【覚悟】
僕は、「笑って、感動して、元気になる芝居」が好きで、新喜劇に入団しました。
好きなことだけで生きていく。
そのために、この世界に飛び込みました。
新喜劇は野球と同じように、団体競技でありながら、競争でもあります。
スターティングラインナップの人数が決まっているように、キャスティングの人数も限りがあります。
吉本新喜劇は、お笑いの劇団です。
僕は専門的にお笑いの勉強をしてきたわけではありません。
NSC出身の方や、漫才や落語を経験してきた他の座員と同じように戦っていては、勝ち目はありません。
そこで僕の強みである演劇のイベントをして、存在をアピールしようとしました。
企画書を作り、マネージャーに提出します。
新喜劇に入団するまでに12年間、劇団時代だけでも8年間、演劇に携わってきました。
しかし、会社から返ってくるのは、新人がイベントをするのはまだ早いという返答ばかりでした。
この時に感じたのが、「信用がない」という現実。
いくら今まで演劇をやってきたとしても、お笑いの世界、吉本興業という会社の中では、僕にはまったく信用がなかったのです。
なぜなら、僕はまだ新喜劇で結果を残していなかったから。
僕にはまだ、会社に対して、作品のクオリティーも、お客様の動員力についても、何も信用がありませんでした。
それでも、じっとしていては、100人以上いてる座員の中で埋もれてしまう。
他の座員と同じ戦い方をしていては、絶対に勝てない。
企画書を提出しては却下される日々が続きました。
新喜劇に入団して5年目。
京橋花月の社員さんから声をかけてもらいました。
「お芝居のイベントをやりませんか?」
その社員さんは、僕が以前所属していた劇団のことを知ってくれていて、京橋花月が主催している夜芝居という演劇の枠で、僕の公演をやらせてくれるというのです。
ようやく巡ってきたチャンス!
しかし、京橋花月はキャパが500人です。
500人も一人で動員出来るだろうか・・・。
不安はありましたが、僕は清水の舞台から飛び降りる覚悟で、やらせて下さいと伝えました。
すると、その後返ってきた言葉は、僕の覚悟を大きく揺るがすほど、強烈なものでした。
「夜芝居の枠は、最低2日やってもらわないといけないんですよ」
え?え?えーーーー!!!!
ということは、500人×2回公演=1000人!
たった一人で、1000人を動員しなければならないのです。
お客様が入らなければ、会社からの信用を失い、もう二度と自主公演を開催することはできなくなります。
僕は悩みました。
でも、こんなチャンスは二度とやってこないかもしれない。
このままでは、一生埋もれてしまう。
僕は、この公演が失敗すれば、新喜劇を辞める覚悟で、公演をやらせてもらうことを決断しました。
この決断が、この後10年続く佐藤太一郎企画のスタートになります。
つづく
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