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Basketball Diary Ep.06 『現象』と『心情』

審判をするためのフィロソフィーなんて考えたこともありませんでした。
単に、プレーに対して機械的にジャッジしていくだけなら、これからの時代の審判は高性能のビデオカメラとAIに取って代わられていくのかもしれません。
ある県立高校との、どちらも負ければ3年生が引退という試合。相手のキャプテンは試合前から気合十分で、ティップオフの瞬間から果敢なプレーでチームを引っ張っていました。しかし、その積極性が仇となったか、前半の早い段階で3つ目のファウルを犯してしまいます。ベンチでもどかしそうに過ごすしかない彼を尻目に、こちらが着実にリードを広げていきました。
後半出足、ようやくコートに戻ってきた彼の気持ちはさらに高まっており、チームも息を吹き返したかに見えました。調子づいてきた矢先でした。第3クォーター中盤に彼は再びファウルを犯してしまいます。負けたら引退、その事実が焦りに繋がったのかもしれません。彼は審判の判定に対して、大きな身振りとともに「えっ!」と不満を口にしてしまいました。その直後、彼に対してテクニカルファウルが宣告されました。個人ファウルは5つ目。彼はその場で退場となってしまったのです。
部活動が教育活動の一環だと言うならば、携わる審判もまた教育的であってほしいと思いますし、眼前で起こる「現象」を捉えるだけでなく、プレーヤーの「心情」に寄り添った配慮があってほしいと願います。
「そのプレーの仕方はまたファウルになるぞ」
「ファウルに気をつけないと退場になるぞ」
「そういう振る舞いは次からテクニカルファウルの対象になるぞ」
試合中の彼に対して一言、誰かがそう伝えられていたならば、あんなに悲しい幕切れとはならなかったと思います。ベンチで頭からタオルをかけ、泣いている彼の姿を今でも忘れることができません。

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