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インボイス問題を通して情報リテラシーについて考えた話 - Day5

社会をエンジニア視点で紐解いてみるシリーズ。
情報リテラシーの観点で、むちゃくちゃ興味深い事例として、
インボイス制度の問題を、
私自身の体験や考えの変遷を、時間を追う形で書いていきながら整理していきます。

<お断り書き>
もしかしたら、読む方の立ち位置によっては、途中々々で不快な気持ちを与えてしまう部分もあるかもしれません。ただ、この問題の原因には、コミュニケーションの問題が大きく関わっていると思っています。
それを紐解いていくためにも、私自身が「その時どう感じたか、どう見えていたか」という主観の部分をあけすけに書くのがいいだろう、と思いまして、このお断り書きを書いた上で、以降、書き進めさせていただきます。

<全話リスト>
Day1 そもそものきっかけ
Day2 STOPインボイスに連絡を試みる
Day3 STOPインボイスの人たちに会いに行く
Day4 知人たちと勉強会を開く
Day5 税理士さんとお話しする
Day6 SNSで見知らぬ人々の誤解を解くことを試みる

消費税の根本的なことに関して浮上した疑問

STOPインボイスの活動をされている方の主催するお話し会へ行ってきた2日後、知人の遠縁の税理士さんが私のnote記事を読んでくれて、
オンラインでお話しすることを快諾してくれた旨の連絡が入った。

知人を含めた3人で、LINEでやり取りを交わし、翌日の夜に、お話しさせてもらうことが決まった。
私の書いたnote記事については、「丁寧に詳細がまとめられている」と言ってもらえ、大きな誤りはなさそうな様子だった。

(ということは、あの部分は、どういうことなんだろうな…?)
LINEのやり取りを終え、税理士さんに聞いてみたいことを洗い出し始めながら、私は少し首を傾げた。

税理士さんに私のnote記事を確認してもらいたかった一番の理由は、
自分が根本的な認識誤りをしていないかを確認してもらいたかったからだ。
私が消費税やインボイス制度の基本を理解するために読んだのは、賛成派の税理士さんが執筆した本で、その中のロジックを飛ばしている部分が気になり、そこを深掘りしていくことで、今回のインボイス問題について色々わかってきた経緯だ。
ここまでのところ、自分が整理した内容で色々と説明はつくのだが、もしもその本の「そもそも」の部分に嘘があったら、根本から色々崩れるだろうな、ということは、ずっと頭の片隅にあった。

それは、
「消費税は消費者と売買する際に課税されるもので、それを事業者が分担して納税する。仕入れ税額控除は、その分担金額を算出するために使うパラメータ」
というところだ。

消費税の納税の仕組み(賛成派の税理士さんの書籍に記載の内容)

そして、この2日前、経理に詳しい知人から、
「『課税仕入れ』に関する国税庁の見解を見つけました」
とリンクが送られてきていた。

課税仕入れとは、(中略)事業のための購入などをいいます。事業のための購入であれば、仕入先が免税事業者や消費者の場合でも課税仕入れに当たります。

No.6355 課税売上げと課税仕入れ|国税庁

この記述からすると、消費税は、
「最終的に消費者と売買する際に課税されるもの」
ではなく、
「事業者が売買する際に課税されるもの」
ということになり、今までの話が根本から崩れるのだ。

消費税の正解はこっち?

私は、反対派の税理士たちが、このインボイス問題について説明する際に、
端的に
「課税事業者がインボイス制度導入により、免税事業者との取引を仕入れ税額控除できなくなることが問題の原因」
と説明せずに
「消費税は、実は消費者ではなく事業者が支払うもので…」
というところから説明を始めることが、ずっと不思議だった。

「消費者との売買に課税されるのが消費税」
であり、売買というのは消費者と事業者が商品とお金を交換するタイミングなのだから、
消費者が支払っているともいえるし、事業者が支払っているともいえる。
そんな言葉遊び、どっちでもいいじゃないか、と。

そんなところにこだわるがゆえに、
「免税事業者が消費税をもらうことは認められているのか否か」
という不毛な言い争いにハマり込んでいるように見えた。

しかし、これが、消費税というものが、
「最終的に消費者と売買する際に課税されるもの」
ではなく、
「事業者が売買する際に課税されるもの」
であるというならば、たしかに問題は全く違うものになりえるのだ。

しかし、そうすると、「仕入れ税額控除」というのは、いったい何なのか?
今回のインボイス制度導入によって起こる問題は、仕入れ税額控除とは関係ないのか?
免税事業者が消費税をもらうことが認められているか否か、というのは、やっぱり必要な議論になるのか?

そんな疑問を感じているところだった。

しかし、税理士さんからのメッセージには、私の認識に根本的な誤りがあるとの指摘はない。
いったい、どういうことなのだろうか?

税理士さんとお話しする

翌日の夜、知人と税理士さんとの3人でオンライン越しに対面する。
簡単に自己紹介しあった後、私は早速、
「なぜ、反対派の税理士さんたちは『仕入れ税額控除を使った節税ができなくなるのがインボイス制度の問題』と説明しないんでしょうか?」
と単刀直入に聞いてみた。

私の認識が根本的に誤っているならば、「それは違うから」という返答になるだろうし、何か理由があるなら、それを教えてもらえるだろう。
そんな風に思っていたのだが、私の質問に、税理士さんは、
「久しぶりに消費税の条文を読み返してみました」
と言ってから、消費税というものの考え方について、ゆっくりと説明を始めた。

「まず消費税は、消費者が納める間接税ではなく、事業者の売上に掛かる直接税です」
税理士さんは、最初にまず、そう言った。
(あぁ、やっぱり、そこからの説明になるのか)
と私は思う。

そうして、全ての売買に対して消費税がかかること、
しかし、そうすると、事業者が増えるほどに消費税が累積されて最終価格が上がってしまうので、それを防ぐために仕入れ税額控除というものが用意されているのだと、そう説明された。

なるほど。仕入れ税額控除の説明は、そういうものになるのか。

そうして、多くの人に誤解されやすい理由なども説明してくださっていくのを聞いていくうちに、
(そういうことか)
私は消費税というものの正体と、
今回、賛成派と反対派での説明の仕方が全く異なっていることの理由が
見えてきた。

消費税法というものは、
2つの切り口から、全く別の言葉によって説明することができるのだ。
そして、その2つの切り口からの説明を可能とさせているものこそが「仕入れ税額控除」という要素だったのだ。

つまり、こういうことだった

消費税は、事業者が売買する際に、販売先が事業者だろうが消費者だろうが関係なく、売上げに対して課税される。

事業者の売上げに対して消費税がかかる

しかし、そうすると、関わる事業者が増えるほどに、最終価格が上がってしまう。

事業者が増えるほどに最終価格が上昇

そこで、仕入れにかかった消費税分は納税額から差し引くことを可能とする。これが、「仕入れ税額控除」だ。
事業者は、仕入れ税額控除分を利益にできる前提で販売価格を設定する。

仕入れにかかった消費税は差し引ける

そして、こうすると、結局、振る舞いとしては、私が読んだ賛成派の税理士さんが執筆した本に記載されていた、
「消費税は消費者と売買する際に課税されるもので、それを事業者が分担して納税する。仕入れ税額控除は、その分担金額を算出するために使うパラメータ」
と、同様になる。

「全事業者の納税額総計=最終販売価格の消費税」になる
「消費者の代わりに事業者が分担して納税」と結局同じ

言うなれば、反対派は1つの事業者の収支に着目して消費税を説明し、
賛成派は事業者から消費者に渡るまでの全工程に着目して消費税を説明している
といえる。

ここ数日、消費税法を眺めているうちに、
「法令って、日本語で書かれたソースコードだな」
と気づいた。

  • 記述ルールが厳密に定められており、一行単位では、意味が厳密に定まる。

  • 素人が読むと、全体として何を実現しようとしているのかよくわからない。

このあたりが、まさにプログラムのソースコードだ。

そして、プログラムの場合には、全体として何をやっているのかを説明する仕様書があったりなかったりするのだが、法令というのは、全体として何をやろうとしているのかを説明した仕様書が存在せず、「ソースコードが仕様です (`・ω・´)キリッ」と言っている代物と捉えることができる。

そして、これを消費税法に当てはめてみると、

【実装】「課税事業者が、売り上げの10%から仕入れ税額控除分を引いた額を納税すること」だけが定められている

【仕様】以下2通りの解釈が可能。

ちなみに、
「過去の裁判で、消費税は消費者からの預かり金ではないことが認められています」
と、今回のインボイス問題が語られる時に、たまに出てくる過去の裁判の話。
東京地方裁判所 平成元年(ワ)5194号 判決 - 大判例

この判決で述べられていることが、「どっちの解釈が正解なの?」に対する公式見解だと思うのだけど、判決文を読んでみたところ、
「消費税のコンセプトは前者だけど、実態を鑑みると後者だね」
というニュアンスに読めるので、前者も後者も否定していない、というのが実際のところのようだ。

ちなみに、もしも、消費税を消費者からの預かり金だと断定するならば、
たとえば、小売店が領収書に消費税を記載せずに運営している免税店だった場合、
消費者から消費税をもらっていないのに、
小売店へ卸すまでの工程に関わっている事業者たちからは消費税をもらっているので、
「あれ?国が余計に税金を徴収していない?」
ってことになる。

消費者から消費税をもらっていないのに、国は消費税をもらっている

「消費者からの預かったお金を事業者が分担して納税しています」
と言い切るには、消費税は色々と無理のある制度なのだ。

なので、コンセプトは前者だけど、実態は後者。
というところで、当時の大蔵省も、現在の財務省も合意しているのではないかな、と思う。
(ちなみに、「消費税が消費者からの預り金かどうか」という話と、今回のインボイス制度導入によって問題が起こる原因とは、まったく関係ない)

そんなわけで、賛成派も反対派のどちらも、基本的な消費税の説明に関しては間違っていないのだけど、以下理由から、多くの国民には反対派の言っていることが理解できない。

  • 多くの一般消費者は、自身が購入時に支払った消費税を購入した店がそのまま全額納税しているのだと思っている。

  • 多くの一般消費者は、自身が免税事業者の店で支払った消費税が納税されていないシチュエーションを想像して発言している
    →消費者が仕入れ税額控除することはないので、今回の問題には当てはまらないシチュエーションなのだが、消費税のしくみを知らないため、そのことがわからない。

  • 反対派が、一般消費者の感覚に寄り添う説明をしていない。

  • 一部の反対派たちが、過去の裁判の結果を「私たちが消費税をもらうことは裁判で認められている」という誤った使い方をしてしまっている。
    →判決文で述べられているのは、「消費税の実態は事業者の売り上げへの課税であり、免税事業者に消費税の納税義務はない」ということ。

これらにより、
「法令の解釈をこねくり回したり、過去の裁判結果を盾にして、自分たちに都合の良い主張を押し通そうとしている」
という印象を多くの国民は反対派の説明に感じてしまうのだ。

ちなみに、前者も後者も解釈が異なるだけで実装ルールは同じなので、
賛成派、反対派どちらの文脈からでも、今回発生する問題を説明することは可能だ。

  • 「消費税は消費者との売買に課税されるものを、事業者が分担して納税する仕組み」の場合(賛成派の文脈)
    →課税事業者が分担金額を算出する際に、これまで免税事業者との取引も「なんちゃって消費税」として控除できていたのが、インボイス制度導入によりできなくなることが問題

  • 「消費税は事業者の売り上げに課税されるもの」の場合(反対派の文脈
    →課税事業者が消費税納税する際に、課税仕入れとして仕入れ税額控除することを認められていた免税事業者からの仕入れが、インボイス制度導入により、なぜか控除できなくなることが問題

プロの見解を聞く

一番確認したかった謎の解けた私は、
続けて、税理士さんに、プロとしての見解を尋ねた。
「もしも過去にさかのぼれるとしたら、今回の件は私たちがどうしていれば防げたと思いますか?」

軽減税率導入された時に決まっていたことを、今になって騒いでんなよ。ここまでの準備をしてきた人達だっているんだから。
そんな声も、ちまたでは聞く。
たしかに、マイナンバーにしたって何にしたって、国の施策というのは数年単位で粛々と準備が進められているもので、そこに膨大なお金や時間が費やされている。
だけど、このインボイス制度が誰も得しないような制度であることも事実だ。
じゃあ、私たちは、どの時点でこの問題に気づいて、どういう手を打てていれば防ぐことができたのか?

税理士さんは、うーん…と少し考えてから、
「1年前。1年前にもっと世論でこの問題が騒がれていれば防げていた可能性がある」
とおっしゃられた。

そんな程度の過去でいいのか、軽減税率導入前まで戻らなくていいのか、
と私はちょっと驚く。

「軽減税率導入時は、併せてインボイス制度を導入するのは大変だからという理由で先送りになったので、そこまで戻らなくてもいいと思います」
税理士さんの言葉に、なるほど、と思う。
たしかに、中止は無理でも、「今やるのは違うでしょ」と延期させることは、もう少し早ければ、そこまで難しい話ではなかったのかもしれない。

『インボイスを導入するというのは、仕方ないのかもしれない。だけど、なぜ今なのか。コロナで大打撃を受けて、まだその影響が続いている中で、どうしてそのコロナの影響を受けている最中の業界に、さらに追い打ちをかけるようなことをするのか』
この間、お話し会で聞いたセリフが蘇る。
STOPインボイスの署名活動が始まってすぐの頃、あるいは、1年前にインボイスの書籍を読んで引っかかりを感じた時に、すぐに動き始めて、この2週間でやったことをやって問題の全容を把握して、無関心なサラリーマン層を巻き込む手を打ち始めていれば、延期に持って行ける可能性は充分にあったのだ。

税理士さんは続ける。
「2,3年前に税理士業界にインボイスを導入する旨の通達があって、でも、自分たちは日頃、こんな風に税制について議論することもないので、日々の業務に追われて――顧客も税制がどうのよりも目の前の数字の方に興味があるし――そんな風にしているうちにここまで来てしまった」

私たちは、いつも目の前のことを優先して日々を過ごして、
そうして、問題が差し迫る頃には、取れる選択が限られた状態になっている。

各々が目の前の仕事や生活を優先することは、当たり前で仕方のないことだ。
だけど、日頃から困りごとやちょっとした情報を共有しあうことで、問題を芽のうちにキャッチして、早めに動き出すことのできる仕組み。
そんなものを作れれば、同じことの繰り返しを防ぐことはできるかもしれない。
先日の知人たちとの勉強会で共有した学びも思い出しながら、そんなことを私は思った。

さらに続けて、税理士さんに質問してみる。
「このままインボイス制度が導入されたとして、その後に、法令の改正を求めるために何か突けるところってありますか? 今まで事業者に認められていた控除がいきなりできなくなるっていうのは、やっぱり何かおかしいと思うので…。そのあたりを裁判で訴えることとかってできないでしょうか?」

税理士さんは、少し考えてから、
「免税事業者がインボイスを発行できないのは違法ではないか、というところかな」
と答えた。

なるほど。
たしかに、国税庁のサイトには堂々と「免税事業者からの仕入れは課税仕入れとみなす」と書いてあるのに、免税事業者がインボイス発行できないがために仕入れ税額控除できない、というのは法令の問題として突けるポイントのように思える。

こんな風に、プロの見解を交えながら、
二の手、三の手を考えていくことも大事だろうな、と思った。

色々と有意義なお話しを伺えて、今日はどうもありがとうございました、
と最後、税理士さんに挨拶しているところで、
同席していた知人が、
「彼女は税理士たちが陰謀を企んでいるんじゃないかって考えてたのよ」
と笑いながら、税理士さんに暴露した。

ネット上で、賛成派・反対派どちらの税理士たちも、今回の問題が起こる原因をきちんと説明していないがために、ピントのずれた不毛な議論や対立が起こっているように見えた私は、
「これは、税理士たちが賛成派、反対派に分かれているように見せかけて、実は、裏でつるんで議論をミスリードさせて、制度導入までの時間稼ぎをしているだけなのではないか?」
と税理士たちを疑っていた。

今回、税理士さんと話していく中で、そういうことではなかったんだろうなーと思うようになっていた私は、
そんな恥ずかしいことを暴露しないで…とちょっと焦ったが、
知人のセリフを聞いた税理士さんは、
「あぁ、でも税理士によっては財務省と繋がりの濃い人もいるので、そういう人たちもいると思います」
と言った。
税理士たちも一枚岩ではない、ということだ。

ちなみにお話しした税理士さんはインボイス制度導入には反対の立場で、ぎりぎりまで反対の姿勢を示せないかと、
いったん登録したインボイスを取り消して、ぎりぎりまでインボイス登録せずに粘っているそうだ。

先日、STOPインボイスの活動をされている方の主催するお話し会でも、
「インボイス登録する人数が増えなければ、国も折れる可能性があるから、ぎりぎりまでインボイス登録しないのも手だ」
という話があった。
署名だけでなく、そういう形で反対の意を示すこともできるのだ。

私は早々にインボイス登録は済ましてしまったのだけれど、
この日、税理士さんに色々話を伺う中で、
「あれ?私の場合は、もしかしたらインボイス登録せずに免税事業者のままでも問題なかったかも??」
と思うことがあり、
反対の意の示し方を考えるにおいても、知識って不可欠なんだなぁとしみじみ思った。

ある会計士さんの記事を見つける

税理士さんとのお話しを終え、ひと心地ついた私は、
自分がこのところ立て続けにインボイスの件で投稿していたnote記事に「スキ」を付けてくれた方々のプロフィールページを、休憩がてら、ひとつひとつ確認し始めた。

単に自分のページに誘導するために、機械的に「スキ」を押したんだろうなぁと思われる人もいるけれど、何か引き合うものがあって「スキ」を押してくれたんだろうなぁ、と思う人もおり、その人達の記事は読んでいて興味深かった。

そうして、一人ずつ確認している中に、
ある会計士さんのアカウントがあった。
その会計士さんが1つだけ投稿している記事は、ドンピシャの、インボイス制度と消費税に関するものだった。

おっ、と思いながら、私は記事のページを開いて読み始める。
そして、読み進めていくうちに、おぉぉぉ!と震える。

その記事では、消費税やインボイス制度の基本的な仕組みが、具体的な数字と図を交えながら、1つずつ丁寧に積み重ねられていくように説明されていた。
さらには、法人税と消費税の比較とか、
実はサラリーマンも益税もらってるよ、とか、
プロならではの観点で今回の問題を丁寧に説明してくれていた。

あったよ!これ!これだよ、これ!
「まともに今回の問題を説明してくれている税制のプロが誰もいない!」
とか、今まで思ってて、ごめんなさい。
そうだよね。私が気づかなかっただけで、ちゃんといてくれたんだよね。

記事を読み終えて、
いやぁ、素晴らしい記事だった、と感動しながら、「スキ」を押そうとしたところで、
「は?」と固まる。

スキの数「2」。

・・・・・。
素人の私が書いた解説記事よりもスキの数が少ないって、どういうこっちゃ?

記事は2週間前に公開されたものだった。
スキの数と閲覧数はそれなりに相関関係があるはずなので、
おそらく、あまり人の目についていないのだろう。

この2週間だけでもSNSでは、
「結局インボイス制度って何が問題なの?」
というつぶやきと、それに対する要領の得ない回答が飛び交いまくっている。
ここに、こんなにも想いとエネルギーの詰まった素晴らしい記事があるにも関わらず、その存在に気づかずに、不毛な言い争いが続いているって、どういうこっちゃ。

うすうす、気づいてはいた。
ネットというのは、
「目立つものが目立つ」
「地味なものは目立たない」
「フォロワー数と注目度が比例する(質より量)」
なんだろうな、と。
だけど、ここまでだったか~~~~~~!
と、ショックでうなだれる。

良い記事見つけたよ、と知人たちにSNSで紹介し、
それを見た、フォロワー数の多い知人が
「これは良い記事だ」
とリポストしてくれたおかげで、この記事にたどり着く人は少しばかり増えてくれたように思うのだけど、
「ネット上で見えている情報」っていったい何なんだろうなぁ…
と、ため息をついた。

ネット上で目立つもの

インボイス問題に関わる消費税のことが、あらかた理解できた私は、
その知識を持った状態で、ネット上の反対派の有識者たちの発言をあらためて眺めた。

一般消費者たちに彼らの説明が理解されづらかったのは、
彼らの説明の文脈が、
「消費税は事業者の売り上げに課税されるもの」
という一般消費者の感覚と異なる方を採用していたことや、
彼らの説明下手なところなどが原因だったのだろうか?
そう思ったからだ。

しかし、彼らの発言を眺めているうちに、
そうではないな、と思った。

私の目には、そもそも彼らは、
一般消費者に消費税のしくみやインボイス制度のことを理解してもらおうという気が、はなからないようにしか見えなかった。

たとえば、以下は、万単位のフォロワーを持つ反対派の税理士さんが、「これは良い記事だ」とSNSで紹介していた記事だ。

<勘違いしている人を見分けるキーワード「益税」>

「インボイスを勘違いしている人を見分けるキーワードが「益税」「ネコババ」です。まず多くの人々が素朴に消費税について思っていることは何かというと(中略)でもこれ嘘なんです。『嘘だ』と言っているのは僕じゃないんです。財務省が国会で言っているんです。法的にそうなっているからなんですね。この一点を押さえればインボイス制度の本質が見えてきます。(中略)インボイス制度は0%から9.1%に上がった分の税金を納めてもらう制度です」

じつは「インボイス制度」を勘違いしている人が多い…導入直前に露呈した「消費税の正体」

これを読んで、消費税やインボイス制度について、何か理解が深まるだろうか?

  • 「益税」という言葉を使っている人は、勘違いしているらしい

  • 消費者の持っている消費税に対するイメージは嘘だと、財務省や法令が認めているらしい

  • なんかよくわからないけど、インボイス制度で9.1%税金が上がるらしい

たぶん、こんな印象だけがぼんやりと伝わるけど、「でも、なんで?」と首を傾げるだけだろう。

消費税のしくみやインボイス制度について、よーく理解した上で、この記事を読めば、
「あぁ、この文章は、あのことを指してるな」
というのはわかるけど、
何もわからない人間が読んだところで、何も理解できない。

ついでに、色々理解している人間からすると、
「『これまで課税事業者は、免税事業者との取引を仕入れ税額控除して益税を得ていた』『サラリーマンも益税をもらっている』って言ったら、勘違いしていることになるのかな?」
なんて、からかってしまいたくなるレベルの記事だ。

こんな記事をいくら紹介したところで、
「法的に認められていることを笠に着て、今まで免税事業者が消費税をもらってたんでしょ。それがインボイス制度導入によってできなくなるってことでしょ。なんでそれで私たちが値上げを被らなくちゃいけないの。免税事業者たちが、ちゃんと支払いなさいよ」
そう思われるのがオチだろう。

結局のところ、彼らは、
自身の主張(結論)ばかりを声高に唱えて、
自身の主張を擁護する人や記事を礼賛し、
異論や疑問を唱える人を敵とみなしたり、無視したり、「勉強しなさい」と言ったりするだけで、
この問題に関心を持ちつつも首を傾げている人達に、
「なにが問題なのか」「なぜ問題が起こるのか」を本気で説明する気などなかったように、私の目には映るのだ。

反対派と一口に言っても、
私がお話しさせてもらった税理士さんも、
上で紹介した記事の会計士さんも、インボイス導入に対して反対の姿勢だ。
だから、これは「ネット上で目立っている有識者たちの傾向」だ。

人は、「わかりやすいもの」を好む。
わかりやすい答えを提示してくれる人、
わかりやすく誰が悪いかを言ってくれる人、
わかりやすく、どうすればいいかを教えてくれる人。
人々は、そういった人間や記事を好んで推し上げる。

だから、「なぜそうなるのか」という問いではなく、
「これが正しいのだ」という答え、つまりは主張ばかりが目立ち、
そうして、主張 対 主張の対立が起こる
のだろう。

全てをつまびらかにすれば、ほぼ全員一致で、
「少なくとも導入延期はした方がいいだろう」
という結論が導き出せそうなインボイス問題ですらも、
こうした流れで、こんな不毛な対立を生んで、私たち国民は悪手を選択してしまうのだ。

このインボイス問題は、
私にそんなことを気づかさせてくれた経験だった。

(つづく)

次の話→Day6 SNSで見知らぬ人々の誤解を解くことを試みる

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