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ガチガチの世界に生きるとはどういうことか?高校生の私が見た1シーン

澤田智洋さんの『ガチガチの世界をゆるめる』を読んで、高校時代のあるシーンが頭から離れなくなった。ガチガチの世界にいる時、私たちは何らかの息苦しさを感じながらも、「もっとガチガチになれば良い方向に向かうはず」という神話の中にいる。そして、さらに硬度を強める方向に進む。どんどんどんどん硬度が強まり、いつかポキリと折れて、気づく。

(周りをキョロキョロと見回しながら)あれ? このガチガチ必要だっけ?…と。

特徴的なのは、その高度に硬度(シャレ?)が増した社会は、悪人が跋扈しているわけではないのに、人を傷つけ、生きずらさを増長させているということだ。みんな、いい人で、まじめ。ルールを遵守し、他人に迷惑をかけないように気を配る。

なのに、息苦しい。

『ガチガチの世界をゆるめる』に、この社会を構造的に見直すきっかけをもらった。このnoteでは、私が高校時代に過ごした超硬度化したガチガチ社会での出来事を書いてみたいと思う。

◆ガチガチがポキっとした日

忘れられないシーンがある。
うずくまる選手の背中、監督の罵声。
その時、私は、高校生だった。

バレーボール部だった私はガチガチの世界の住人だった。ガチガチのゴリゴリの、バッキバキ。つまらないミスをすると「やめちまぇ!」と怒鳴られてボールを投げつけられ、その投げられたボールをレシーブし続けなければならず、最終的に壁にまで追い詰められて、「もう一本! もう一本!」と叫び続けるくらいのガチゴリバッキ具合。…あ、引いちゃいました?

関東大会に出るか出ないかくらいのレベルだったそんなガチガチのバレーボール部は、よく全国レベルの強豪校の試合の審判にも駆り出された。生徒たちがやることは、ラインズマン(線審)やボール出しだ。

私の今も忘れられないガチガチな思い出は、そんな1シーンからである。

その試合に、私はラインズマンとして入っていた。
目の前では、全国屈指の強豪チームが戦っている。接戦の中、監督からタイムアウトの声がかかる。ダダダダダーと駆け足でベンチに集合し、「ダン、ダンッ!」と行進の締めのごとく足を踏みならして監督の目前に止まる。それはまるで、軍隊の行進の「(ぜんたーい止まれ)1! 2!」というリズムのようだった。

当時の私は、その光景をぼんやりと眺めていた。今だったら、ギョッとしていること間違いないが、その頃の私は「へー、この学校はそういうルールなのねー」くらいの感覚だったのだ。(軍隊は軍隊の中の違和感に気づけない。)

2回目のタイムアウトで、ダダダダダー ダン、ダンッ!!の足音の後に、短く「ギャッ!」という声がして一人の選手がうずくまった。チームメイトが声をあげた選手を振り返る。その選手は足首を抑えて、うめき声をあげていた。どうやら、「ダン、ダンッ」の時に足首をグギッとやってしまったらしい。立ち上がれないところを見ると、かなり強烈に……。

周りの子たちは監督の前では私語厳禁とでも躾けられているのだろう。うずくまった選手に何も声をかけてあげようとしない。ジリジリと2秒ほど時がたったのち、監督の怒鳴り声が空気を揺らした。

「おまえ、なにやってんだぁっ! バカヤロウ!」

ケガをした選手を、その監督はおもいきり罵った。

ぼんやりしていた私の脳に、急に血が巡った。「大丈夫か?」でも、「どこ痛めた?」でもなく、第一声が選手への罵倒…。
ケガをした選手は、泣きながら「大丈夫です! 試合に出られます!」と言い続けている。いまだに立ち上がることもできていないのに、だ。結局、チームメイトに肩を抱かれて、ベンチの端に座らされた。監督は忌々しそうに、貧乏ゆすりをしながら、交代の選手を呼んだ。

◆「ガチガチ」=思考停止

そもそも、だ。
タイムアウトには、選手を休ませるという意味合いもあろう。少しでも体力を温存させるべきなのに、「ダン、ダンッ!」の謎の踏み鳴らしをさせなければいけない理由はなんなのか。今なら、いくらでも多種多様なツッコミが湧いてくるのだが、当時の私はガチガチの世界の住人なのでそこまで思考が至らない。

「ガチガチ」とは、思考停止だ。違和感なんてものがあることにも気づかぬまま、「ダン、ダンッ!!」て行進のシメをしてしまうくらい。ガチガチにいることは、「そもそも」とか「本質的には」といったことを考えないことが普通になっでしまうから、怖い。

私は高校時代を思い出すと、今も胃に鉛の重さを感じる。その鉛の正体は、しんどい練習でも、厳しいコーチの存在でもなくて、「きちんとやらなければ」とガチガチの呪いをかけ続けた自分自身だったのだ、と今ならばわかる。

社会のガチガチと、自分が自分にかけるガチガチの呪い。
その存在に、『ガチガチの世界をゆるめる』は気づかせてくれた。これまで十分にガチガチに生きてきた私は、これからはゆるゆるにゆるめる側にまわっていきたいと思っている。

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