見出し画像

【大正浪漫のその先に】

一人旅でオススメの旅先が知りたければ、ゲストハウスで旅人に聞くのが一番いい。

ゲストハウスに泊まりに来る人は、一人旅の人が多い。
ちなみに僕の感覚だが、一人旅好きは、寂しがり屋の一人好きが多い気がする。

寂しがり屋の一人好き。
ややこしい表現だが、人との出会いは好きだけど、団体行動は苦手といったところだろうか。
まさしく僕もその通りで、そんな人達から聞く旅先の話は、どれも僕の冒険心を掻き立ててくれる。

そんなゲストハウスで知り合った旅人に教えてもらったスポットで、ずっと行きたかった場所がある。
それは、山形にある銀山温泉だ。

『千と千尋の神隠し』のモデルにもなっている、大正浪漫溢れる温泉街。
大阪からは距離が遠く、なかなか行く機会がなかったが、たまたま東北で仕事があり、そのまま休暇を取って訪れることができた。

山形空港から車で約1時間。
銀山温泉は奥州街道から12キロメートルも入った山間部にあり、世間とは遮断された仙境。
一人旅好きにはたまらないロケーション。

銀山川の両岸には、木造三階建て・四階建ての温泉旅館が立ち並び、ノスタルジックな風情を見せてくれる。
街並みの突き当たりには、美しい滝もある。
自然と歴史が溶け合った、特別な空間。

まるでタイムスリップしたかのような、懐かしさを感じる。
初めて訪れたのに、見たことがあるような感覚。
それもそのはず。
ここ銀山温泉は、NHK連続テレビ小説「おしん」の撮影地だったのだ。

大正浪漫を感じる街並みを歩きながら、歴史に想いを馳せていると、突如目の前に、真っ新なガラス張りの建物が現れた。

え?
え??
え???

一気に現実社会へと引き戻される。
なぜこんな旅館、いや、ホテルがこんなところに?

なんでも、インバウンドでボロ儲けをした旅館の主人が、建て替えてしまったらしい。

いや、なんちゅうことすんねん!

しかも、そのご主人の奥様は外国人の方で、その奥様は猛烈に建て替えを反対したが、ご主人が強行したのだそう。
それに堪忍袋の緒が切れた奥様は、自国へ帰ってしまったらしい。

恋愛と同じで、近くにあり過ぎると見えなくなることがある。
銀山温泉の魅力を一番わかっていたのは、異国から来た奥様だったのかもしれない。

歴史を一瞬で作ることはできないけれど、歴史を消し去ることは一瞬でできてしまう。
複雑な気持ちになりながら、銀山の湯に浸かった。
柔らかい湯触りと、温泉独特の硫黄の香りが、心のしこりを洗い流してくれた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?