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Basketball Diary Ep.10 『コロナの頃は』

『人間万事塞翁が馬』
座右の銘を聞かれた時には、そう答えるようにしています。良い時も悪い時も、次にどう転じていくのかをよく見極めなければと思います。
来るもの拒まずの部活動ですから、一学年にたくさんのメンバーが入部してくる年もあります。そんな時は、最後の大会に向けたエントリーメンバーの選抜にとても頭を悩ませます。
ある年、一学年に17人のプレーヤーが集まりました。県大会のエントリー15人に対して余りが出てしまうことを、日頃からいつも意識せざるをえない学年でした。しかし、そんな心配をよそに、彼らが3年生になるタイミングで新型コロナウィルスが世界的流行となり、インターハイも含めた総体予選は全て中止となってしまいました。
突如として目標を失った彼らの喪失感は、想像を絶するものでした。オンラインでミーティングやトレーニングを重ねてみても、どこか満たされない想いが募るばかり。体育館の佇まい、バッシュの紐を結ぶ感触、ボールの手触り、ドリブルが弾み、シューズが床に擦れ、シュートがネットを揺らす音、全てが懐かしく、愛おしくさえ思えるような、ただただ我慢を強いられる毎日を過ごすしかありませんでした。
それでもバスケットボールを止めないために、総体予選の代替試合が地区で行われることになりました。勝ち上がってもそれ以上はない大会でしたが、エントリーメンバーは20人でした。季節はもう夏の真っ盛り。3年生は大学入試に向けた受験勉強に頭をすっかり切り替えていましたが、17人全員に声をかけ、もう一度バスケットボールに取り組みました。練習不足が否めない覚束ない試合でしたが、観客席の下級生は声の無い声援を送り続けました。3年生が一人も欠けることなくベンチを埋め、ユニフォーム姿の17人が代わるがわるコートを走り回りました。それが彼らの最後の試合となったのです。
「人間万事塞翁が馬」
いつかきっと「コロナの頃は」と話せる日が来るはずです。その時に、幸せと笑顔が溢れる日常に転じた人生を皆が歩めますように。心からいつも、そう願っています。

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