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「ひまわりの見た夢」3

第3章

舞を舞う御麿。後方に控える明日香と絵里子。

御麿  「人生五十年という人あり。人生全うできぬ人あり。赤子で死に行くものありて、希望の中で死す人あり。みなみな無常の旅人たらん~」
絵里子 「いよっ」
御麿  「じゃあこれで仲良し三人組は永遠ってことでおま」
明日香 「御麿は親友じゃないじゃん」
御麿  「うそ」
絵里子 「うそじゃないよ。御麿は別格」
御麿  「別格?」
絵里子 「だって御麿、おじさんじゃん」
御麿  「ダメ!それ以上言っちゃダメ!」
明日香 「絵里子、御麿がかわいそう」
絵里子 「だって御麿は御麿でしょ?かわいそうかな」
御麿  「御麿でおま」
明日香 「ごめんね御麿」
御麿  「大丈夫でおま」
明日香 「そもそも何でケンカしたのかも忘れちゃいそうだったし(流し方面へ消える)」
絵里子 「御麿さん、明日香はなんでこんなに早く死んじゃったのかな」
御麿  「何故。原因ははっきりしてるでおま。ただ、まだ死んではいけないはずだったでおま。死という字と殺すという字はまったく別の意味を表すのでおま」
絵里子 「キチガイに殺されちゃったってこと?」
御麿  「運命を断ち切られてしまった、ということですなあ。絶対にあってはならないことをキチガイがしてしまったということですなあ」

そこに静子が流し方向から来る。

静子  「絵里子ちゃん、わざわざありがとうね」
絵里子 「いえ、おばさんも変わらないですね」
静子  「あの、そちらは?」
御麿  「御麿でおま。明日香ちゃんとも仲良くしてもらっていたおま」
静子  「あらそうでしたか。明日香もあんなだったでしょう。どんなお友達がいたのかもあまり分からないものですから」
御麿  「あ、勘違いしないでください。別に怪しい世界のものではございません」
絵里子 「見た目が怪しいからね、御麿は」
御麿  「芸人をやっております」
静子  「え?芸人の御麿さん?私、知ってます。あれですよね『ウサギに乗ったカメブッシッシー』の御麿さん!」
御麿  「お恥ずかしい」
静子  「すいません。ちょっと色紙を持ってきますね(と行く)」
絵里子 「なにそれ?ウサギに乗ったカメ?」
御麿  「ブッシッシーでおま」
絵里子 「そんなの流行ったことないと思うけど」
御麿  「明日香ちゃんが気にしてることはひとつだけでおま」
絵里子 「ひとつだけ」
御麿  「それが一番切ないんでおま。しっ!」

慌てた様子でやってくる護と静子。

護   「あ、本当に御麿さんだ。あ、握手してください」
御麿  「あ、シャンシャンシャン(握手する)」

そのまま静子にも絵里子にもシャンシャンシャン。

御麿  「御麿と遊ぼう、御麿さまゲーム!」

御麿さまゲームなるものが始まる。

護   「いや、御麿さん。小学校のとき以来だ。懐かしいなあ」
絵里子 「え?え?何年前だよ。御麿っていくつ?」

そこへ入ってくる勉。

護   「勉、知ってるだろう。御麿さんが来てくれたぞ」
勉   「御麿さん?」
御麿  「御麿でおま!」

御麿、護と静子を座らせて、勉とシャンシャンシャンする。
かと思ったら、激しく勉をぶん殴る。絵里子もそれに加勢する。
護と静子が仰天して立ち上がろうとするが、御麿の術で立てない。

護   「やめろ!御麿さん、やめるんだ!」
静子  「やめて!」
御麿  「これは遊び。遊びでおま!」
護   「やめろ、やめろ」
御麿  「兄妹ケンカで明日香ちゃんが死んでしまったなら、こんな感じじゃ済まないおま!少しだけでも痛みを分け合えばよかったおま」
絵里子 「私の大切な親友をどうして殺しちゃったんだ!ふざけるな!」

激しく殴打され、昏倒する勉。
そこへ出てくる明日香、勉の怪我の手当てをする。溶暗になり
勉にピンスポットが当たる。他の人物は消えていく。
目を覚ます勉。
それは夢だった。笑い出す。そして沈黙。

勉   「父さん、母さん、僕もいい子だって言われたいよ」

エレベーターの到着したような音「チーン」。
食事を取っている護、静子、勉、今日子。
明日香は自分の戒名に向かって祈っている。

護   「・・・」
静子  「・・・」
今日子 「・・・」
勉   「・・・」
今日子 「勉」
勉   「?」
今日子 「兄妹げんかだったんだよね」
護   「今日子」
今日子 「殺そうと思ったわけじゃなかったんだよね」
護   「今日子」
今日子 「どうなの?」
勉   「殺そうなんて思わなかった」
今日子 「じゃあ何で意識を失ったあっちゃんをお風呂場まで連れて行ったの?」
勉   「わかんないよ」
静子  「きょんちゃん、そういうことはもう全部警察でも裁判でも散々話したことでしょう。勉だってずーっと反省してきて、ようやっと戻ってきたんだから」
今日子 「私は勉に聞いてるの」
護   「やめなさい」
今日子 「あんたは私の妹を殺したんだ。いい加減何か言いなさい」
護   「やめなさい」
今日子 「勉!」
勉   「姉ちゃん、教えてくれよ。僕は何で明日香を殺したんだ?何で明日香は死んじゃったんだ?僕にだってわかんないよ」
今日子 「勉・・・」
静子  「勉、大丈夫よ。仕方なかったのよ。もう大丈夫だからね」
勉   「全部警察に喋ったとおりだよ。僕だって明日香のことは可愛い。今だってここにいないことが信じられないんだ。確かに僕は明日香を殺した。でも、気付いたらそうなってたんだ。何で殺したかなんて全然分かんないよ」
静子  「もう終わったことなんだから。勉はそんなこともう思い出さなくていいの」
護   「そうだ、もう終わったことだ。明日香も許してくれてる」
明日香 「何が終わったの?誰が許したの?死んだら終わり、そういうことでいいわけ?いいわけないじゃん。私が死んだことは時間が経てばそれで終わりにできるの?そうやってこの先を本当に生きていけるの?それが私の家族なの?」

チャイムが鳴る。

静子  「あら、誰かしら(と立つ)」
護   「待て、こないだの記者かもしれない」

護、静子を遮って玄関方向へ

護   「明神先生!ご無沙汰しております」
明神  「すいません、なかなか顔を出せなくて。こちらは明日香ちゃんのお友達の加賀絵里子さん。ご存知ですか?」
護   「ええ、たしか・・・」

やってきたのは明神弁護士とひまわりの花を携えた絵里子。
後から山崎進もついてくる。

明日香 「絵里子!」
静子  「絵里子ちゃんよね。元気にしてた?」
絵里子 「すいません。あれからこちらにお邪魔するのが申し訳なくて・・・」
絵里子 「あ、これ明日香に」
明日香 「かわいい!ありがとう」
静子  「ありがとう。まあ、すっかり大人になっちゃって。こちらは?」
絵里子 「すいません。ご迷惑だとも思ったんですが、私の今付き合ってる人で」
山崎  「山崎っす。山崎進っす」
静子  「あら、絵里子ちゃんの」
今日子 「ペットかしら」
山崎  「よく言われますけどペットじゃないっす。彼氏っす。初対面の人にペットなんて言われて、俺ショックっす。どのへんがペットっぽいすか」
絵里子 「ちょっと黙ってて」
山崎  「なんだよ」
明日香 「おい、こら、私に挨拶しろ」
山崎  「ワンワン」
明神  「家の前にいらしたんで、もしかしたらと思って声を掛けたんです」
山崎  「はい。ありがたいっす。なんかこいつがこの家に行きたいっていうんで」
静子  「ほら、あっちゃんの高校の同級生の」
護   「ああ、わざわざありがとうございます」
明神  「勉くん、よかった。お勤めご苦労様でした」
勉   「ああ、ありがとうございます」
山崎  「おつとめ?マグロでも捕ってたんすか?」
明神  「申し訳なかったね、本当ならもっと早く」
勉   「いいんです。どんな結果でも受け入れるつもりでしたから」
明神  「いや、本当なら一審の七年で決まるはずだったんだけどね。誰かが検察に訴えたらしいんだ」
護   「誰か?」
明神  「ええ、恐らく明日香ちゃんにシンパシーを抱いた誰かでしょうね」
護   「はあ、なるほど」
明神  「ニュースやインターネットでも明日香ちゃんの写真が出たじゃないですか。そこで明日香ちゃんをかわいいと思った俄かファンかもしれないですが」
山崎  「へえーファンなんているんだ」
明神  「わかりませんが」
山崎  「へー。その子ってどこ?」
絵里子 「あんたは黙ってて」
山崎  「なんだよ」
今日子 「そう思ってくれた人がいたってのもありがたいじゃない」
護   「ありがたくないだろう。その輩のおかげで勉の刑期が五年も長くなったんだ」
山崎  「あの人、刑務所にいたの?前科者?」
絵里子 「うるさい」
山崎  「なんだよ」
静子  「勉、絵里子ちゃん、覚えてるわよね」
勉   「ああ、明日香の友達だよね」
絵里子 「こんばんは」
今日子 「あんた本当に覚えてるの?」
勉   「こないだ夢に出てきたから」
今日子 「夢?」
勉   「この子に滅茶苦茶ぶっ飛ばされてる夢」
今日子 「ぶっ飛ばされてる夢?」
勉   「そう」
山崎  「あの、絵里子はよっぽどのことがない限りぶっ飛ばしたりしないっす」
絵里子 「いいからあんたは黙ってて」
山崎  「なんだよ。こいつが変なこと言うから」
静子  「・・・良かったら座って」
山崎  「あ、すいません」
絵里子 「(座って)・・・私、明日香に謝らなくちゃいけないことがあったんです。それなのにもう十二年以上ほったらかしにしてて、ずっと気になってて」
今日子 「そうだったの」
絵里子 「大晦日のカウントダウンを一緒に過ごそうって約束してたんです。明日香は家族と過ごさなくちゃいけないって言ってたのを無理言って、約束させたんです。多分、ご家族にウソをついて私を優先してくれたんだと思うんです。それなのに私、直前に彼氏ができちゃって」
山崎  「え?誰だよ、俺の知ってる奴?」
絵里子 「あんたと知り合う前の話だよ。ちょっと黙ってて」
山崎  「なんだよ」
絵里子 「私と明日香と彼氏の三人でカウントダウンをすればいいかなって軽い気持ちで思ってて、それで当日に明日香にそのことを言ったらすごく怒っちゃって。なんであんたの邪魔者みたいな感じで年を越さなくちゃいけないんだって。で、明日香はどっか行っちゃって・・・それっきり話もできなくて、ぎくしゃくしたままだったんです」
静子  「そんなことが」
護   「正月か」
今日子 「・・・」
明神  「明日香ちゃんにとっては最後の年越しだったんですね」
絵里子 「明日香のことが大好きなのに、明日香はもう私を許してはくれない。明日香に二度と逢えないことが怖くて、ずっとここに来れなかったんです」
明日香 「絵里子、ずっと気にしてくれてたんだね」

明日香、絵里子を抱きしめる。

静子  「絵里子ちゃん、明日香は許してると思う。明日香はいい子だから」
明日香 「いい子だから?」
絵里子 「私、明日香と仲直りがしたかったんです。謝りたかったんです。この十二年間、何度も何度も明日香に許してもらえる夢を見て来ました。でも、朝起きると、自分が許されていないって思い知らされるんです。明日香に謝ることは永遠にできない。明日香が死んじゃったから。殺されちゃったから」
山崎  「え?もしかしてお前の友達、殺されたの?」
絵里子 「・・・」
山崎  「誰に?」

絵里子、勉を見つめている。

絵里子 「お兄さん、何で明日香を殺しちゃったんですか。明日香は殺してもいいくらい悪いことをしたんですか」
勉   「(冷静な目で見ている)」
山崎  「この人?こいつが殺したの?」
絵里子 「そう」
静子  「絵里子ちゃん」
山崎  「マジかよ・・・」
絵里子 「あなたのせいで、私は永遠に明日香と仲直りできなくなったんです。あなたのせいで、私は明日香と一緒にカラオケに行けなくなったんです。一緒に街を歩けなくなったんです。一緒に何もできなくなっちゃったんです。明日香は、私のかけがえのない親友だったんです。それなのに」
明神  「絵里子さん、冷静になりましょう」
絵里子 「すいません・・・」
山崎  「あんた自分の妹を殺すなんて有り得なくない?普通じゃないよ。なんでそんな普通にしてられるんだよ。人殺しだろ?どうなってんだ?」
明神  「あなたも!静かにしてください」
山崎  「なんだよ。本当のことだろ!」
勉   「明日香が死にたがってたんだ」
山崎  「え?」
勉   「明日香は何もかも上手くいかないこの世の中で生きていくことができなかったんだ。あいつは僕のことをずっと挑発してた。僕の人生をずっと否定してた。それは全部あいつが死にたかったからだ。僕が明日香を殺したんじゃない。明日香が僕に殺させたんだ。僕に殺すように仕向けたんだ」
今日子 「勉!」
勉   「それなのに僕は僕が明日香を殺したことを認めてやった。僕は明日香の兄貴だから、明日香のために犯人になってやったんだ。殺してやったんだ」

護、勉をぶん殴る。

明神  「お父さん!」
勉   「父さんだって明日香が戻ってきてから、明日香を腫れ物みたいに扱ってたよね。父さんだって分かってたよね!」
護   「そんなことはない・・・」
明神  「皆さん、いつまで事件のことを引きずってるんですか。忘れましょう。忘れる努力をしないとダメです。事件は終わったんです。あれからもう十二年経ったんですよ。こうして勉君だってちゃんと刑期を終えてこの家に戻ってきました。お父さんだってお母さんだって今日子さんだって、みんな明日香ちゃんを悼んでこの十二年を過ごして来たんです。家族みんなで頑張って過ごして来たんじゃないですか。明日香ちゃんのお葬式もちゃんと出したじゃないですか。初七日も四十九日も卒哭忌もちゃんとやった。一周忌も三回忌も七回忌もきちんと明日香ちゃんを思ってやって来たじゃないですか。明日香ちゃんはもうずっと前にこの世を卒業したんです。明日香ちゃんは今、幸せに過ごしてるんです。もう忘れてもいいんですよ。いや、忘れなくちゃいけないんです。それが明日香ちゃんのためだと思いませんか」
明日香 「明神先生はどうしてすぐ私を忘れさせようとするんだろう」
静子  「そうですよ。あっちゃんは天国で幸せに暮らしてるんです」
明日香 「いや、そうでもないけど」
今日子 「お母さん」
明神  「明日香ちゃんは天国で安心して暮らしてる。それを信じてあげましょうよ。そう信じてあげることが明日香ちゃんへの最大の供養だと思いませんか」
明日香 「それって生きてる側のエゴだから」
護   「ええ。そうだと思います」
明神  「僕もそう思います。どうですか?」
静子  「明日香が成仏していると信じてます」
明神  「そうです。そう信じてあげませんか」
明日香 「まだ呼ばれないんだけど」
明神  「無理にでもそう思うことが明日ちゃんのためだと僕は思います。そうだ、みんなで声にしてみましょう。そう信じてあげるためにも」
静子  「ええ」
明日香 「勝手だなー」
明神  「あの事件は終わったんだ」
護と静子「あの事件は終わったんだ」
明神  「もう忘れてもいいんだ」
護と静子「もう忘れてもいいんだ」
明神  「明日香ちゃんは天国で幸せに暮らしてる」
護と静子「明日香ちゃんは天国で幸せに暮らしてる」
明神  「罪はもう償い終えた」
護と静子「罪はもう償い終えた」
明神  「明日香ちゃんは全て許してくれた」
護と静子「明日香は全て許してくれた」
明神  「みんな幸せになっていいんだ」
護と静子「みんな幸せになっていいんだ」
明日香 「バカなの?明神先生・・・」

出て行く勉。

静子  「勉・・・」
明神  「すいません僕のせいで・・・」
静子  「いえ」
絵里子 「私、忘れたくありません」
明神  「え?」
絵里子 「忘れたくないんです。明日香のことも、あの事件のことも」
明日香 「絵里子」
絵里子 「忘れたら明日香が消えちゃうみたいで怖い。だから忘れたくないんです」
今日子 「絵里子ちゃん」
絵里子 「あの・・・すいません」
山崎  「絵里子が謝ることじゃねえよ」
今日子 「そう、絵里子ちゃんが謝ることないよ。忘れたくなければ忘れなければいい。そんなの仕方ないじゃない」
絵里子 「あの、ひまわり、ちゃんとお供えしてあげてください」
今日子 「うん、やっとく」
絵里子 「明日香が一番好きな花なんです」
今日子 「へえ」
絵里子 「ひまわりって正義の象徴なんだって明日香言ってました」
明神  「そう。この弁護士バッジにあるように、ひまわりは『自由と正義』の象徴なんです。明日香ちゃん覚えててくれたんだ」
絵里子 「明日香、正義感が強かったから・・・だから敵も多かったけど・・・明日香は先生のことを本当に分かってくれている先生だって言ってました。何かあったら真っ先に明神先生に相談するって、そう言ってました。明日香が一番辛かったときに、家族にも見放されていたと思っていたときに、明神先生だけが私の話を聞いてくれたって、明日香、本当に感謝していました。頼りにしてました」
明神  「ああ、覚えてます」
絵里子 「明神先生、明日香のことを忘れないであげてください」
明神  「え?ああ、、うん」
絵里子 「お邪魔しました」
明日香 「うん、またね」
山崎  「お邪魔しましたー」

絵里子、山崎が去っていく。
エレベーターが到着するような音「チーン」
暗転。


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