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「今日なのかな、小鳥さん? 今日かい?」

明日の言葉(その1)
いままで生きてきて、自分の糧としてきた言葉がいくつもあります。それを少しずつ紹介していきます。


朝、目が覚めたら、ベッドの上で呪文のように唱える言葉がある。

「今日なのかな、小鳥さん? 今日かい?」


そして窓から外を見る。
風で揺れる木や、空を行く雲を見る。

そのうえで自問する。
用意はいいか? するべきことをすべてやっているか? なりたいと思う人間になっているか?

・・・うはは。わけわからないですよね。
でも、ボクにとっては相当胸にチクチクくる、大切な言葉なのである。

簡単に説明すると。

これは「モリー先生との火曜日」(ミッチ・アルボム著/別宮貞徳訳/NHK出版)というノンフィクションの中に出てくる言葉で、著者ミッチ・アルボムの大学時代の恩師であるモリー・シュワルツが言ったものである。


モリー先生は難病にかかっていて死の床についている。
あと数ヶ月の命。
そういう状況の中、彼はベッド上でかつての教え子である著者に「最終講義」をする。

「死とは」「恐れとは」「老いとは」「家族とは」「人生の意味とは」など、「死を目の前にしたからこそ学び取れた数々の真実」を説いていくのである。

「誰でもいずれ死ぬことはわかっているのに、誰もそれを信じない。信じているなら、ちがうやり方をするはずだ」

「いずれ死ぬことを認めて、いつ死んでもいいように準備すること。そうしてこそ、生きている間、はるかに真剣に人生に取り組むことができる」

これは「死について」と書かれている章の彼の発言だ。

そう、ボクたちは絶対に死ぬ。
その事実から目を背けて生きてはいるが、絶対に、死ぬ。
そして、それは今日かもしれないし明日かもしれない。

だから本当は、毎日「死の準備」をしないといけないのである。
今日死んでも後悔しないように、真剣に毎日を過ごさないともったいないのだ。

平然と「いつかはこうしたい」「いつかはこうなりたい」とか語っているけど、いつかなんて来ないかもしれない。するべきことは今しないと…。


彼は「毎日の死の準備」として、以下のようなやり方を提案する。

「仏教徒みたいにやればいい。毎日小鳥を肩に止まらせ、こう質問させるんだ。『今日がその日か? 用意はいいか? するべきことをすべてやっているか? なりたいと思う人間になっているか?』」

そして、肩に止まらせた仮想の小鳥に向かって、冒頭の言葉をささやくのである。

「今日なのかな、小鳥さん? 今日かい?」



もうわかっていただけましたよね。
ボクは、毎朝のように、ベッドの上でこの言葉をリマインドする。

疲れた自分を奮い立たせるために(今日死んじゃうなら疲れて凹んでいるのももったいない!)。

さぼりがちな心を引き締めるために(今日死んじゃうならさぼっているヒマなどない!)。

物質的なものに引きずられがちな自分を戒めるために(モノやカネなんて死んだら何の意味もない!)。

そしてなにより、自分だけの「たぶんたった一回の人生」を楽しむために今日できることはすべてやろう、と確認して、ベッドを出るのである。


え? ホントに毎朝そんな大層な決心してるんですか、って? 

・・・まぁ毎朝って書いたけど、もちろん急いでいて忘れることもあれば、ボーッと起きてそのままボーッと一日が終わることもある。

でも、少なくともその日か翌日か数日後のどこかで、「あ、小鳥さん、忘れてた!」と、思い出す。

この「あ、忘れてた!」がわりと大事。

ズルを見つけられた子どものようにドキッとする。
「えっと、オレ、ちゃんと生きてたっけ?」って急いで振り返り、反省する。

その過程で「いずれ死ぬこと」を認識し直すことが、とっても大事だと思う。

モリー先生は言う。

「(死の準備をすると)よけいなものをはぎとって、かんじんなものに注意を集中するようになる。いずれ死ぬことを認識すれば、あらゆることについて見方ががらっと変わるよ。いかに死ぬかを学べば、いかに生きるかも学べる」

「もし君が肩に乗った小鳥の声を聞くとする。いつ何どき死んでもおかしくないことを受け入れるとする。そうすると君は、今みたいな意欲を持てなくなるんじゃないかな。今、ずいぶん時間を費やしていること、やっている仕事、そういうものがすべて今ほど大切とは思えなくなるんじゃないか。何かもっと精神的なもののために場所をつくらなければならなくなるかもしれない」


死から目を背けて生きるのは簡単だ。
しかも、現実的には死はすぐにはやって来ず、当たり前のように明日もあさってもしあさっても人生は続く。それもその通りだ。

それをわかったうえで、敢えて一日に一回、死を直視してみる。
それだけで、生き方が少し変わってくる。
今日という普通の一日が、少し違って見えてくる。

どうでしょう。この「小鳥さん方式」。
あなたの人生にも、たぶん、わりと効くと思います。
一度お試しになってはいかがでしょうか?


※そういえばスティーブ・ジョブズも同じようなことを言ってましたね。その言葉については、またそのうち書こうと思います。

※※この文章は、個人サイトの「オサニチ 〜おさまりがちな日常に」というコーナーに書いていたものに加筆修正したものです。

※※※同じ文意のものを、國學院大學が編纂した「私の一冊」という本に、依頼を受けて寄稿しました。別にこの『モリー先生との火曜日』がボクの「人生の一冊」というわけではありませんが、大学生に贈る一冊、にふさわしいと思い、選びました。


古めの喫茶店(ただし禁煙)で文章を書くのが好きです。いただいたサポートは美味しいコーヒー代に使わせていただき、ゆっくりと文章を練りたいと思います。ありがとうございます。