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Basketball Diary

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自身のコーチング哲学を形成してきた様々な出来事についてまとめていきます。
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#哲学

BASKETBALL DIARY

コーチング哲学について ときには、練習方法や指導法、戦術論から離れ、高校生にバスケットボールを指導する中で起こったエピソードについて書いてみたいと思います。 バスケットボールのコーチとして過ごしてきた中で、特に印象に残っている出来事がいくつかあります。それらはただの思い出話というよりは、むしろ自分のコーチング哲学(フィロソフィー)を形成する上でとても重要な経験となりました。コーチング哲学というと少し堅苦しいですが、方向性、価値観、優先順位という言葉に置き換えると意外と想像し

Basketball Diary Ep.01 『我慢』と『発散』

2013年3月、チームを連れてアメリカのボストンへ遠征しました。
お世話になったアカデミーのプレーヤーはコミットしてプレーしていました。コーチングスタッフのアティテュードはとてもポジティブでした。ボストン・セルティックスのホームゲームでファンがエキサイトしていました。バスケットボールに関わる人たちの内面から、何かが発散されていくような印象でした。
自分の指導するバスケットボールを省みると、選手の様子はどこか懐疑的、自分の指導はいつも否定的、試合の見方はなぜか批判的でした。自分

Basketball Diary Ep.02 『学』と『楽』

前回の投稿に書いたアメリカ遠征の中で、もう一つとても印象的だったことがあります。それは、アカデミーでの練習前のこと。コートにやってきたアメリカ人のコーチングスタッフたちが、せっせとボールを運び、練習試合のための椅子を並べ、タイマーの配線などをセッティングしていたことです。もちろんプレーヤーたちはまだ会場には来ていません。 練習に関わるあらゆる準備が整った頃、「ハーイ」と陽気な挨拶でようやく高校生のプレーヤーたちが集まってきます。プレーヤーは、コーチが準備した椅子に座ってバッシ

Basketball Diary Ep.03 『帰属』と『家族』

さらに、アメリカ遠征で印象的だったことがあります。それは、当時在籍していた1年生と2年生をあわせた24人のプレーヤーと遠征した際、アメリカのコーチから、「なんで、一つのチームにこんなに大勢のプレーヤーがいるんだ?」と質問されたことです。「こんなに人数がいても、彼らのほとんどは試合に出場できないだろ」と続きました。 来るもの拒まずの文化である日本の部活動においては、例え、満足なプレータイムが保証されていなくても、何十人ものプレーヤーが一つのチームに所属することが多々あります。彼

Basketball Diary Ep.04 『セオリー』と『センス』

ディフェンスを指導するのがとても好きです。 相手チームの特徴を知り、攻めてくるタイミングを計り、その後の展開を予想する。守りきった時の感覚が何とも言えません。プレーヤー5人が、阿吽の呼吸でチームディフェンスを展開したときには、コート上へ拍手を送りたくなります。 勝っても負けても引退となる、3年生にとっては高校生活を締めくくる大切な試合。シーズン最後のこの試合に何としてでも勝ちたいという気持ちとは裏腹に、第3クォーター途中で17点ものリードを許してしまいました。終始、相手チーム

Basketball Diary Ep.05 『奇跡』と『定石』

スポーツに怪我はつきものです。 とはいえ、プレーヤーが怪我を負った時はとても心が痛みますし、その怪我をどうにか防げなかったかと後悔したりもします。 かつて、3年生最後の大会直前に膝に大怪我を負ったキャプテンがいました。小気味よいプレーと3ポイントシュートが持ち味の彼は、まともに歩くこともままならない、立っていることすら覚束ない状態となってしまいました。大会当日、彼の膝は痛々しいまでにテーピングで固定されていましたが、やはり十分にプレーできないままに試合は進んでいきました。気が

Basketball Diary Ep.06 『現象』と『心情』

審判をするためのフィロソフィーなんて考えたこともありませんでした。 単に、プレーに対して機械的にジャッジしていくだけなら、これからの時代の審判は高性能のビデオカメラとAIに取って代わられていくのかもしれません。 ある県立高校との、どちらも負ければ3年生が引退という試合。相手のキャプテンは試合前から気合十分で、ティップオフの瞬間から果敢なプレーでチームを引っ張っていました。しかし、その積極性が仇となったか、前半の早い段階で3つ目のファウルを犯してしまいます。ベンチでもどかしそう

Basketball Diary Ep.07 『人情』と『無情』

基本的には来るもの拒まずの部活動でありながら、最後にはプレーヤーは選抜されていきます。 バスケットボールのコートに立てるメンバーはわずか5人ですし、各大会のエントリー人数は、20人、15人、12人と、上位の大会になるほどその数は少なくなっていきます。勝ち上がれば勝ち上がるほど、その舞台でプレーできるプレーヤーは少なくなっていくわけです。 間近に迫った県大会のエントリー人数は15人でした。この年は、3年生13人に加えて、すでに主力のローテーション入りしている2年生が3人いました

Basketball Diary Ep.08 『フェイク』と『フェア』

日本バスケットボール協会が提唱する、指導者としての「インティグリティ(integrity)」という言葉が、バスケットボール界では一般的となりました。大切なことは、「インティグリティ」という言葉や、「高潔さ・誠実さ・品位」といった意味を知っているかではなく、その理念の実現に向けて努力できているかどうかだと思います。 ルールブックのファウルに関する記述に「フェイク(ファウルをされたと欺くこと)」という行為があります。これはルール上認められていない行為であり、テクニカルファウルの対

Basketball Diary Ep.09 『驕り』と『誇り』

プレーヤーは我々指導者の「モノ」ではありません。 高校生スポーツに携わっている以上、プレーヤーに対しては教育的であり、いつも彼らの成長を願って指導しなければと思っています。 インターハイ予選が終わったタイミングで、日本中の高校生プレーヤーの多くは部活動を引退します。年末に行われるウィンターカップに向けてバスケットボールを続けていくことは、大学受験を見据えた高校生にとって非常に酷なスケジュールであり、続けたくても続けられないプレーヤーがたくさんいるのが現状です。そんな中にありな

Basketball Diary Ep.10 『コロナの頃は』

『人間万事塞翁が馬』 座右の銘を聞かれた時には、そう答えるようにしています。良い時も悪い時も、次にどう転じていくのかをよく見極めなければと思います。 来るもの拒まずの部活動ですから、一学年にたくさんのメンバーが入部してくる年もあります。そんな時は、最後の大会に向けたエントリーメンバーの選抜にとても頭を悩ませます。 ある年、一学年に17人のプレーヤーが集まりました。県大会のエントリー15人に対して余りが出てしまうことを、日頃からいつも意識せざるをえない学年でした。しかし、そんな