【白銀の宝石】
大阪からバスで7時間。
白銀の山を登っていると、突然眼下にエメラルドグリーンの露天風呂が現れた。
まるで真っ白な肌につけられた宝石のようだった。
今回の旅の一番の目的は、白川郷にある世界遺産を見ること。
その前に、奥飛騨にある温泉で一泊することにした。
辺り一面は真っ白の白銀の世界。
そんな山奥に、ぽつんとあるその温泉は、露天風呂だけ混浴になっていた。
混浴といっても、女性は湯浴み着(ゆあみぎ)というバスタオルで作られた水着のようなものを着ているので、女性客にも人気の温泉宿だった。
人生初の混浴。
ドキドキしながら、露天風呂へと向かうと、ほとんど入浴客はおらず、ほぼ貸切状態だった。
世の中そんなものだ。
露天風呂の奥に岩風呂と書かれている温泉があった。
岩のトンネルのようになっている。
そのトンネルをくぐると、そこには何一つ遮るもののない、白銀の世界が広がっていた。
真っ白な世界を見ていると、混浴にドキドキしていた自分が恥ずかしくなった。
美しい景色と、少し熱めの温泉が、心の汚れまで洗い流してくれるようだった。
そんな時、女性の話し声が聞こえた。
どうやら、この岩風呂に入ってくるようだ。
さきほど洗い流したはずの心の汚れが、もう一度僕の身体にべっとりと張り付いてきた。
ドックン、ドックン、ドックン。
声が近づくたびに、心臓が高鳴っていく。
そしてついに、人影が見えた。
入ってきたのは、若いギャルの2人組。
ではなく、母親よりも年上の淑女達だった。
僕は温泉で火照った身体を冷ますように、そっと会釈だけして岩風呂を出た。
雪が降っていた。
きっと今日は止むことはないだろう。
そして翌日は、世界遺産である白川郷へ。
茅葺き屋根の上には、分厚い雪が積もり、軒先には透明な氷柱が下がっていた。
初めて見る景色なのに、懐かしさを感じる。
DNAに刻まれた記憶が蘇ってきているのだろうか。
心が温かくなった。
僕は白川郷にいまだ続いている、結(ゆい)という文化が好きだ。
結とは、主に小さな集落や自治単位における共同作業の制度のことだ。
一人で行うには多大な費用と期間、そして労力が必要な作業を、集落の住民総出で助け合い、協力し合っているのだ。
日本の原点がここにある。
お金ではなく、助け合いの精神で成り立つ関係。
いま、一番必要とされている想いなのではないだろうか。
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