汝、髪を変えよ
母親が死んだ。
何回目かわからない大きな手術中の出血死だったそうだ。親と認めたくない人間でも、もう2度と会わないと決めた人間でも、冷静ではいられなかった。人間なんて所詮水分だと改めて思った。あの日の私は軽かった。
悲しみと憎しみと悔しさと愛しさと呪いを思い出に変えるために母親を焼いた後、私は髪を切り染めた。
ヘアドネーションという髪の毛の寄付活動のため3年ほど伸ばしており、より健康な髪にしようと途中から染めないで地毛の黒髪だった。寄付用に切ったのが8月。死んだのが9月。まだ切りたてでなんなら馴染んできていい感じだったのでいつもと別の美容室で予約した。
「ボブいい感じですね〜かわいいですよね」
「ちょっと気持ちを変えたくて」
そんな会話をしたのを覚えている。
美容室は丁寧に扱ってもらえるので好きだ。
髪が綺麗になるとうれしくなる。
黒髪ボブから茶髪ショートになったら母親とそっくりになってしまって血を感じた。
お母さん、私達って本当に親子だったんだね。
気がつくのが遅かったよ。
心を変えるより外見を変える方がてっとり早い。
髪の毛なんてすぐ伸びるし今は薬剤も進化して色も無限にできる。切ってしまえば意外とスッキリするものだ。
でも私達はなかなか変わらない。
なんで接客業はヘアカラーが禁止なんだろう
ツーブロックが校則で禁止って謎
1年生は絶対ショートヘア、伸ばしていいのは3年生だけとか
派手髪なだけで陰口を言われる
あたりまえ、仕方ない、そういうルール
まあそうなのかもしれないけど。
どうせ私の心も、今日までどうやって歩いてきたかもわかっちゃいない。このつまらない世界でせめて外見くらいは自分で選びたい。
私が選んで表現した私を評価してほしい。
真相は表層に大体書いてあるものなのだ。
10年後の日本のスーパーで派手髪のレジ打ち職人達が見られたら、就活ヘアも自己PRの一部になったら、政治家の平均年齢が下がってギャル上がりの人ばかりになったら
めちゃくちゃおもしろい国になると思う。
まず外見を変える。手っ取り早いのは髪。
心を変える前に髪を変えよう。
その髪に心が追いつくように努力しよう。
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