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【青の洞窟】

こんなにも静かで、美しい世界があったのか。

キラキラと輝く水面。
限りなく透明に近いブルー。

沖縄本島の真栄田岬(沖縄県国頭郡恩納村)に、青の洞窟と呼ばれている場所がある。

有名なダイビングスポットなので、夏休みなどは芋の子を洗うように、ダイビングやシュノーケルを楽しんでいる人達で溢れかえっている。

僕はまだシーズンが始まる前、まだ肌寒さが残る時期に潜らせてもらった。
人生初のダイビング。
同じボートには、僕以外に母親と男の子の親子が1組。

母親は慣れた様子で、息子は初めてのダイビングらしい。
息子は、小6か中1ぐらいだろうか。
母親がサポートをしながら、少年も足からゆっくり海へと飛び込んでいく。

さあ、僕の番だ。
少年が潜れたのだ、僕も大丈夫。
そう自分に言い聞かせて、ボートのヘリに腰掛けた時、インストラクターさんが笑顔でこう言った。
「佐藤さん、背中から入りましょう!」
ん?
僕は伊藤じゃない。佐藤だ。
伊藤英明さん演じる海猿のように、背中から海に飛び込む!?

はっきり言おう。
僕はカナヅチだ。
少年の前だから平静を装っていたが、本当はめちゃくちゃ怖い。
それなのに、後ろから飛び込めだと!?
泣きそうになりながら、でも、少年をいつまでも待たせるわけにはいかない。
思い切って、後ろから飛び込んだ。
マスクのおかげで、鼻から水は入ってこない。
少しずつ呼吸を整えていくと、周りの景色が見えるようになってきた。

色とりどりの魚達がダンスをするように泳いでいる。
海の中は、こんなにも美しかったのか。
慣れてくるにつれ、呼吸するのも忘れるほど、淡いブルーの世界に魅了されていった。

そして、インストラクターさんに連れられながら、岩の割れ目へと入っていく。
差し込む光がまるで宝石のように煌めき、魚達が歓迎してくれているかのように舞っている。

餌を手に持って擦り合わせると、あちこちから魚達が寄ってきた。
デカイ魚がやってきて、根こそぎ僕の手から餌を奪い去っていったけれど、それさえも楽しくて、ユラユラと揺れる波の中で、夢見心地のまま、初めてのダイビングは幕を閉じた。

ダイビングの帰り道、レンタカーを運転しながら、猛烈な睡魔が襲ってきた。
帰宅ラッシュの時間帯で、渋滞が続き、なかなか前に進まない。
僕は渋滞中のバイパスで、ゆっくりと、まるで波に漂っているかのような夢見心地で、前の車にオカマを掘った。
そこで夢から覚めた。

青の洞窟は、夢の世界の入り口なのかもしれない。

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