古本をめぐる冒険「性に目覚める頃 室生犀星」
最初に「性に目覚める頃」という題名を目にした時「性教育に関する内容なのか。それとも性欲に悩む主人公の葛藤を描いた作品なのだろうか」と。そして、機会があれば読んでみたい、と感じたことを覚えている。
今年の春に金沢へ旅した時、雨宝院で「この作品は、編集者のアドバイスで変更したそうです」と教えていただいたのだが、編集者の方は良い仕事をされたと思う。この題名だけでも(もちろん、すばらしい作品であることはいうまでもない)魅力が大幅にアップしていると感じる。実際に私も、こうして紹介しているわけだから、かなりの効果があることは間違いない。見習いたい。
題名の字体は、怪しいような、どこか高尚な気配があるようなデザイン。そしてイラストのモチーフになっているのは、おそらく・・・と、なかなか攻めた装丁になっている。気がついた人は、書店で買いにくかったのではないか、と思う。学生がこの本をレジに持っていき、本屋の親父がかすかにニヤリとする。学生は赤面しつつも本を抱えて急いで帰宅する。そんな当時の場面を想像してみる。いやいや、それは考えすぎだろう。うん、考えすぎだと思う。
序に「この貧しき創作集を 瀧田哲太郎氏におくる」という一文が書かれている。瀧田氏は、室生犀星の「芥川の原稿」にも登場する、中央公論の編集者である。
中央公論の滝田哲太郎氏ほど芥川の原稿を喜んで読んだ人は、稀であろう。毎日三枚か四枚かを夕方使に取りに遣り、その原稿を大切にしまい込み、有名な画家の絵のようにこれを愛撫していたことは、原稿というものの歴史の上にも、これまた稀なことであった。(室生犀星 芥川の原稿より)
瀧田氏に出会えたことが室生犀星の幸運でもあるし、そのような人に出会えるだけの溢れるばかりの才能を持っていたのだ。自分も、そんな出会いに辿り着けるようにしっかりと牙を磨いておこう。磨くだけ磨いて使わないままで終わらないよう、噛み付く勇気(のようなもの)も養っておこう。と、凡人の自分はしみじみと考えたのでした。
関連:「金沢への旅」
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