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第41回:採用担当のゴールは「採用」ではない?#ベンチャーのHRを考える

採用担当の仕事は「人を集めること」なのか?

 初めて採用担当になったときに、自分の仕事をどんなふうに考えていたかというと、「人を集めること」みたいに捉えていたように思います。ただ今となってはその認識が不十分で、人を集めるのは一部に過ぎないということ。本来の「採用」はもっと上位レイヤーでの視点が必要だということがわかります。

 採用というのはそれ単体で成り立つものではなく、人事という会社の機能の一部。採用、育成、配置、評価、報酬、代謝という全てを見渡して初めて本質的な採用の議論ができるものです。あの頃、Webマーケティング部署で研修を受けてすぐに人事部署に異動した僕は、極端に言えば採用を単なる「転職希望者に会社を売り込むマーケティング活動」としか捉えていなかった。そんなものだから、目的目標の出発点が「採用」になっていました

「採用」は採用活動のゴールではない

 採用をする目的は、採用した人材が社内で活躍し、企業の利益にできるだけ長く貢献することです。採用して終わり、ではない。極端な話、KGIは採用数ではなく、利益率と言ってもいいでしょう。それくらいに、採用活動のゴールは企業活動の根幹に繋がってないといけないと思います。

 入社後のオンボーディング、成長できる機会と、それを感じられる機会。適切だと納得できる金銭報酬の仕組みと、それをしっかり伝える社内広報のコミュニケーション。加えてその企業のビジョンに基づいた感情報酬を感じられる工夫。人材のパフォーマンスを最大化させる配置と、それを適切に評価する軸の見直し。退職率のウォッチと、コンプラ原因の退職が起きないようなヘルプライン体制。残業管理や有給利用のチェック。Etc...

 具体策を上げればキリがありませんが、採用に関わる担当者は、こういった育成、配置、評価、報酬、代謝といった点にまで視野を広げる必要があるように感じます。商品であれば売って終わり、よほどのことがない限り返品されることなどありませんし、悪質な商品出ない限りブランドも傷つきません。ただし転職希望者に自社を売り込む場合、売って終わりとはいかないのです。

退職率は低ければいいというものではない

 とはいえ、例えば退職率を下げる工夫をしよう!と一足飛びに考え始めるのも的を外しています。そもそも退職率は低ければいいというものではありません。いろいろありますが、ここでは主な理由を2つあげておきます。

 まず一つ目。企業において、特にベンチャーであればなおさら、企業のフェーズに合わせて一定の退職者は出て然るべきだからです。10人、30人、50人、100人、300人と社員が増えると、そもそも会社のカルチャーや働き方自体が大きく変わってきます。

 規模が大きくなってより優秀な社員が入社し始め、立ち上げ初期にジョインした古参社員よりも高いポジションを占めるようになり古参の不満が増える。誰でもなんでも屋を求められた創業時から徐々にシステム化され分業中心になり価値観の衝突が起こる。100名を超えたが中堅のマネージャー層の人材不足により経営陣と社員の間の確執が大きくなる。などなど。

 例を上げれば企業成長における組織あるあるなネタがたくさん出てくることでしょう。その企業のフェーズにおいて、適切な「代謝」というものがあります。そしてこれは採用、育成、配置、評価、報酬においても同様。企業フェーズにおける適した人事機能の取り入れを見極めるのと、いかにハレーションを適切な規模に抑えつつ新しい人事体制に移行するかというのも、人事の重要な仕事だと認識しています。

 二つ目は、そもそも退職率は企業の人事計画から算出されるべき数値だからです。例えばリクルートが卒業を奨励しているのは有名な話です。若い20代の社員をガンガン新しく取り入れ、一定の成長をしたら起業なり転職なりで次のステップに行く風土を作る。退職率は高くなりますが、そもそもそういう意図でおこなっているから問題ではありません。

 一方で、専門スキルや技術が求められる人材の場合、人材の社外流出はそもそもその事業の痛手になりかねません。例えば現在AIエンジニア人材はどこも引く手数多。高待遇の条件を提示して採用し定着してもらおうと大手IT企業は躍起になっているものと思います。その場合は退職率は少ないに越したことはないでしょう。ただしそれでも、0%を目指すのは非現実的です。それにIT人材は一定の流動性を持ったほうがむしろスキルアップするというもの。では5%なのか?10%?20%?その議論は人事計画から算出されるはずです。


 以上、採用活動に関して最近特に実感している大事なことを整理してみました。ベンチャー企業で人事の仕事をやりながらもうすぐ5年になりますが、まだまだできていないことばかり。つまりやれることがまだまだあるなと感じる日々です。そもそも広報兼務、運営やシステム兼務など、人事メインという役割ではないので、人事をメインでやっている方々に追いついていくためにも常々キャッチアップして思考を深めながら生産性高い動きを目指していきたいと感じるこの頃でした。

 ちなみに、上記の話はいろんな本を読みながら考えたものですが、特に今回の話で参考してるのが以下の本です。人事の概要や概念の理解には非常にわかりやすい本ですので興味がありましたら。

 次はもっと細部の、採用マーケティングについて書いてみようかな。




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