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知らないタイ人が空港まで車で送ってくれた話

数年前の6月、タイの奇祭「ピーターコン祭り」へ行った。ずっとずっと行きたかったのだけれど、6月は連休がないし、遠いし、どうしようかと悩んでいたのだが、思い切って飛行機を使った日帰り旅行をすることにした。

早朝の飛行機でルーイ県というラオスとの国境のある県まで約40分のフライト。そこからタクシーで祭りのある村まで1時間半かかった。降りる時、タクシーの運転手が「帰りはタクシーないと思うから、困ったら電話して」と名刺を渡してくれた。

「この書き入れ時にそんなわけあるかい!」と、その時の私はのんきに思っていた。

村はメインストリートが一本あるだけの本当に小さなところだったが、外国人もたくさん来ていた。日本の旅行会社のバンも数台見かけた。

村の人はみんなとても気さくで、カメラを向けるとポーズを取ってくれた。ずっと見てみたかったお祭りに来れて、日帰りだけど来てよかったなぁと大満足していた。短いメインストリートを飽きずに何往復もした。

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飛行機は午後6時だから、3時ぐらいに村を出れば余裕。
そろそろタクシーでも拾おうか。村のメインストリートを出て、車が通る大きい道をしばらく歩いた。・・・・が、一向にタクシーが通らない。人も全然歩いていない。

あれ・・・?なんかおかしいぞ・・・
もう一度来た道を村の方へ歩いて戻る。メインストリートの入り口は、帰りの人でごった返し始めていた。

「すみません、タクシー乗り場どこですか?」交通整理をしている不機嫌そうないかついおじさんに声をかける。「タクシー?ないない!向こうにバス乗り場あるから」とぶっきらぼうに指をさす。

とりあえず指された方へ歩いてみる。みんなお祭りの観光客らしく、すごい人だかり。チケットを売っているタイ人のおばちゃんに声をかけるが、飛行機に間に合うバスはすでに満席だった。

ちょっとまずい気がする。どうしよう・・・。そうだ!
朝乗ったタクシーの運転手にもらった名刺の番号に電話をかけてみた。

「今、空港のある街にいるから、今からそっちに行っても間に合わないよ」と言われて、さっさと切られてしまった。

マズい。もう一度交通整理のいかついおじさんのところへ行く。こうなったらバイクでも仕方あるまい。「バイクタクシーどこで拾えますか?」と聞いてみたが、「ないよ」と一言。

やばい、詰んだな。そう思った。すると、おじさんが「飛行機何時?村の人に車出せるか聞いてみる」と言い出した。

え?嘘でしょ??見知らぬ日本人に車出してくれるの??言うてる間におじさんが誰かに電話をかけてくれて、あっという間に車が来てくれることになった。「もう来るからそこで待ってて」とおじさん。タイ人の優しさは普段から身を持って感じてはいたが、ただの初めて会った外国人観光客にここまでしてくれる人がいるなんて信じられない!

こうして私は全く知らないタイ人の車に乗り、空港まで向かうこととなった。この時ほど、タイ語が話せるようになってよかったと思ったことは未だにない。

飛行機の時間まで1時間半を切っていた。

車を待ちながら、知らない人の車に女一人で乗り込んで大丈夫かな・・・万が一何かあっても自己責任だよなと、ちょっとびびっていたが、来てくれたのは若い優しそうなお兄さんだった。

私の不安を汲み取ったのか、車に乗り込むとお兄さんはドライブレコーダーをインカメラにしてくれた。「何もしないから大丈夫だよ」と気を使ってくれているのかなぁと思った。時間がないとわかると、アクセル全開で近道を使ってぶっ飛ばしてくれた。

お兄さんはITエンジニアをやっているそうで、仕事のことや日本のこと、タイのことを車内で話した。何かあったら使おうと、スマホをずっと握りしめていたが、恐れていた何かは起こらなかった。ただただ底抜けに親切なお兄さんだった。

空港が見えてきた時、フロントガラスにポツンポツンと大粒の雨が落ちてきて、
「ピーターコン祭りは雨乞いのお祭りらしいから、きっと雨に遭うよ」と友だちが予言してくれていたのを思い出した。お兄さんは雨の中、また村まで1時間半かけて帰らないといけないのねと思ったら、本当に申し訳ない気持ちになった。

行きのタクシー代よりも少し多めにお金をお支払いして、お礼を言って急いで車を降りた。「コップン・マックマーック(どうもありがとうございます)」以外に深い感謝を表現するタイ語が出てこないことがもどかしい。

飛行機にはギリギリ間に合った。安堵し、放心状態で飛行機に乗った。そこからどうやって家に辿り着いたかはもう記憶にない。

きっともう彼らに会うことはないだろう。恩を直接返すことはできない。でも、目の前に困った人がいたら、彼らがしてくれたように私も手を差し伸べようと思った。親切が伝播して、いつか彼らや、彼らの大切な誰かに届くといいなと思う。

私はこの日、ペイフォワードの循環にいざなわれたような気がしている。

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