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母の部屋を片して見つけたもの〜Japan 2022 夏

「凄い事になってるけど大丈夫?一緒にやろうか?」
姉の言葉を背にドアを開けると、施設に入る時に必要な物を取り去った、少しホコリっぽい雑然とした部屋がそこにあった。

家の主である母は、もういない。

友達とカフェでお喋りしたり、旅行に行くのが大好きだった母。パンデミックから徐々に情緒不安定になり、同時に認知症も進行していった。
そんな矢先に、偶然近くにあるグループホームから連絡があり入居が決まる。
家族にとっては複雑な思いがあるけれど、ここに来るまでは色んな事があり、認知症の家族を持つものの大変さは体験された人にしか分からない。
一緒に住んでいた家族は最善を尽くして今がある。何も出来なかった私は、母の部屋を片す事で自分の中で「何かした」と言う自己満足を感じたかったのかも知れない。

病気の不安からか、その部屋は壁一面小さなメモで覆われ、それが2年間の姉と母の苦悩をあらわしているような気がして胸が痛んだ。

それでも今は、感傷に浸っている時間はない。部屋をひと通り見渡したら、さっさと作業着に着替えてマスクとゴム手袋、市のリサイクル本を片手に選別を始めた。

クリップ、個人情報、プラスチック、紙、輪ゴム…

メモ書き

引き出しを開けるたびに出てくる大量のメモ。1枚1枚目を通すと、母が口には出して言わなかった家族への思いが見えてくる。

大切に取ってあった沢山の家族ビデオを甥っ子と一緒に古いデッキに入れてみた。映し出された映像の中で、ママに抱っこされた甥っ子が笑っている。
それを撮影しているおばあちゃん….。
2人でしばし思い出の映像を眺めた。

娘が幼い頃に送ったカードや手紙も綺麗に取ってある。

昭和のテーブルやタンス類は市のリサイクルセンターに持って行き、衣類や食器はBookoffへ。

この橋を渡ると大きなリサイクルセンターが見えてくる

リサイクルセンターに行くと、リタイアしたシニアの方々が生き生きと仕事をされていたのが印象的だった。各地にあるシルバー人材センターでは自分が経験してきた事、出来る事を申請するとそれが仕事になり、コミュニティのお手伝いをすることで報酬もある。これは、これからの時代にぴったりの雇用形態ではないかと思う。

手慣れた甥っ子に手伝ってもらい、サクサクと家具が無くなっていく。

ブックオフでは、買い取られなかった衣類や食器類などは海外へ、買い取りの10%は赤十字へと寄付される。

オンラインで手続きできる支援も展開され、人だけではなく、ワンコや猫ちゃんのサポートも。

“捨てるのではなく、誰かのために再活用”する

時間を見つけてはリサイクル用品は綺麗に洗って直ぐに使えるようにしてドネイション。コツコツと数週間に渡り片付けを続けた。

以前noteに書いた思い出のアルバム

始めてから数日後、古いコーヒーテーブルにかけてあるクロスをめくったら、あの思い出のアルバムがそこにあるではないか。
興奮して姉に見せに行くと、
「まだあったんじゃね!」

「これを買った時はダンシングクイーンが流行っていたんよね。でも、それが聴きたかったから買ったんじゃないんよ。この中に入ってるSOSが1番好きじゃったの。さっちゃん、欲しかったら持って帰っていいよこれ。」

「うんうん持って帰る!」

アルバムを手にして子供みたいに顔をぶんぶん上下に振りながら答えた。

ジェットストリームも記事のタイトルにしたな…さすが親子!
音楽も大好きだった

母の部屋を片して見て、それはただの雑然とした部屋ではなかったことに気がついた。物が多すぎて見えなかった、母が大好きだったものがここにある。
生きた証。
そこには私達が居た。

片した部屋でひとつ残された椅子に座り、爽やかな疲労感を体に感じながら、しばし部屋を眺める。

こんな夏も悪くないな…。

今日は地元の人にとっては、2年ぶり花火大会。

故郷の景色の上に
「ヒューン」
高く高く登って行く光。
それが、はじける瞬間に写し出される
夢風車。
変わって行く家族の未来が幸せであることを願いながら、夢中でシャッターを切った。

2022年夏。

母。友達宅にて。


***

未だ窓越しの面会のみの現状で、このまま帰国かと思っていた矢先に「眼科に連れて行ってあげてください」と施設長さんから連絡がありました。母と半日過ごし、懐かしい景色を一緒にドライブして大切な時間を過ごすことができ、思い残す事無く帰国出来そうです。
出発する時に、こっそりと2人を撮影する施設長さんが見え、もしかしたら私達へのはからいだったのかとも思いました。母のお友達の家に行った事は内緒ですが、笑。
ご心配をおかけしていた方々にご報告と感謝の気持ちを込めて。
母は今、とても穏やかに、優しいスタッフさんと毎日を楽しんでいます。


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