?」

今日子、麗子、窓に映った自分の姿が逆転している。
今日子、麗子、顔を見合わせてるかのように見えて。

今・麗 「ええええええええ?」

暗転。



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