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姉とわたし

私には一才違いの姉がいる。ひとつしか違わないのに随分歳上のように感じるしっかり者だ。子供のころから本が好きだった彼女は、よくベッドに転がって本を読んでいた。

姉の部屋は小さな階段からベランダへと通じる大きな窓があり、海側のコンビナートに面している風通しの良い部屋だった。そこにはプレーヤーとレコードが並んでいて、わたしは姉が本を読んでいる横にこしかけて、よくそのレコードを聴いていた。彼女が小学生の時に初めて買ったアルバムはABBA。ガラスのような声が、窓から入って来る風と共に流れるのが心地よくて、いつも窓をいっぱいに空けて聴いていた。

そして、The Beatles。
「Hey Jude」のアルバムのような気がするけれど、この辺の記憶は定かではない。

Y.M.O.の「増殖」も同じ時期に良く聴いた思い出のアルバム。

「警察だ!」
「だーれー?」

「いいものもある、だけど悪いものもある。」

聴きながら笑っているわたしの横で「ふーん」という顔で本を眺めている姉。怒られないかとヒヤヒヤしながら、この部分を何度も聴いていた。

高校生になると、リアルタイムでは無いけれどChicago、Hall & Oates、Totoなど。この頃からは姉がカセットにダビングしてくれるようになる。

そんな姉も福岡の短大に進学する事になり、叔父の仕事用のバンに引っ越しの荷物を積んで送り届けた。「ゴールデンウィークには帰るから。」と二階建てのコーポの階段から手を振る姉が小さくなって行く。1人車の後ろに座り、姉からもらったカセットを聴きながら外の景色を眺めた。関門橋に差し掛かった時、海に反射する春の光がとても眩しくて、遠くまで見渡せる壮大な景色とヘッドフォンから流れる音に感動したのを覚えている。
その時にかかっていたのは、Chicagoの
「Hard to Say I'm Sorry」
この曲を聴くと、寂しい気持ちで景色を眺めていたあの日の自分を思い出す。

わたしがアメリカに渡った時も、帰国してまた去るときも、笑顔で見送ってくれた姉。お互いに「じゃーね!」「着いたら連絡してね!」と軽く別れる。それは心の中の涙が溢れ出ない様にするため….

離れ離れになっても、姉はいつまでもわたしにとってのインスピレーションだ。

You're the meaning in my life
You're the inspiration
You bring feeling to my life
You're the inspiration
You're The Inspiration / Chicago /1984


最後に「Saturday in the Park」

それは、セントラルパークでも、世界中のどこの公園でも生まれる平和や愛のようなものさ。多分、それは土曜日で、そこで人々はただリラックスして、お互いがいてくれることを楽しんでいる。それに僕たちがそこで観察したいろんな活動や、そういう1日を過ごして得られる感情といったものさ。
Robert Lamm /Billboard 6/8/2017


“お互いがいてくれる事を楽しんでいる”
この曲の様な、平和な日常が
これからもずっとずっと続きますように….


今回の記事は、乳がん摘出から一年足らずで遠隔転移してしまった姉に向けてのエールとして書きました。離れていても「そこに姉がいる」と言うだけで心の支えになっています。あと何年生きられるのか….と考えた時に幼い頃の思い出が走馬灯の様に頭によぎり、一緒に聴いた音楽を思い出しました。姉は持ち前の強さで「余命何年か分からないけれど、その間にやりたい事は全部やる!でもコロナが邪魔をするんよね….」と。
今はわたしも現実を受け入れられない状態ですが、なるべくポジティブに明るくミラクルを信じてサポートして行きたいと思います。ご心配をいただいている皆様のお言葉は「姉とわたし」の心の支えになっています。

感謝。

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