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インドで南アフリカ人とターバンを買いに行った日の話

朝、カーテンを開けて思わずはっと息を飲んだ。青い絵の具を水に溶かして空からぶっかけたような街並みに、そびえる城塞。

前日の夜遅くホテルに着いた私は、ようやくシティービューの部屋からの眺めを堪能していた。

2週間のインド旅行の最後の地にジョードプルを選んだのは、この青い街並みをどうしても見たかったからだ。

朝食付きのホテルだったので、のんびり朝支度をして、案内されるがまま誰もいないルーフトップの小さいバルコニーに通された。いい1日が約束されたような、きれいに晴れた空だった。

特に予定を決めない気ままな一人旅。どんな1日にしようかぼんやり考えながらホットケーキを頬張っていると、誰かが階段を登ってくる音が聞こえる。

視界の端から、髪がトイプードルみたいにクリンクリンの若い男の人が近づいてきた。

目が合うと彼は、"Heeeey! Good morning!"と笑顔で明るく話しかけてきて、私のテーブルに座った。

・・・!?

とりあえず互いに軽く自己紹介。彼は南アフリカ人で、デリーの大学院に通う留学生だった。夜行列車でさっきこの町に着いたばかりで、彼も今日1日特に予定がないそうだ。

「じゃ、今日1日一緒に観光しない?」

大きい眼をくりくりさせながら、彼が誘ってくれた。

ビビリの私はインド旅の道中、ずっと自分で手配した運転手を雇っていたのだが、ジョードプルはこじんまりした町だし、比較的治安もいいと聞いたので、初めてインドで1人行動をする予定だった。誰かといた方が安全だし、きっと楽しいに違いない。二つ返事で彼と行動を共にすることを決めた。

朝食後、リクシャーに乗って一緒に町まで繰り出す。

彼の名はアリ。国籍は南アフリカだが、両親はイラン人らしい。どうりで中東系の彫りの深い顔立ちをしている。

アリは次の日マハラジャの結婚式に出席するらしく、今日はそのためのイカした"勝負ターバン"を買いに行きたいと言った。

・・・マハラジャ?結婚式?ターバン?・・・は??

ツッコミどころ満載のワードの羅列に思わず笑けてくる。OK!行こう!是非行こう!

時間はたっぷりあるので、観光しつつターバン屋を見かけたら入ることになった。

アリはとにかく人懐っこく、誰にでも平気でガンガン話しかけるコミュ力おばけだった。(きっとこのコミュ力でマハラジャの結婚式に招待されたのだろう)

そしてやたら写真や動画を撮りたがった。

街並みや景色、博物館の展示物、壁、看板。リクシャーの運転手や鍛冶屋のおじさん、レストランのウェイターとのツーショット、セルフィー。ありとあらゆる物や人をバッシャバッシャと撮って撮って撮りまくった。

私も写真は好きだけど、たくさん撮るタイプではない。同じ構図は1枚あれば十分。写真を撮るより、そこの空気感を味わっていたい。

写真機はいらないわ
五感を持っておいで

東京事変の「閃光少女」のこのフレーズに、深く激しく同意する閃光少女、否、閃光ババアなのだ。

昼ご飯の後、彼のiPhoneのメモリはパンパン、バッテリーも瀕死状態になった。写真をパソコンに移して充電もしたいと言うので、一旦ホテルに戻ることにした。

リクシャーを拾うため大通りを少し歩くと、ショーウィンドウに色とりどりのターバンが見えた。出た!ターバン屋!

店内には、いろんな結び方のカラフルで色鮮やかなターバンが、おとぼけ顔のマネキンの頭に置かれていた。奥にはパンジャビードレスやサリー、ビンディー(額につけるシール)も置いてあった。全てが珍しく、キョロキョロしながら店内をぶらついていると、アリが私を呼ぶ声がする。

「写真撮って!!」

声のする方へ行くと、彼は鏡の前で店員さんにターバンを巻いてもらおうとしていた。

出来合いのターバンを買うとばかり思っていた私は驚いた。ターバンってこうやって買うの!?

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急いでカバンからiPhoneを取り出して、クリンクリンの髪がターバンに収まっていく様を、コマ送りアニメーションができるぐらい連写した。これだけ撮ればアリも満足に違いない。

長身の店員さんは、器用な手つきで丁寧にヒダを作ったり、ねじったりながらターバンを巻いていく。

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5分足らずでイカした勝負ターバンが完成した。後ろにしっぽみたいに垂らした形が最高にイカしてる!

アリが選んだ黄緑と赤のターバンは、彼のエキゾチックなアラブ系の濃い顔立ちによく似合っていた。アラブのターバン男なんて、まるでアラジンのプリンス・アリだ。

ターバンはハリのあるさらさらした素材で、頭からスポンと取ってもそのままの形をキープしていた。試しにかぶらせてもらうと、ちょっと重かった。

ターバンをかぶってホテルまで戻る。リクシャーの運転手のおっちゃんにも褒められて、誇らしげなアリ。オープンエアのリクシャーの乾いた風を受けて、ターバンのしっぽがひらひらとたなびく。

🇮🇳  🇮🇳 🇮🇳

夕方は一緒に見晴らしのいい小高い丘へと登った。夕焼けに染まる青い町を岩場に座って眺めた。アリはフル充電のiPhoneで写真を撮りまくる。

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夕飯はおしゃれなレストランへ出かけた。1人じゃない晩ご飯はとても楽しく、酒が弱いくせに調子に乗って、インドで初めてビールを飲んだ。

22時半を過ぎ、そろそろ帰ろうとレストランの出口に向かうと、隣の建物からノリノリの音楽が爆音で聞こえてきた。

・・・ここはもしや、ディスコ!?

好奇心で中に入ってみると、威勢のいいDJが熱気ムンムンのフロアを煽るように仕切っていた。ミラーボールが闇を照らすたび、ピタッとした服の女たちが体を揺らして踊っているのが見える。外では体のラインが出る服の女性を見ることはほぼない。すごく新鮮で、インドの別の一面を見た気がした。

めちゃくちゃ盛り上がっていたのは閉店間際だったかららしい。急に音楽が止み、ゾロゾロと客が帰って行く。時計はまだ23時。インドのディスコは意外と健全だった。

🕺  🕺  🕺

ホテルに戻り、互いに撮った今日の写真をシェアした。そして互いの安全な旅を祈り、おやすみのハグをして別れた。

朝予想した1日とは全然違う一日が終わろうとしている。

朝のバルコニーで、もしアリに出会わなければ、ターバンを買いに行くこともディスコに足を踏み入れることも絶対になかった。

プリンス・アリはこの日私にA whole new world〈全く新しい世界〉を見せてくれた。魔法の絨毯ではなく、リクシャーで。

部屋に入る前にふと空を見上げると、月が煌々と輝いていた。

たぶんまだちょっと酔っていたのだろう。空の写真なんて撮らない私が、思わず写真に収めてしまうほど眩しく美しかった。

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旅行記まとめ⏬


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