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1分小説「組織のガン探し」

「うちの経営陣は、現場のことなんて何もわかっちゃいないんですよ」

30歳半ばのマネージャーと思われる男は、そう吐き捨てた。

「いつも指示がむちゃくちゃだ。前線で踏ん張ってるメンバーのことなんて、ちっとも考えてくれやしない」


「うちの課題はマネージャにあってね。管理職の人材不足だよ」

40歳半ばの役員と思われる男は、そう嘆いた。

「社員のためを思っての苦渋の経営判断なのに、マネージャーが理解してくれないから社員にまで誤解が広がってしまうんだ」


「社員や役員と面談をするとね、こういう話が出るのはよくあることなんですよ」

組織コンサルタントは二人の男との面談の様子を記録した動画を見せ終えると、僕に向かって説明した。

「だいたい100人を超えてくるような組織では、よくあることなんです」

「どうやらこの二人は、お互いにすれ違いがあるみたいですね。本音で語り合えばわかりそうなものなのに」

「マネージャと経営陣とでは、互いに立場が違うし、見ている場所も違いますからね。また、困ったことに双方がそれに自覚がないことが多い。根深い問題です」

「ちょっと僕には理解できませんね。うちの会社では本音で語り合うことをベースにしてるので」

僕は笑った。

「ところで社長、今回のコンサル依頼をいただいた要件をもう一度確認させていただいてもいいですか?」

「ええ」と僕は答えた。

「うちも会社が大きくなり、例えば新しい方針をひとりひとりに伝えていくのが難しくなってきたり、部署同士で揉めたりするケースも増えてきまして」

「社長は、原因は何にあるとお考えですか?」

「原因はきっとマネージャーにあるんですよ。管理職の人材不足が切実な問題ですね。会社のためにも社員のためにもなる方針なんだと説明してるのに、マネージャーがそこに理解が追いついていないんです」

「...社長、どうやら原因がわかりました」

(おわり)

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